第4袖 アイドル結成

数秒だがとても長い時間、俺達の空間が鳴りを潜める。


沈黙を破ったのは顔を真っ赤にした真那だ。

「アイドルってあんた馬鹿でしょ!」

「アホ健一!!」

「あんたがプロデューサーになるって事?」

「そうだ。俺が萌実さんとお前をプロデュースする。」

「無理無理!!」

「って私も入ってるの!?」


赤面している真那を見ながら言う。

「お前はクラスで人気者だし、告白されまくってるじゃねえか。」

「アイドルの重大要件の"可愛い"を満たしてる。」

「だからって!!」


萌実が俺たちの会話に入り込む。

「健一さん、それ本当?」

「私を変えてくれるの?」

自信満々に答える。

「あぁ、変える!」

「何かわからないけど、これがやりたい。」

「プロデュースに熱中できる気がする。」


不安げに、だが期待感を抱きながら萌実は上目遣いになる。

「私変われるのかな?」

「大丈夫。」

「真那も高校デビューで成功して変われた!」

呆れたように真那は言う

「あんたねぇ」

「2人をアイドルにさせる過程で俺も変わりたいんだ。」

「理屈はないし根拠もないけど、やり切りたい。」

「全力でな。」


萌実は真剣な眼差しを俺達に向ける。

「アイドル...」

「私本当になりたいかも...」

「健一さんよろしくお願いします!」


困惑した表情で真那は尋ねる

「も、萌実ちゃん私もメンバーなの?」

「もちろん。そうだよ?」

「はぁ...」


俺は2人に対し宣言する

「よし!」

「最強に可愛いアイドルグループ作ろうぜ!」


それから30分間、各々でアイドルについて知見を深めていた。

真那が対面している萌実の顔を凝視しつつ話しかける。

「萌実ちゃんメイクしてないよね?」

「あ、うん...」

「メイクのやり方分からなくて...」

「配信では顔出ししてないから余計に...」

彼女はやっぱりと云った表情になる。

「もう高校生活半ばなのに、知らないのは損だよ?」

「アイドル抜きにしても知っとこうよ。」

萌実は俯く。

「...自信ない」

真那は溜息を零し提案する。

「じゃあ、私の家に来てよ」

「えぇ!!」


そこからの真那の行動力は凄まじかった。

会計を済ませ、彼女の家へと真っ直ぐ向かう。

その過程に俺と萌実、2人の意志の介入の余地は無かった。


鏡台に前に萌実を座らせ、真那が対面する。

「まずは基本だけど、目を大きく見せる為にアイライナー、アイシャドウを使って...」

「こんなふうに影をつけたり、目尻を伸ばすように描いて...」

「ほら目元がよりパッチリしたでしょ?」

俺は感嘆の声を上げる。

「おぉ、すげえこれがメイクの力なのか!」

「萌実ちゃんの場合は元が可愛いからね。」

「多少メイク覚えられれば完全に変われるよ。」

萌実は鏡に写った自分の姿に感動している。

「ありがとう! 真那ちゃん!」


それから20分後メイクアップに成功した萌実はとても可憐だった。

口には出さないが直球どストライクな容姿だ。

「これが私なの...?」

「キラキラして本当にアイドルみたい...!」

「健一さん、どうかな?」

彼女の屈託のない笑顔に答える。

「凄く良いと思う!」


「私、本当にアイドルになれるんだ...!」

「でも、健一にはアイドルのプロデュースに関して何も知識ないでしょ?」

「まぁね...。そこは追々と言うことで...」

俺は笑って誤魔化すが、真那が真剣な表情で諭す。

「それじゃダメだね。あんたが言い出したんだから、最後デビューまで責任取りなさい。」

「萌実ちゃんをがっかりさせないように!」


彼女は髪の毛を指で巻きながら呟く。

「...それから私にもがっかりさせないで」

俺と萌実は視線を合わせる。

「お前乗り気になってるのか?」

「うるさい!」

彼女のツンツンした態度を横目に萌実に言う。

「真那がここまでやる気になってんだ。」

「俺も全力でやるか!」

「うん! よろしくね!」

「プロデューサーさん!」


萌袖を私服とする彼女を見て思いついた。

これを全面に出す。

確かに可憐な衣装を纏う昨今のアイドル達に見劣りはするが、ギャップ受けを狙うのだ。

「よし、このグループのメイン衣装は萌袖でどうだ?」

萌実は同調する。

「絶対可愛い!!」

が、真那は当惑している。

「も、萌袖!?」

「良くないか?」

髪を巻く真那に自分の考えを伝えようと萌実を指差す。

「ほら、萌袖を全面に出したアイドルなんていなかっただろ? だから新ジャンルって感じで売り出そうぜ。」


腑に落ちていないようだが、彼女は溜息と共に賛同する。

「しょうがないわね。」

「健一と萌実ちゃんがそれでいいなら...」


「萌袖...!」

萌実は自身の袖をキラキラ光るカラコン越しに見つめる。

「...絶対可愛い...!」





かくして、俺達のアイドル物語は幕を開けた。

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萌え袖ニートの萌実さん。 桜子 さくら @Someiyosino

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