第41話 北条義時
***
「に、兄さんが僕らの父親を……?」
衝撃的な話を聞かされて、義経はどう反応していいかわからなかった。
正直に言うと父親の記憶など皆無だし、頼朝が殺したと言われても「頼朝兄さんが無事で良かった」としか思わない。
しかし、頼朝にとっては「実の父を殺した」という辛く重い記憶のはずだ。
「記憶を持って現代に転生しているのは、御霊の真の所有者のみです。真の所有者であれば、命を落としてもその魂は御霊の力に守られて共に転生できます」
戸惑う義経に構わず、義時は説明を続ける。
「真の所有者であるか否かは、死した時にわかります。真の所有者ではなかった場合、肉体から魂が離れると同時に御霊が魂から抜け出し、具現化してこのような球となります」
義時は風の御霊をちらりと見やった。
「頼朝様に討たれた義朝様の中から、風の御霊が出てきたのです」
義経はごくりと息を飲んだ。
父は真の所有者ではなかったのだ。記憶を持って転生することが出来なかった。
「頼朝様は、風の御霊を守らねばならないと決意しました」
絶対に平氏に渡してはならないと覚悟したのだ。自らの手で父親を殺した直後の少年が。
それはどれほど悲壮な決意だったのだろう。
「平氏の頭領である平清盛は、とてもやっかいな御霊の持ち主なのです。その御霊に対抗できるのが、自然神の祖である風・水・炎・土・雷の御霊だったのです。源氏はこの五つの御霊を所有することで平氏と渡り合ってきました」
雷と土、で、義経の脳裏に義平と全成の顔が過ぎった。
「この五つを平氏の手に渡してはいけない。そう考えた頼朝様は、平氏に奪われないように風の御霊を飲み込みました」
「え?」
目を瞬かせる義経の前で、義時は悲痛に顔を歪めた。
「頼朝様は既に水の御霊を所有しておられました。一人の人間が二つの御霊をその身に宿すなど、常人には不可能。しかし、頼朝様はその苦痛に耐え、風の御霊を自身の内に留め置いたのです」
長い話を終えた義時の脳裏に、頼朝が死の寸前に言った言葉が蘇る。
『俺が死ねば。風の御霊が現れる。真の所有者でなかった場合は、水の御霊も離れるだろう。その時は、お前が俺の代わりに、この国を守ってくれ』
頼朝の死と同時に、体内から出てきたのは風の御霊のみだった。
頼朝は水の御霊と共に転生してくる。その時まで、風の御霊を守り抜くのが北条家に与えられた使命だった。
「まあ……どうも時宗が一回使ったっぽいけど、残っているってことは真の所有者じゃなかったんだろう」
「?」
義時の独り言に、日本史他勉強全般が苦手な義経は首を傾げた。
転生して記憶が戻った時、義時が真っ先に確認したのは風の御霊の所在だった。
八百年は長い。戦乱の時代もあった。鎌倉幕府は倒れ、北条得宗家は滅ぼされた。御霊を守り続けることがどれほど困難なことだったか、想像できる以上の苦労だったに違いない。
それでも、義時の子孫はそれを果たしてくれた。風の御霊を守り通してくれた。義時が再び生まれてくる時まで。
義時は難しい話に困惑している様子の義経を冷たい目で見下ろした。
(万が一、殿の期待を裏切るようなら、この手で殺してやる源義経)
義経のせいで余計な苦労まで背負う羽目になった頼朝の姿を一番近くで見てきたのは自分だと義時は思っている。だから、義時は前世からずっと義経が嫌いだ。
「……ちょっと待って。御霊を持っていないと記憶を持って転生できない……さっき、僕は御霊を持っていないって言わなかった?」
「言いましたよ」
眉をひそめる義経にはっきりと告げる。
「じゃ、じゃあ、なんで僕は記憶を持ってるんだよ?」
「源義経。お前は神の御霊の所有者ではない」
急に義時に睨みつけられて、義経は思わず怯んだ。
「お前の魂は、神ではない強大な魂にくっついて守られてきたんだ。ずっと、前世から」
「神……じゃない、魂……?」
「そうだ。お前が体内に宿し、共に転生してきた——天狗の魂に」
その言葉に、義経は目を見開いた。
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