第56話 転校生がいっぱい
土御門本家半壊、式神の住まう庭半壊、神道会館全壊、駐車場、事務所を含む自社ビル全壊、被害総額○○億円也。
以上の損害を出して土御門家は修復工事が始まり、陰陽師達はまた祈祷、祓いなどの生業を勤め、弟子達は修行に励み、学園の生徒達も元の生活に戻った。
事件を起こした張本人の如月は次代を解任、一族も破門という処罰をくだされそうだったが、本人の反省もあり破門だけは免れた。他県の分家預かりになり、心身共に修行のやり直しという事態に収まった。如月が本家を去る日、その傍らに川姫の姿があった。彼女はにこやかな顔で如月に付き従い、共に去って行った。
如月の四天王としていた桔梗、弓弦、薔薇子、尊にもそれなりの叱責があり、特に薔薇子は人間の魂抜きをした罪を問われた。集めた千個の魂を元の人間に戻すまでは、土御門薔薇子の名を名乗る事を禁じられた。薔薇子の卜いの館も閉鎖、万が一、魂を千個元に戻せなければ薔薇子の霊能力を封じるにあたる、との勅命さえ出されたのだ。その沙汰に薔薇子は腐ったが仕方なくせっせと病人の所へ通い、加持祈祷と称して魂戻しの術を施している。
当主の左京は自ら退陣を表明したが、こんな壊滅状態で退陣される方が無責任で困る、本家の立て直しが先、さらに如月の抜けた次の代を育てなければならないという事でまだ忙しく当主としての責任を果たしている。
「ほな、授業はこれでおしまいや」
と教壇に立っていた紫亀が言った。
「桜子、お昼に行くにょん!」
ブレザー制服を着た水蛇が桜子の席に走ってきて立ってそう言った。
「う、うん」
「なんか最近、転校生多くない?」
と真理子が後ろの席から小声で言った。
「そ、そう?」
桜子はドキドキしながら答えた。
「だって、ほら、水蛇さんに、緑鼬君でしょ? 同じクラスに何人も来るなんてねえ。しかもみんなちょっと変わった名前よね」
「う、うん。この学園、私立だし」
と自分でも何を言っているのか分からない答えを言いながら、桜子はランチバッグを持って立ち上がった。
「真理子もカフェ行こうよ」
「うん」
「早く早くー!!」
幾ら私立の学園でも水色のポニーテールの髪の毛とかいいのか、と思いながら桜子は前をスキップで歩く水蛇を見た。
「ほら、早く早く、席取ってルっす」
といつの間に先回りしたのか、つんつんヘアーのパンク少年、緑鼬がカフェの店内で手を振っている。
「あり……がと……」
テーブルにはすでに赤狼が座ってコーヒーのカップを口に運んでいた。
その隣に金髪の少年が座ってパンケーキを食べていた。
「赤狼君、この子誰? 弟じゃないわよね? 金髪だし」
と真理子が言った。
「えーと、知り合いっていうか、親戚、みたいな感じ。今度小学部に転校してきた」
と赤狼が言った。
「可愛い~~金髪でグリーンの目なんて王子様みたい!!」
と真理子が言った。
「え?」
と桜子はまじまじと金髪少年を見た、というか意識を集中して視た。
うっすらと金髪の頭部に角が視える。
「よろしく」
とパンケーキのカスを口につけて、金の鬼がにっこりと世にも可愛らしい天使のような笑顔で言った。
「あの子供、あの金色の鬼よね?」
桜子は赤狼から一つ置いた水蛇の隣に座って小声で言った。
「闘鬼は位一位のくせに人に化けるのは下手にょん。どうしても子供になってしまうにょん」
「えー、でも、どうしてこの学園に?」
「楽しそうだからにょん。水蛇も緑鼬も御当主にお願いしたにょん」
「だ、だって闘鬼さん、赤狼君と殺し合うほどの勝負したじゃないの! あれは何だったの?」
「あー、鬼は寝起きが悪いにょん。自然に目が覚めたらそうでもないんだけど、妙な呪言で起こされたからめっちゃ怒ってたにょん」
「え、何よそれ!」
桜子は赤狼の向こう隣の闘鬼をそっと見た。
金髪の可愛らしい顔の少年がぱっと振り返って、にやりと笑った。
その顔は天使でもなんでもなく、金の鬼に間違いなかった。
「赤狼なんぞ弱すぎて話にならない。少し遊んでやっただけだ」
と闘鬼少年が言った。
「ぶっ」と赤狼がコーヒーを吹き出し、
「クソ鬼、何ならもう一回勝負してやろうか」
と隣の闘鬼を睨んだ。
水蛇や緑鼬がクスクスと笑った。
桜子は闘鬼にひきつった笑顔を見せた。
「そ、そう、よろしく」
と言って水蛇の影に隠れるようにして、ランチボックスを広げた。
その桜子を赤狼はじっと見つめている。
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