第23話 父達




「あのねー、今日ね。幼稚園で家族の絵を描いたの! でも、ぼく、家族がたっくさんいるからねー、好きな人だけ描いたのー。ね、ちゃんと知章も描いたよ。そしたらねー、先生が「兄弟が多いのねー」だってー」


 眼前に突きつけられた画用紙に踊る色の氾濫に頭がくらくらしてくる。五歳児のバワーに圧倒されてどう反応したらいいかわからない。

 このくらいのことで動じてどうすると思うのだが、キンキンした声が頭の中をだだ滑りしていくだけでちっとも内容が頭に入ってこない。

 いっそ、頭を抱えて唸りたい気分だが、流石にそれは出来ない。


 知章はめまいを起こしそうになるのを堪えて精神を統一しようと試みる。

 知章がもはや修行の境地に達している横では、能宗が暢気に胡座をかいて面前で茶をすする相手に声をかける。


「で、何の用だよ。兄弟揃って訪ねてきやがって」


 同じ敷地内の別屋敷に住む三兄弟とは、別に仲が悪いわけではないが普段特に交流はない。長男経正つねまさと次男経俊つねとしはともかく、三男敦盛あつもりは今生では五歳の幼稚園児だ。前世では歳が近く比較的仲が良かった知章も、今生では十一歳下の相手をどう扱えばいいか計りかねている。


「こら敦盛。あまり知章を困らせるなよ。怪我が完治してないんだろうから」


 きゃあきゃあはしゃぐ敦盛に釘を刺してから、経正が能宗に向き直る。その表情は真剣だ。

 一つ聞きたいことがあってよ、とパンクロッカーな見た目とは裏腹に、渋く真面目な声で言う。

 その内容に、能宗と知章の顔が強張った。


「噂で聞いたんだけどよ。近いうちに宗盛むねもり様が帰ってくるって聞いたんだ」

「親父が?」


 宗盛様、というのは、清宗能宗兄弟の父、平宗盛たいらのむねもりのことを指す。

 彼は現在、弟の知盛とももり——知章の父である平知盛と共に海外に長期出張中だ。

 その任務内容は転生者の捜索。御霊を持って現在に転生している者を見つけ、ここに連れてくるのが役目だ。

 御霊の真の所有者となっているのは源平の戦いに関与した者とは限らない。あらゆる時代、あらゆる人物、もしかしたら歴史に名を残していない人物かも知れず、しかもどこの国に生まれ変わっているかもわからない。藁山から針を探すよりも困難な任務と言えよう。

 故に、二人が日本を出て行ってから既に十年が経過している。

 十年ぶりに父親が帰ってくると聞かされても、知章と能宗には喜びより衝撃が先に立つ。

 何故なら、その二人が帰ってくるということは——


「始まるってことだよね」


 それまでのはしゃいだ声が嘘のように、落ち着いた子供らしからぬ口調で敦盛が言い、幼い顔に不敵な笑みを浮かべた。


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