三話目

 別れは、淡々としている。

 ただ、自宅を一緒に出て。駅のホームまで送るだけ。 その時の言葉も。楽しかったよ、元気で。それだけ。 きっと顔なんてすぐ忘れてしまうのだろう。名前も、声も、形も、趣向も、全て。ラインすらも交換していないのだから。

「楽しかったよ、元気で」

「俺も、凄く楽しかったっす。そちらこそ、お元気で」

 改札口に消えていく姿を見送って、背を向ける。

 何十と経験した別れ。最初こそ寂しかったが、今はそうでもない。慣れというのは恐ろしいものだ。

 ただ、なんだろうな。この感じ。悲しいとは、また違う。虚しい、とでも言うのだろうか。

 よく、分からない。感情なんてものは、言葉にして無理に理解しようとしても疲れるだけだ。

 第一、俺はそういうのには向いていない。

 俺よりアイツの方が、よっぽど向いているだろう。

 雑多でごった返している駅のホーム。アイツの姿が無いかとふと見渡した。

 いる訳がないと思いながら二・三度、首を行ったり来たりさせて。

 プラトニック振るな。自分にそう吐き捨てて、探すのをやめた。

 ふと、スマホを見る。いつの間にか、おはようと返信したラインに既読が付いていた。普段ならここで終わる二人の会話だが、不思議と今日の俺は心にポッカリと、虚ろな洞が空いてしまっていた。それを埋めるように。

『今、何してる?』 

 何十にも何重にも。捩じれ曲ってしまった二人の関係だ。今更純情な感情など、問屋が卸さない。犬も食わない。果てには鬼が笑う。

 嫌になるな。そう思って、歩き出した。

 ふと見た空は、朝とは打って変わり、鉛色になっていた。うだつが上がらない昼下がり。俺はただ一人。

 昼ご飯を帰って作る気にもなれなくて、近くにあったファストフード店に入って、メニューに写る油っぽい料理を注文した。

 食事中ずっとスマホを触っていたが、返信は俺がポテトを全て食べ終わっても、まだ来なかった。

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