第29話 尊の目論見 2
図書室の窓際でそんな考えに集中していた尊はガラッと開いたドアに驚いて振り返った。
「や、やあ君か」
制服姿のままの桜子が立っていた。
「お手伝いに……」
「ああ、待っていたよ」
猫なで声でそう言いながらにこやかな笑顔で近づいてくる尊を桜子は少々警戒した。
土御門でこんな風に優しく接された事は一度もない。
幼い頃は同世代の仲間とそれなりに仲良く遊んだりした事もあったが、能力が現れた者から順に離れていきそして最後の一人になった頃には誰も桜子に声をかけようとしなかった。五歳を過ぎて桜子は戦力外とされ、それから学園の寮に移るまでは一人ぼっちで過ごしてきた。広大な庭に漂う式神達でさえ同士でからまったり、実力を争ったりしているというのに桜子はそれを縁側で眺めながら孤独を噛みしめた。
「じゃあ、この段に巻物があるだろう? ずいぶんと古い物でね、修復が必要な物があると思うから選別してもらっていいかな? あ、手袋をはめてからね」
白い手袋を渡されて、桜子はそれを受け取った。
「全部、こっちの机で広げてみてくれるかい?」
「はい」
言われた通りに桜子は手袋をはめて巻物の棚に手を伸ばした。
尊は桜子の背中を見ながら、パソコンを起動した。
二百年前の再生の見鬼の名が桜姫だったなと思いだし、桜子との関連を考えた。
もしかして転生か? 確かにそれはあり得る。
自らの研究を自分のパソコンにデータ化している尊は再生の見鬼のページを読み出した。桜子の能力を見てから急いで作った項目で、古い文献から抜粋して記述した物だが、改めて読み直して尊の表情が変わった。
「桜姫と申す再生の見鬼、十二神の筆頭式神である日本狼の最後の長、赤い狼を眷属とし」 と書いてある。
「赤い狼……赤狼、そうか、人外の者であるあいつは十二神だったのか!」
やはりこいつは自分に運が向いてきたに違いない、と尊は思った。
それから十二神について書かれている書物を棚から取り出した。
今まで自分が十二神を使役する事には興味がなく、庭に遊んでいる式神を視ても研究対象にならなかったので無視していたのだが、桜子を手に入れればそれすら可能になる。
「闘鬼 青帝 赤狼 黒凱 白露 茶蜘蛛 水蛇 緑鼬 橙狐 紫亀 黄虎 銀猫、これが十二神と呼ばれる式神達か。如月様が是非使役したいと言う金の鬼の名は闘鬼と言うのか……赤狼は筆頭神三の位……かなりな実力者のようだ……紫亀? まさか……社会科の紫亀という教師? そういえば、昨日社会科準備室に桜子と赤狼と一緒にいたな……俺も中学部では教えてもらったがあの教師から妖気を感じた事はないぞ……それともうまく隠しているのか」
こいつは面白くなりそうだぞ、と尊は思った。
如月はもちろんだが、四天王の後の三人にも絶対に知らせてはならない。
力を持つのは自分だけでいい。
尊はにやにやと笑った。
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