第30話 生まれ変わり



 範頼より先に我に返った義経が、頼朝に尋ねた。


「じゃ、じゃあ、僕達が知らないだけで、他の兄弟もどこかで生まれ変わってたりするの?」


 自分達は確か、前世では九人兄弟だったはずだ。生まれた時から頼朝と範頼が傍にいたため、他の兄弟も生まれ変わっているなどと考えたことがなかった。

 だから、義平の出現には驚いたし、全成の登場にも当惑した。

 だが、今生で血の繋がりがないのなら、一緒に住んでいなかったことも理解できる。

 とすると、他の兄弟も全成のように、どこか別の家庭に生まれ変わっているかもしれないのだ。

 義経の質問を、頼朝はあっさり肯定した。


「現代に転生しているのは九人のうち七人。長男義平よしひら、次男朝長ともなが、三男俺、四男義門よしかど、六男範頼のりより、七男全成ぜんせい、九男義経よしつねだ。

 五男希義まれよしと八男義円ぎえんは、転生していない。いや、もしかしたらどこかで生まれ変わっているのかもしれないが、前世の記憶は完全に失われている。普通の現代人としてどこかで生きているだろう」


 義経と範頼はまだ見ぬ兄弟が二人いると知って愕然とした。

 現代では血の繋がりはないのなら、兄弟と呼ぶ必要はないのかもしれないが、頼朝は前世の弟を今生でも弟として遇している。

 ならば、義経と範頼も頼朝に倣って、前世の兄弟を今生でも兄弟と認めなければならないのではないだろうか。

 範頼はこめかみを押さえた。転生していることを知っているということは、頼朝はその次男と四男にもあったことがあるに相違ない。全成だけでなく、次男と四男も頼朝の下で働いているのだろうか。

 ならば何故、範頼は働かせてもらえないのか。


「なんで、記憶を持っている兄弟と記憶を失った兄弟がいるの?」


 義経が素朴な疑問を口にした。


「記憶を持って生まれてきた者には、まだ果たすべき役割があるからだ」


 頼朝が素っ気なく答えた。


「役割……?」

「ちなみに、五男希義の息子、希望まれもちは転生していて俺の下で働いている。お前達の甥だ。今度会わせてやる。今生では俺より年上で、現在四十二歳の妻子持ちだ。最近抜け毛が多いのが悩みらしい。メタボ気味で糖尿の気もあるとこぼしていた」

「そんな甥に会いたくないよ!」


 頼朝の説明する甥の描写に、義経は思わず正直に叫んだ。

 会わせてもらったとて、別に話すことなどない。自分の兄より年上の甥なんて、どう扱っていいのかもわからない。


 まだ見ぬ甥に気をとられる義経をよそに、範頼は訝しげに眉をひそめた。

 ふと、疑問に思ったのだ。

 じゃあ、自分たちはどうなのだ。と。


 先ほど、頼朝は前世と同じく親子として生まれた北条父子を「稀だ」と断言した。

 ならば、前世の九人兄弟のうち三人が今生でも兄弟に生まれることも「稀」ではないのか。


(いや、そもそも……)


 頼朝から父も母も死んでいると聞かされていたが、その両親は前世と同じ両親なのだろうか。少なくとも、父親は同じ、源義朝ではないのか。


 今さら父母のことが気になるなど、これまでどれだけ暢気に過ごしてきたのだと思うが、これまでは頼朝の説明に納得して深く考えたことなどなかった。どれだけ兄を盲信しているのかと自分に呆れる。


 物心ついた時には頼朝が傍にいたし、義経が成長するのを見てきたのも事実だ。

 そして、範頼にも義経にも親らしき人物の記憶はない。

 とすると、やはり自分達の両親はいないということだ。もしかしたら、死んでいるというのは嘘かもしれないが、頼朝には何か事情があってそう言ったのだろう。

 今生の父親は源義朝ではなく源平に関係ない一般人で、戦いに巻き込まないために距離を置いているのかもしれない。


 考え事に集中して箸を噛む範頼は、疑問を抱きながらも結局は頼朝を信じる方向に思考が戻っていく。

 もし、ここに全成がいなければ、声に出して頼朝に尋ねていたかもしれない。

 だが、今さら何もわかっていない子供のように父母について頼朝に問いただす姿をここで晒したくなかった。全成の前では。


 範頼がとめどない思考を終了したのと、庭に平氏の刺客が降り立ったのはほぼ同時だった。



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