第55話 桜姫の悲しみ
桜子が目を覚ますと、真夜中の自分の部屋のベッドの中だった。
疲れ切った身体は重くだるく、頭も痛い。
身体を起こすとベッド下の床で赤狼が眠っている。
両前足に頭を乗せて目をつぶっていた。
「赤狼君も疲れたよね」
と桜子は呟いてからまたぱふっと布団の中に潜り込む。
蘇った前世の記憶を反芻する。
確かに桜子の前世は桜姫だった。
癒やしの見鬼として生まれ、式神達と共に悪霊、魑魅魍魎と戦うだけの人生だった。
赤狼と心を通い合わせた事も思い出した。
それは楽しく幸せな日々だった。
妖と人でも心を通い合わせる事は出来る。
相手を思いやる、その気持ちだけで十分だった。
だが、赤狼は自分を守って死んだ。
まるで、名誉の死のように。
その時、桜姫は十五歳で今の桜子と同じ年だった。
赤狼の死後、桜姫がどうなったのか赤狼は知らない。
「必ずまた会おう」と言って赤狼は死んだ。
だが桜姫の残りの日々は再び赤狼に会いたいとは思えないようなものだった。
思い出さなければ良かった、と桜子は思った。
何故、私に過去を思い出させたのか。
鬼が来たから? 鬼を呼び出したから?
赤狼がいたから金の鬼の出現も最低限の被害で押さえられたのだ。
赤狼は皆の命の恩人だ。
当主を始めとした土御門の人間達も、式神達が結界を張ってくれたから近隣にも被害を出さずにすんだ。それも赤狼の指示だ。知能が高く、行動力がある、妖力も強く、金の鬼とも互角に戦った。
(赤狼……なぜ……姫を一人にして逝ってしまったのじゃ……何故、一緒に連れて行ってくれなんだ……)
濃い姫の悲しみが桜子の中に渦巻いていて、それはとても悲痛な叫びだった。
赤狼もどうしようもなかったに違いない。
姫桜を助ける為に仕方なく自爆を選んだのだろう。
桜姫は私か? 私は桜姫か? 桜姫の悲しみは私の悲しみか?
暗闇の中で桜子は自問し続けた。
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