第24話 北条家
「八幡宮の様子はどうです?」
広く長い廊下を先に立って歩きながら、義時が頼朝に尋ねる。
北条家が代々受け継いできた屋敷は古いが途方もなく広い。その敷地内には前世の頼朝から託されたものを守るために作られた場所もある。
今生に転生して初めてそれを目をした頼朝は「よく八百年に渡って守り続けてくれたな」と感謝した。
義時は「俺の忠誠心の証です」と胸を張ってドヤ顔を見せつけ、頼朝の横にいた景時と大喧嘩になった。
頼朝は喧嘩両成敗で部下二人に拳骨を落としたことを思い出しながら、義時の質問に答えた。
「順調だ。兄上が手に入れてくれた材料のおかげで、予定よりも遥かに早く道が開きそうだ」
十一年間も弟を放っておいただけあって、義平の戦利品は頼朝の計画に確実に役立つものだった。
中にはいったいどんな手を使って入手したのかと問いただしたくなるようなものまであったが、聞くのが怖いので感謝だけしておいた。聖人の血とか伝説の獣の皮の一部とか、その他諸々の物騒なあれこれの入手ルートは謎のままでいい。
もともと頼朝が義平に頼んだのは、「日本各地を巡って御霊を持った転生者を探しつつ、可能であれば御神体の一部か神社の土を持ち帰ってきてほしい」という内容だったのだが、勝手に世界規模にスケールアップされてしまった。
「まあ、日本の「神なき呪われた土」では効果が薄いと思ったのかもしれんが」
八百年前は、散々源平の武者の血を吸った土を使った。戦争のない現代日本で、黄泉路を開けるだけの力を持った土は手に入らない。頼朝はいざとなったら自分の血を使うつもりだったが、全身の血を余さず捧げたとしてもそれで成功したかはわからない。
「計画が順調に進むのはいいことですが、道を開くのが早まったということは……」
義時が言葉を濁す。頼朝は無言で頷いてみせた。
義時が言いたいことは良くわかっている。こうして北条家を訪れたのも、全てを始める準備のためだ。
「計画が当初より早く進むのなら俺達には喜ばしいことだ。もうあまり時間がない。日本は呪いに侵され始めている」
震災、台風、洪水、噴火など、近年この国を襲う自然災害の頻度がその証拠だ。
源氏の中には大学の研究室や気象庁に勤めている者もいる。彼らの報告によると、かつてない巨大災害が日本を襲う可能性は年々高まっているという。
それを食い止めるために、日本を滅ぼそうとする呪いを解くために、八百年の時を越えて生まれ変わったのだ。その目的を果たすためならば、どんなことでもしようと頼朝は決めている。
たとえ、大事な弟を殺すことになってもだ。
頼朝の覚悟は義時も重々理解している。彼はそれ以上何も言わず、広い廊下を抜けて屋敷の一番奥、普段は誰も近寄ることを許されない封印の間の前に立った。
朱塗りの戸板には物々しい雰囲気が漂っている。義時は戸をすっと引き開けると頼朝に道を譲って、自らは横に控えた。
頼朝は拳を握り締めると、意を決して戸を潜り奥の前へと足を踏み入れた。
畳敷きではなく、板の間のその部屋の奥に設けられた祭壇に向かって歩み寄る。
目にするのは今生では二度目だ。時が来るまでは、北条家に預けたままにしているその姿を確認すると、頼朝は安堵と一緒に激しい敵意を覚えた。
かつて、一度はこの身に宿したものだ。自分の魂と交わることはなかったが、なんとか押さえ込んで、死ぬまで守り通したものだ。
そうして、頼朝に父を殺させたものだ。
義経がこれを受け入れられるとは限らない。拒絶されるか、あるいは食われてしまうかもしれない。
だが、賭ける価値はある。いや、賭けなければならない。
(これに食われる程度の魂なら、最初から生き残れやしない)
近いうちに、義経をここに連れてくることになる。
だが、義経をここに連れてくるということは、範頼も連れてこなければならない。それを考えると、頼朝の心は重く沈んだ。
出来るなら、範頼だけはここに近づけたくない。
だが、そんなことは不可能だと良く知っていた。
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