第3袖 萌実とのオフ会
夏休み2週間前の土曜日、俺と
俺はスマホの時刻を確認して彼女に伝える。
「萌実って奴は猫耳フードのパーカー着てるみたいだぞ。」
彼女は素っ気なく返す。
「ふーん。痛いわね。」
「真那、気分が乗らないなら帰っていいんだぞ。」
「何回も言ってるだろ?」
真那は呆れ顔をする。
「あんたは何目的なのよ?」
「単に気になる。」
「あと、底辺ストリーマーを実際に見てみてぇ。」
普段通りの会話をしていたら背後から声をかけられた。
「あ、あの...」
そこにはメールに記載されていた姿形の少女が立っていた。
「あ、萌実さんで合ってますか?」
「...はい。じゃあ貴方がケンイチさん?」
俺は無言で頷き、彼女の目を見る。
彼女は消え入りそうな声で呟く。
「横にいる方は彼女さんですか?」
真那は全力で否定する。
「違います」
所は変わり、ファミレス。
俺達3人は傍からみれば異質な集まりだと思われているだろうなと無駄な考えの中、萌実との食事が始まった。
彼女は色白の美少女だ。
歳は俺達と同じ17歳。高校2年生とのことだ。
そこそこの自己紹介を済ませた俺たちは会話を始める。
コーラを飲みながら萌実は言う。
「ケンイチさんしか来ないと思ってました。」
「最初はそのつもりでしたけど、コイツがどうしても来たいって言うので。」
俺は真那を横目に笑う。
真那は自分から話そうとしない。
昔から人見知りが激しいタイプだ。
高校デビューに成功はしたが、生来の気質は変わらないようだ。
「あ、萌実さんはどうして俺と会おうって思ったんですか?」
「それは...」
萌実は赤面し、パーカーの両袖に手を隠す。さながら萌え袖だ。
「あのサイトで唯一、真面目にお話しをしてくれたからです。」
「あー変な奴多かったですもんね。」
「お話しと言っても、俺は挨拶ぐらいしかしてなかったですけど」
「それでも嬉しかったんです。」
彼女は俯き、黙り込む。
「1リスナーとしてアドバイスなんですけど...」
「おこがましいですかね?」
「...言ってください。」
俺は深呼吸し、会ってから思っていたことを伝える。
「萌実さんめっちゃ可愛いから顔出し配信すれば人気出ると思います。」
彼女は声を震わせる呟く。
「...私は可愛くなんかないです。」
真那が突如声をあげる。
「なにそれ?」
「自虐風自慢?」
「...え」
「どう見たって、誰が見ても可愛いでしょ!」
俺は止めようとする。自分の意見を言い出すとコイツは暴走する。
「ま、真那!」
「ライブで見ず知らずの人からセクハラまがいな発言されて本当は喜んでるんじゃないの?」
「私を見てくれている。」
「私を知ってくれている。」
「私を認識してくれているって。」
「真那やめろ!」
「健一、あんただってこの人に対してそう思う所あるでしょ?」
俺は溜め息を零す。
「...確かにそうだけど」
萌実と出会ってまだ数時間だが、そう思う節がある。
誰が見ても美人と評されるであろうに、何故か自己評価が低い。
俺と真那はお互いに萌実を見る。
袖で端麗な目元を押さえ、肩は激しく上下している。
「俺の連れがすみません。」
か細い声を震わせながら萌実は囁く。
「ケンイチさんなら私の話しを聞いてくれると思ってたのに...」
間髪入れずに言う。
「なんでも聞きます。」
「満足するまで言ってください。コイツは黙らしときますので。」
萌実。本名、
中学2年生の夏から不登校になり、高校は通信制の高校に通っている為、1年の殆どを自室で過ごしている。
幼い頃は、美麗な容姿に自信をもち、アイドルになるのが夢だった。
そして、実際に高校受験をして隣の市内にある芸能系の専門学校に入学したそうだ。
だが、人との付き合いに馴染めず、萌実よりも本気で芸能界入を目指す周りとの温度差に圧倒され退学。
母の勧めで通信制の高校に入った。
今は、毎日を虚無に生き、生身の人間と関わることさえ困難になってしまったのだと云う。
「画面越しなら人と関われるかなって思って始めたのがライブチャットでした。」
「セクハラコメントはキツかったけど...」
「真那さんが言ってたように、自分に酔えました。」
「まだ、こんな私でも必要とされているのかなって。」
「
「健一さんは、どうして私と会ってくれたんですか?」
彼女の眉目秀麗な顔を見つめられ、とっさに口を開く。
「ずっと萌実さんの事を底辺配信者だと思ってました。」
「どこか馬鹿にしてた....」
彼女の様子がみるみる険しくなる。
「んでも、君に会えたら何か変わるかもって」
「俺も毎日が退屈で、何か足りなくて、でも変えようとは中々思えなくて。」
「この前の
「何かに熱中できる事を。」
真那は俺を見て言う。
「あんた何考えてるの...?」
俺は意を決して萌実を見る。
「萌実さん。」
「"アイドルになる夢"叶えてみようよ。」
萌実と真那は驚愕の表情で叫ぶ。
「えぇ!!」
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