第28話 尊の目論見

 土御門の広大な敷地の一角に土御門神道会館がある。

 そこは様々な行事が行われる場所で土御門の記念行事や祈祷を行い、修行をする為の道場、そして古今東西の一族に関する書物を集めた図書室があった。

 尊は大学が終わればそこで日夜、術の研究をしていた。

 本家においては陰陽師達にもそれなりの地位がつけられる。 

 いくら霊能力の高さが重要で次代の親衛隊のような四天王でも、本家においては若造で彼らが独自でやっている事は歓迎されていない時もある。だが如月の言いつけという事にしておけばそれほど糾弾はされない。

 古くからある図書室を我が物顔で研究室にしている尊には苦い顔をする先達もいるが、尊は気にしていない。そもそも一族内でも権力争いが存在し、次代に近い位置にある尊にその両親はもっともっと近づけと背中を押すのだった。本家内部に近づけば近づくほど、能力の濃い娘との縁談が舞い込む。少しでも能力の高い子を望む為には本家に食い込み、直系に近い娘と結婚するのが一番の道だった。

 道場で薔薇子が人数を集めて怪しげな祈祷をしているのを横目に尊は図書室へ向かっていた。如月の命でまた魂抜きをしているのだろう。薔薇子の霊能力なら簡単で、しかも薔薇子にはいくらでも人を集める事が出来る。

 薔薇子の先見の能力は高く、それを生かした卜いは人を惹きつけてやまない。

 いくらでも信者がおり、全国から薔薇子の元に駆けつけるのだ。

 尊は魂抜きの術を復元させるのは成功したが次の段階で行き詰まっていた。

 薔薇子はいくらでも魂抜きを成功させるだろう。金の鬼を呼び戻す為の魂千個の達成は目前だ。だがその次の段階がまだ準備しきれず尊は焦っていた。

 魂が千個集まれば如月は鬼の召喚の術の復元を催促をしてくるだろう。

 魂抜きの術が尊の手柄であるのすら忘れて、如月は尊を責め立てるに違いない。

(なんとかその前に召喚の術を復元させなければ……そしてもし金の鬼を俺が使役できたら……)

 その為には桜子が必要だった。

 尊が桜子の能力に気づいたのはたまたまだった。学園内で偶然、桜子が自分の手のひらに緑色の気を集めているのを見た。そしてそれで低級な霊を集めて鞄で叩き潰していたのだ。桜子の気は低級霊達の好物らしくいくらでも沸いてきていた。

 尊は目を疑った。確かに土御門の霊能力は妖を引き寄せるが、それに満足そうに集り喰らうのを見たのは初めてだった。

 その後も桜子を観察したが桜子を自分の気で霊をおびき寄せるだけしか出来ないようだった。そしてそのような能力は古い文献にちゃんと載っていた。

「再生の見鬼」千年ほど前、希代の陰陽師、安倍泰親が玉藻の前と名乗ったかの悪妖「九尾の狐」と戦った際にもそれを助け見事討ち取ったと記され、近年で最上級とされる再生の見鬼は二百年前の安倍家直系の桜姫だった。

 その文字を読んだ時に尊の身体は震えた。

 希にしか生まれない再生の見鬼。

 底なしの霊能力で攻撃術者の霊能力を再生させる。しかも自らを再生の気で回復し続けるので疲れや衰えがない。桜子の身体には永遠に再生の気が充満しているのだ。

 如月がいくら土御門で上位の霊能力を持っているとしても、攻撃し続ける事は出来ない。どこかで一端引いて回復をしなければならないのだ。だが桜子を手に入れれば尊は永遠に能力を回復させながら戦える。そうなれば現当主も如月も敵ではないと尊は思った。

(能力値が低い俺でも如月様……いや、如月と戦えるぞ!)  

 尊は金の鬼を召喚する前に桜子を味方につけておきたかった。

 そして如月よりも早く金の鬼を手に入れるのが望ましい。

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