萌え袖ニートの萌実さん。
桜子 さくら
第1袖 非日常は萌え袖と共に。
毎日に鬱屈とした感情を抱き始めたのはいつからだろうか。
俺の名前は
小学生の時は無邪気に外で遊び回っていたが、中学の頃から無気力に毎日を過ごす日々を送っている。
成績は中の上。恋愛経験はゼロ。部活にも所属していない。
趣味、特技無しの俺には退屈すぎる毎日だ。
「何か熱中出来る事ねぇかな...」
教室の窓から見える群青の空模様を見ながら呟いた。
放課後、家路の途中にある商店街を自転車を押しながら1人歩く。
不覚にも授業中に眠ってしまった。教科担当の先生にこっ酷く怒られてしまい、気持ちが沈んでいる。
「あはは、お願いごとしよーよ!」
「待ってよぉ〜。」
幼稚園児が2人俺の前を通り過ぎ、商店街の十字路にある笹に向かって走っていった。
今日は七夕だ。行事でさえ歳を経ることに新鮮味を失う。
無邪気っていいなぁ。そんなことを思いながら十字路に差し掛かる。
短冊には様々な筆跡で願いが書かれている
勉学、就職、家庭、悩み、恋愛。
今の俺には無関係だ。だが、何かの胸騒ぎがする。
「本当に神様がいるのなら...」
俺は自転車を止め、赤色の短冊に願い事を書く。
「熱中出来る事が起こりますように。」
殴り書きのその文字に何故か自信が湧いた。
今この瞬間、何かが始まる予感がする。俺の人生が劇的に変わる予期が...。
帰宅し、自室にてパソコンを立ち上げ、画面を
普段はぼんやりとネットサーフィンをするのが日課だ。無駄にある時間がそれで潰れるのだから。本当につまらない人生だと我ながら実感する。
「っ!ああ、またクソ広告かよ!」
こちらのマウス操作に合わせて出てくる類いの広告に引っかかってしまった。誤解を解く為に言うが決して
「ライブチャット...へー、男女問わず部屋主とチャットで話しができるのか。」
俺は興味本意でそのアプリをダウンロードした。
顔面偏差値に極振りしたであろう男女が部屋を作っているようだ。
そうだ。底辺の奴らを見てやろう。
俺のイタズラ心に火がついた。
"
5人しか視聴者がいないようだ。面白そうな予感がする、どれ配信をみてみるか。
配信主の姿が映し出された。
首から腹元までが写っており、およそ身体より大きなモコモコのスウェットを着ており、顔出しはしていないようだ。
暗い部屋の中、若い女性の声だけが響く。
「...外怖いよ。うん、家族以外の人も凄く怖い。」
コメントに返信しているようだ。
「友達なんかいないし、夢も無い...、恋人なんか絶対出来ないよ」
暗い雰囲気の配信主だな。と思った。
「どうせニートなんだろう。面白くねぇ。」
「あ、始めましてケンイチさん。」
彼女はモニターに映っているのであろう俺のハンドルネームを見て挨拶をした。
「配信見に来てくれてありがとうございます。」
コメント欄には吐き気を催すコメントを書き込んでいた。
「胸は見せられません。顔もダメです。」
「投げ銭しても見せられません。」
胸の前で指を交差させバツ印を作る彼女を尻目にコメントに対して呟く。
「底辺配信者に何迫ってんだコイツ。」
そして、その両手は大きな服の袖で半分が隠れていた。
5指がかろうじて見える。
まさに萌え袖だ。
俺の質問を彼女が読み上げる。
「...今日は何したの?」
「えへへ、何もしてないよ。ホントに無気力なの。」
「何しても失敗しちゃうから...」
「疲れちゃうしね...」
彼女は顔を俯向け、無感情で呟く
「つまらないよね。人生って」
瞬間、胸が波打つ。
コイツ、俺と同類じゃねぇか。毎日が同じ事の繰り返し、辟易してうんざりするが、新たな1歩が踏み出せず、その場で地団駄を踏む。躊躇している。
俺は口角を上げる。汚い男だ。自分よりも相対的価値の低い人間には強気になってしまうクズ。最低な人間だ。
静かな部屋にキーボードが打たれる音が微かに響いた。
「今日はここでお終いね。」
「次はいつやるか決まってないけど、見に来てね。」
彼女が言い終わると、画面が暗くなり配信終了のテロップが画面一杯に映し出された。
椅子に腰掛けたまま背伸びをする。椅子が軋む。
「ははは...」
乾いた笑いが口から出た。自問する。いつから俺は....
「クソみてぇな男になっちまったんだろうな。」
翌日、
しかし、昨夜の配信を見て以来、彼女の存在が俺の中で大きくなっていた。
憧れや、恋愛感情などではない。同族の匂いがする。
「健一、今日暇? 暇よね。付き合いなさい。」
帰りの準備をしている俺に話しかけてきた女子生徒の名は
「別に暇じゃ...」
そう言いかけて止める。
「この前、合唱部のコンクールあったでしょ?」
「あったんだ...」
「それの打ち上げが部室であるんだー。」
「明日。」
「明日ァ!?」
「それで買い物に付き合って欲しいの。」
待て待て、所謂荷物持ち要員ってことだろ。
しかし、ここで彼女の願いを断れば...。
「わかった。」
「やったぁ!」
この場面で彼女の願いを断れば、クラスでの居場所がなくなる。
彼女は男子生徒から人気があり、つい先日も告白されたそうだ。
彼女は俺に荷物を持たせながら前を歩く。
「私と付き合いたいなら、玉の
「お前はかぐや姫かよ....」
「うるさいわね。モテるんだからいいでしょ?」
「おいおい、自分で言っちゃったよ。」
俺は呆れながら彼女を見る。
確かに中学の頃より、あざとけない。大人びいて見える。
彼女は夕日を見ながら俺に問う。
「 ....健一は彼女とかいないの?」
「いるわけねぇだろ。」
少し浮ついた声色が聞こえる。
「そっか!」
「は?」
俺の疑問符に彼女は何も答えなかった。
真那との買い出しを終え、自室にて俺はパソコンを立ち上げ彼女の配信を見る。
「あ、ケンイチさんやっほー。」
神様の
俺はつぶやく。
「こんばんは。"萌え袖ニートの萌実さん"」
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