第40話 食われた魂






「武士達は、神の御霊をその身に宿すことを強制された」


 頼朝は淡々と語った。


「神の魂を宿す、その負荷に耐えきれずに何人もの人間が命を落とした。だが、帝や貴族にとってはそんなもの尊い犠牲ですらない。使い捨てだ」


 神の魂を宿しても発狂せずに生き残り、神の力を使えるようになった者を、「御霊の真の所有者」と呼ぶようになった。

 だが、一度は真の所有者となった者であっても、御霊の力を使い続けるうちに心身を消耗し、やがて錯乱する者が現れ出した。


「錯乱し、敵味方の区別なく力を奮って攻撃し、やがて力尽きる。それが、「魂を御霊に食われた」ということだ」


 頼朝の声は静かに落ち着いているのに、冷たい怒りを感じさせた。


「源氏と平氏は協力して魔物と戦っていた。そうして、とうとう最後の魔物を倒した。俺達の父である源義朝と、平清盛によって、魔物はすべて倒されたのだ」


 人を脅かす魔物がいなくなって、めでたしめでたし——とはならなかった。

 魔物がいなくなれば、貴族達は今度はその身に神の力を宿した屈強な武士達を恐れ、忌み嫌うようになった。


 かつて、魔物を倒させるために利用した癖に、今度は武士という存在が邪魔になった。戦うしか能のない野蛮な者共が、自分達に牙を剥かないように、新たな敵を用意することにした。


「貴族達は源氏と平氏が互いに憎み争うように仕向けた。やがて源義朝と平清盛は対立するようになり、乱が起こり、源義朝は敗れた」


 源氏を破った平氏が徐々に実権を握り栄華を極めていくのは誰でも知っている歴史的事実だ。

 そして、まだ幼かった頼朝を殺さずに伊豆に流刑としたことで、後に成長した頼朝が挙兵して平氏を倒すことも。


 だが、平氏に敗北した当時の頼朝はまだ十三歳の少年で、父と二人の兄と共に山中に隠れて逃げていた。


「いつ平氏に見つかるかわからない、疲れ切っているのに神経は張り詰めていて、俺は恐怖で泣きそうになりながら必死に父達の後を追っていた」


 当時を思い出すように目を細めて、頼朝が言う。


「逃げる途中、父が突然叫び声をあげて我を失った。何事かと思う間もなく、次男の朝長が殺された。

 俺は何が起きたかわからずに立ち尽くした。義平兄さんが俺に「逃げろ」と叫んだ。

 朝長兄さんを殺した父が、俺に刃を向けた。

 完全に正気を失ったその顔を見て、悟った。負けて追い詰められた父が御霊の力に負けて、魂を食われたのだと。

 だから俺は、魂を食われて錯乱した父を殺したんだ」




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