第59話 死因
二百年前、江戸時代後期、ちらほらとロシアが来たりイギリスが来たりしていたが、それでも国家として陰陽師は活躍していた。
闇の者も妖も、夜の暗闇に紛れて人々を脅かしたり、恨み辛みを叶えたり。
その中で陰陽師達はそれらと対峙していたが、霊能力を持った人間が生まれ、彼らを育てるより悪霊が増える数の方が多い。
小さな恨みが寄り集まって大きな恨みになり、やがてそれは大きな悪霊となる。
人に取り憑き、動物に取り憑き、数を増やしやがて一匹の悪妖となる。
それを倒すのが陰陽師の使命だが、日に何百件と報告される被害にはとても人が足りなかった。彼らは式神を従い悪妖と戦うが、式神は使い捨てのようなもので、最たる使命は主人を守る事だった。時には己の命を捨ててまで。
桜姫はそれら式神を哀れに思い、人も式神も区別なく癒やし助けた。
しかし陰陽師達はそれを良しとしなかった。
式神へ使う余分な能力が余っているなら人に注げ、目前の悪妖を倒す為には傷ついた式神は捨てておけと指示した。桜姫はそれには従わず、闘いに出る式神の全てを癒やした。自らの霊能力が空っぽになり、気を失うまで。
だからこそ式神は桜姫を慕い、彼女の周りには赤狼を初めとした力ある式神達が集った。
しかし桜姫の能力は諸刃の剣だった。
敵味方関係なく、万物の能力を癒やし回復する再生の気は、悪霊悪妖にも魅力的な力だ。そして桜姫を味方につければ百万ともいえる式神が守護につく。
これは人間界でも彼女を争奪する戦となりかけた。
今現在よりも夜の闇には悪霊が棲んでいると民衆は信じていた。
オカルトなどというワードすらない時代、信仰、宗教と共に本気で信じられていたこの世の者ならざる闇の世界。
蝋燭の灯りだけで寝食をしてた時代、闇はそこらかしにあり、その奥から聞こえてくり悪妖の息づかいは今よりももっと身近だった。
それは庶民だけでなく、支配階級にある武士や華族もそうだった。
桜姫を奪おうとする者達から守っていたのは赤狼だったが、彼の死後、その争奪戦は勢いを増しそれは桜姫を死に追いやる原因ともなった。
政治に利用され、悪霊に狙われ、さらには土御門内でも争奪戦が行われる。
桜姫を娶った者が次代、土御門総領との声が大きくなる。
己の能力に自信のある土御門は全てこの争奪戦に加わった。
桜姫の言葉を聞く者はおらず、残った十二神は自らの主に桜姫を奪えと言いつけられる。主を裏切る事は消滅を意味するので、彼らは掟に従わなければならなかった。
最後まで執拗に桜姫を狙ったのは土御門最強能力を持つ、元より次代を背負っていた直系長男の土御門春清と、土御門末端でありながら春清に迫る能力を授かった町民の平吉。平吉は土御門の名字を名乗ることを許されてなかったが、悪霊を退ける能力は素晴らしかった。街角で浮遊霊で遊んでいる所を見いだされ、修行に加わり土御門の末席に加えられたが、町民であることで陰湿に虐められ、恨み辛みから土御門で権力を持つことを望んでいた。
彼らはお互いを亡き者にして桜姫を独占しようと目論んだが、彼らの能力はほぼ互角でいつまでたっても決着がつかなかった。
そして彼らは手を組む道を選んだ。
春清は平吉に身分と権力を与えることを約束し、平吉も不毛な戦いに飽き飽きしていたので彼と手を組む事を承諾した。
今、土御門にとって第一の使命は桜姫の能力を上手く使い、江戸の夜を脅かす悪霊どもを始末することだった。その為にはどんな犠牲も許された。
桜姫がもっと大勢必要だ。そうすれば桜姫を取り合わずに済むのだ。
そして土御門で最強を謳う二人は、力尽くで桜姫を陵辱し子を産ませようとした。
桜姫は絶望し何もかもを諦め、赤狼が桜姫を守って死んだ峠から自ら身を投げた。
最強の治癒陰陽師、桜姫の生まれ変わりだそうですが、このまま戦力外でお願いします。 竜月 @kasai325
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