第5話 大会への招待1
電話が来たのは夜も深くなってからだった。
玄関前の廊下に置かれた黒塗り電話が、静寂を破って鳴りまくる。
面倒だが電話は止まらない。
誰だよこんな時間に……。
母はまだ起きているが、如何せん近所迷惑になるだろう。
なにせこの古い電話が鳴るのなんて久しぶりなんだから、みんな何の騒音か分からないはずだ。
「ああ。こんばんは。やっぱりあなたが出てくれたのね、メイ」
しかめ面でとった受話器から聞こえたのは、大人の女性の声。
親しいわけではないが、まったく知らない人物でもなかった。
張りのある声でハキハキしゃべるこの街の市長、リン氏だ。
彼女からの電話はいつもそうだ。
何か頼み事があるとき、駆け抜けるような早口で掛けてくる電話は、ちょっとおどおどしている人物なら喋らせてもらえる隙さえないだろう。
「突然だけど今度の競技魔術大会、あなたに審判を頼みたいの。審判団に一人欠けが出てしまってね。街中の魔術師に声をかけてるんだけど、みんな選手として大会に参加するっていう子ばかりでなかなか決まらなくて困ってたの。それで、メイタロウは今度の大会は出場を見送るって聞いてね。ちょうどよかったわ。……じゃあ打ち合わせは明日の十三時。大会の会場で」
「審判!? ちょ、ちょっと待って下さい、先生! 僕は……!」
「じゃあ、遅くにごめんなさいね。また明日、メイ」
ガチャッと、無情にも一方通行の電話は終わった。
受話器を片手にしばらく立ち尽くす。
掛け直そうにも相手の番号を知らない。
明日の予定はいつもと同じく『無』だったのに、やることができてしまった。
……審判の依頼を断るために魔術大会の会場に赴く。
月明かりをカーテンで遮れば、今日を締めくくるため息が出た。
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