END:夏がまた来る

 手を合わせる。

 静那が眠る場所。今年もコスモスが添えられている。あの日、見送るときに静那にあげた花を、私も置いた。

 静那がいなくなってもう6年も経った。

「いつ会いに来るのかなあ」

 私は、水を浴びてつやめく涼しい墓石を撫でながら言った。応答はない。

「静那」

 声に出したのは、久々だった。やっぱりこの名前が好きだなと思う。

「ひかるー」

「えっ」

 私は反射的に振り返った。そこには、静那がいた。小さな、静那が。

宇宙そら

「ひかるひかる」

 2歳になった彼女は、ぴょんぴょんと飛んで抱っこをせがんだ。

 私は彼女の脇を抱えて太ももの上に乗せる。

「おはか」

「あなたの叔母さんですよ。あとあとしてあげて」

「あとあと」

 子どもながらにここがどういうところかわかっているのだろう。宇宙は目を閉じて手を合わせた。



 静那がいない世界は、虹彩が消えてしまったようだった。実はほんの少し、死んでしまいたいと思ったときもあった。

 けれど、それでも私たちは世界の中で生きている。世界の中で息をつける場所を、意識的に、あるいは無意識的に捜している。

 なにかの意味のために生きるのが人生なら、とっくに私は折れていただろう。けれど、生きることに意味があると思えたとき、見えない力に強く手を引っ張られたような感じがした。

 遠くから、糸を引っ張ってくれる人がいるように感じた。

「そっか。静那」

 百年は、もうずいぶん前に来ていたのかもしれない。

宇宙の手を握って、青空を仰ぐ。

「ねね」

「ん?」

「ねーと、ね!」

 宇宙は私を指さした。赤ちゃんの頃から、宇宙はよくこの仕草を見せる。不思議だ。この子はなにかの真理を知っているようだ。

「宇宙には何が見えてるのかな」

「ひかるねー」

「ふふ」

 幾度星空を見ても会えなかった静那がすぐそばにいる気がした。

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サンセットガール 蓬葉 yomoginoha @houtamiyasina

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