四話目
「千鶴さんにはこっちがあいますかね?」
私に服を渡しては、目の前で吟味している。その姿が必死で可愛くて、少し笑ってしまう。
「ふふ。どうかしら? 私にこんな明るい色、似あう?」
少し質問をしてみると、美紀はまるで跳ねるような勢いで。
「とても似合います! あ、でも……。千鶴さんにはやっぱり暗い色が雰囲気に……」
真面目に、まるで女子高生の様に悩む姿がやっぱりおかしくて、また笑ってしまう。
「ふふっ」
「……? あっ、すみません。はしゃぎ過ぎちゃいまし、たか……?」
「全然いいのよ。ただ、可愛いなぁと思って」
彼女をジッと見る。彼女に合う服はなんだろうかと。
ワンピースなど女の子女の子した服はあまり着ないと言っていたが、着てみたらとても似合うと思う。
一度、見てみたいと思った。
「可愛いってもう……照れますよ!」
少し拗ねた表情になってまた、服を吟味し始める。なんというか、純粋な子だなぁと思った。
自分にもこんな時があったことを思い出した。
「……もう、昼頃になるわね。何か食べたいものはある?」
「あ、もうそんな時間ですか?……もう少し、もう少しだけ悩ませてください!」
「今、どれとどれで悩んでくれてるのかしら?」
「この二着なんですけど……」
「ふふ。折角の休みに可愛い美紀が選んでくれた服だもの。どっちも買うわ」
「え? 本当ですか!?」
まるで自分が服を買ってもらえるみたいに喜ぶ美紀。本当に、本当に可愛い子。
「ええ。選んでくれてありがとう」
美紀が選んでくれた服を手に取り、レジに持っていく。
自分がいつの間にか服を選ばれる側になったことに、酷く深く、後悔と怒りが込み上げていた。
ポケットに入れているスマホが震えた。
今の私には、どうでもいいことだった。
「これ、お願いします」
私はいつも、レジに服を持っていくのを見ている側だった。本当は私の服も選んで欲しかったけど、彼はファッションには疎いようで、私の服を選ぶことは殆どしなかった。ただ、よく私が自分で選んだ服を、可愛い、似合ってると褒めてくれた。
それがとても、嬉しかった。
千鶴は清楚だから、白い色がとても似合う。
千鶴は綺麗だから、暗い色がよく映える。
いつも、私の服を見て、彼の中で何故その服が似合うのかを分析して、言葉に出す。その行為がとても嬉しくて、彼とのデートの前日は、よくどの服を着て行こうか迷っていた。
嫌なことを、思い出した。
「さぁ、美紀ちゃん。何を食べに行こうかしら?」
私はもう。そちらには戻れないのかしらね。
本当は、戻りたいのだけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます