第2袖 何かが始まる予感。
底辺配信者の萌実の存在が日に日に俺の中で大きくなっている。
顔出しをせず、露出もない彼女の配信に魅力は感じないが、どうにも不可思議な事に脳裏から離れないのだ。
今日は休日なので、ネットサーフィンに興じている。
午前中は寝過ごしたので昼以降が活動時間となるのだが、これも毎週のルーティンだ。
「お邪魔しまーす。」
聞き慣れた声にハッとしてヘッドホンを外す。
「ま、
「なんで俺の部屋に!?」
彼女はあっけらかんと答える。
「だって家近いし」
「答えになってねぇよ!」
「暇だから遊びに来たの!!」
「は...」
「遊びに来ちゃ駄目な訳?」
彼女の気迫に押され、たじろぎながら言う。
「駄目では無いけど、事前に連絡とかあるだろ...」
彼女は長い髪を指先で巻きながら低く呟く。
「...うるさい」
これは彼女の癖だ。
昔からある意味理不尽な所がある。
「慣れっこだけどな」
それから彼女は俺のPCに目を輝かせながら指差す。
「パソコン弄ってもいい?」
「あ...ま、いいけど。」
「やった!」
「んでも、変な物見るなよ!」
「わかってるって。」
鼻歌まじりで彼女はパソコンを触り始めた。
パソコンが占拠されて30分が経過した、俺は本を読みながらも真耶の操作が気になり横目で警戒していた。
と、その時彼女が俺の名を呼ぶ
「ねぇ
「ん?」
「これ何?」
彼女は通知から飛んだのであろう例のライブサイトを見ていた。
しかも映っているのは萌実という女性ストリーマーだ。
俺は彼女に近づき画面を指差しながら説明する
「あ、コイツな」
「萌実とか云う底辺配信者だよ。」
「好きで見てる訳じゃねぇけど、底辺って感じがたまらないんだよなぁ。」
「ふーん」
「ほら、見てみ。」
彼女をコメントに注目させる。
「汚いコメントばっかり飛んでるんだよ。」
「ふーん」
画面内の萌実は言う。
「だから、胸と顔はダメ。」
「もっと楽しくお話しよ?」
俺は憐れみの感情を声色に乗せる。
「若い女、しかも同接5人以下の底辺が何言ってんだか。」
「匿名でコメント出来るなら欲望丸出しでいいだろ。」
「そんな事もわからないのかねぇ?」
興味なさげだった真耶が俺を見て言う
「あんたはどんなコメントしてるの?」
「あ、俺?」
「俺は挨拶だけだな。」
「コイツがコメントとバトってるのを見るのが楽しい。」
真耶は目を伏せながら呟く。
「あんた変わったね。」
「昔はこんなに寂しい奴じゃ無かったじゃん」
俺は彼女を見る。
そして自虐を交えながら言う。
「悪かったな。」
「俺とお前はもう住んでる次元が違うんだよ。」
「俺はクラスでも底辺。」
「お前は学級委員長も務め、合唱部の部長。」
「しかも大学からの推薦も来てるんだろ?」
「なぁ?」
「俺にはわからねぇよ。」
「何処で差がついたんだろうな?」
真耶はパソコンの電源を落とし、暗い画面を見つめながら呟く。
「私だってわからないよ...」
「差とかどうでもいいじゃん!」
「確かに健一はクラスでもパッとしないけど、それでいいじゃん!」
俺は呆れながら言う。
「馬鹿にしてんのかよ...」
「そうよ!」
俺は言い返せなかった。
数秒の沈黙の後、俺は再度パソコンを立ち上げ彼女に言う。
「底辺には底辺なりの楽しみ方があるんだよ」
画面の中では萌実が歌っていた。
それは昨今、話題のアニソンだ。
俺達は久々に意見が同調する。
「...結構上手いな」
「上手いね」
コメントを書き込む。
萌実はコメントを読み上げるために歌を中断する。
「えっと...歌上手いですね。」
「ケンイチさん! ありがとう!!」
彼女はとても喜んでいる。
俺は真耶を見下ろしながら呟く
「っ...こんなに喜ぶもんか?」
「よっぽど嬉しかったんじゃない?」
「結構可愛いかも...」
つい素直な言葉が出てきてしまった。
「痛っ!!」
真耶が脇腹に肘鉄を食らわせたようだ。
「馬鹿!」
「顔も見えないのに、ほんっと馬鹿」
「アホ健一!」
真耶の理不尽な逆ギレに困惑する横で、萌実がライブを終わらせようとする。
「今日はお腹空いちゃったからここまでね。」
「次も未定だけど見に来てね。」
「終わったな。」
俺は伸びをしながら真耶に言う
「よし、もう帰れよ。」
「まだ帰らない!」
「なんでだよ!」
ピコンッとライブサイトの通知が鳴った。
文面で何か送られてきたようだ。
「え、萌実って奴からオフ会しませんかって来たんだけど!?」
「はぁ!??」
状況に困惑している真那の隣でメールの内容を把握する。
そして腕を組みながら言う
「住んでる所、意外と近いし会えなくは無いな...」
「はぁ!?」
「どんな奴か知りたいし会ってみるか!」
俺は日時と場所を指定したメールを送りつけた。
直ぐに返信が来た。
当日の服装が書いてある。
「私も行くから!」
「なんで!?」
「
「私が居ないと健一が厄介な事に巻き込まれる可能性があるじゃない!」
経験上、こうなった真那は歯止めが効かない。
「わかったよ。じゃあ当日は2人で行こうな。」
かくして俺と真那は萌実のオフ会に行くことになってしまった。
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