第4話 我が家
不規則に点滅する街灯。
それをくぐれば、そこはアップタウンとダウンタウンの中程。
我が家の位置する古びた住宅街だ。
閑散とした狭い通りを、ヒューッと夜風が吹いていく。
落ち葉の舞い散る石畳を踏み、メイタロウは今日も肩を落として家に帰り着いた。
雑草に覆われた小さな庭と、白い壁に赤い屋根の家屋。
今では見る影もないが、かつてはこの辺りでもそこそこの名物件だった。
ゆっくりと鍵を開け、軋むドアをくぐる。
居間にはつぎの入ったソファーにもたれ、テレビを観る母・ヨウコの姿が。
三段になったお腹にクッションを乗せ、ボウルに満載のクッキーを傍らに置き、すっかり部屋と同化している。
まあそれでも気を使わぬ二人暮らしなんだからお互い一向にかまわない。
すでに夕食をすませてしまっている母の後でキッチンに立つ。
鍋に残った昨日のシチューをコンロの上に乗せた。
ぼんやりと眺めれば、コポコポ泡を吹きはじめる鍋の中身。
夕飯をあっためながらふとリビングの母を見る。
なんだろう。なんだか今日はいつもと何かが違うような。
テレビに映るのは、もう何回目の再放送か分からない『魔法任侠一人旅』だ。
昔からある有名な人情ドラマだが、主人公が強大な魔力で悩める人々の事件をサクサク解決していってしまうので、正直そんなに面白くない。あと一騒動終えた後に切るタンカが非常に陳腐だ。あくまで一個人としての感想だが。
うん? そういえば今日の魔法任侠、やけに色鮮やかだな。
不思議だ。カラーテレビに映った映像みたいに見える。
そう、カラーテレビみたいに……。
「って母さん、そのテレビはどうしたの!?」
「え? これ?」
大慌てかつ大声で尋ねた息子に、母はのんびりゆっくりキッチンを振り向いた。
「今気付いたの? やっぱりその眼鏡、ピントが合ってないんじゃない?」
「そういうことじゃなくて! テレビ! 昨日まで白黒だった我が家のテレビ! 一体どうしてカラーテレビになってるの!?」
「ああこれ。スオウがプレゼントしてくれたのよ。またお給料が上がったからって」
「……!」
いつだって欲しくても買う余裕のなかった高価なカラーテレビ。
それが家にある理由は、聞けば納得、しかし意気消沈の一言だった。
そう。母の言葉は一気にメイタロウの気分を沈ませた。
息子の様子に構わず、母は再びのんびりと口を開く。
「あらあなた、昼間スオウに会わなかったの?」
「……うん」
「そう。じゃあ家に来た後すぐに宿舎に帰ったのね。大会運営側でホテルをとってもらってるって言ってたもの」
へえ。
そういう相槌しか打てなかった。
夕食をかっ込んでさっさと自室に逃げ込む。
そうしてそのままベッドの上に座り込み動けなかった。
天井を仰いで、窓から入る月明かりに流れていくホコリを見ていた。
ずり落ちてくる眼鏡を乱暴に外す。
気分を変えるために手を伸ばすレコード。たまたま取った題名は『決して戻らぬ時』。
はああとため息が出た。
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