第36話 第六天魔王? ノブナガ参上

 依頼を受けたのは僕を含めて3名、斧を持ったゴツい男23と真っ赤な服を着たオネエ風の男?25 が静かにソファーへ座っていた。


 全面ガラス張りのエントランスホール、窓の外には『立ち見席』と書かれた立て札が刺さっている。部屋の中にグルリと座席があり、中央がせり上がっていることを考えるとここはアイドルの活動場所のようだ。


「ようこそノブナガ商会へ。本日の案内役を務めさせていただく『ミサキ』と申します」


 出てきたのは聡明そうな女性20、例えるならテレビしか観たことのない高級キャバ嬢だろうか。


「おー、トップアイドル直々にお出迎えとは流石ノブナガだ」

「うんまぁ~、私より美人なんてぇ。オンナの私でも嫉妬しちゃうほどの美しいわぁ」


 有名人らしい。僕はこの人のことを知らないけどふたりはかなり嬉しそうである。


「今回の依頼は、アイムズ迷宮にレアモンスター『蜘蛛レオン』が出没したという情報を掴みまして、その蜘蛛糸を持ってきて欲しいのです」


 冒険者たちは目をキラキラと輝かせていた。


「なんと、めったに姿を表さないレアモンスターが出たとは凄い情報だ」

「ラッキーだわぁ、私たちに倒す権利が貰えるなら、強くなってみんなを守れるようになるわ」


 両手でブンブンガッツポーズする男、祈るように両手を握りしめクネクネするオネェな男。


「はい、私どもは蜘蛛糸を手に入れるのが目的であって討伐が目的ではありません。収集さえしていただければ、どなたが倒しても構いません」


「よっしゃー! 報酬も高額な上にレベルアップまで狙えるなんて俺はついてるぜ。おメェら、しっかりやるんだぞ」

「んまぁー、ランク『III』の冒険者とランクは『IV』の私がついてれば何ら問題はないわね。お嬢さんはしっかり私たちの活躍を見るのよ」

「ちゃんと連携してくれよな。相手が弱いからって抜け駆けはなしだぞ」


 随分とやる気満々なふたりである。言葉の端々から強さを求め依頼をこなすことでみんなを助けていきたいという気持ちが透けて見えた。


「斧使いゼットン様、氷使いのターコ様、そしてレム様でよろしかったでしょうか」

「はい、レムです。ちょうと依頼を見つけたので受けさせてもらいました」


 一言何かがある度にゼットンとターコが熱い言葉を投げかけてくる。僕はどうも体育会系のような熱いノリが苦手だ。


「ゼットン様とターコ様は前衛となって道を切り拓いて下さい。後衛としてレム様は当商会の付添人を守るのが仕事です」


「ヨッシャー、私たちがしっかり全部倒してレムちゃんには仕事をあげないわよー」

「そうだな。俺たちがふたりを守るつもりで頑張るからな! お嬢さんは気楽に俺たちの戦いを見て学ぶと良い」


 あまりにも暑苦しい熱意に後ずさるミサキ、そんなミサキを守るように力強いオーラを纏った男が入ってきた。


「あんまりミサキを怖がらせないでもらっていいかな。彼女は俺の婚約者でねぇ、手を出すなら冒険者だろうと許さないよ」


 片わなのちょんまげ姿に日焼けした肌、服装もそうだがこれはまさしく織田信長。教科書に出てくるようなノベーっとしたのではなく、第6天魔王的なそれだ。


 こ、これが一条くん48なのか。本物のような出で立ちに思わず『カッコいい』と思ってしまった。


「す……すまない。まさかノブナガの婚約者だとは知らなくて。許してくれ」


 さっきまでの威勢はどこへやら、ゼットンは深々と頭を下げ、ターコは目をハートにしている。


「知らなかったのでは仕方がない。俺の依頼を受けてくれる冒険者たちだものな。素晴らしい働きをしてくれたら、俺の育成勇者パーティーへの取り立てや、お抱え冒険者として取り立てることも考えている。よろしく頼むよ」


 そう言うと、さっさとこの場を立ち去ってしまった。


 レベル48か。僕の進化前のレベルは62だから数字では勝ってるけど……醸し出す雰囲気は負けてるよなぁ。それに一条くんかれが持つ特別なスキルというのも気になる。


「それでは皆様、付添人を紹介致します。わたしたちアイドルグループのひとり、ユーコです」


 えっ、ユーコ? ユーコって昨日宿屋でシュリナト共に話しをしたユーコだよなぁ。予想外の出来事に思わず目を丸くしてしまった。


 静かに奥から歩いてくるユーコ、必死に明るく振る舞おうとしているが表情は険しい。


「みなさまユーコです。ノブナガ様の命により糸の回収に同行させていただきます」


 深くお辞儀をするユーコ。昨日とは打って変わって大人しい。僕の姿に気づいているようだが知らないフリをしているので黙って聞いていた。



 アイムズ洞窟──首都アーメルダの北西にある初級~中級冒険者の稼ぎ場所として有名な洞窟。多種多様な魔物や獣などの生物が生息し、それらを倒して手に入れる素材を集めたり、鉱石や植物を採集したりする依頼がとても多く金策に人気な場所である。


 洞窟に向かう中でユーコが教えてくれた。ゼットンやトーコは知ってるよ的な雰囲気を醸し出していたが黙って先頭を歩いていた。


「こちらになります」


 3メートル程盛り上がった地面にある入口から地下に向かって続いている道。エアフィルダール迷宮の下層で感じたような重い雰囲気は無い。


《おかしいですね。この洞窟に蜘蛛レオンの気配はないようですが……何かと勘違いしているんでしょうか》

 なんだろうね。僕には魔物を感知する能力はないから分からないけど、なんか違うんだよなぁ……。そんな僕の不安をよそにゼットンはユーコに問いかける。


「とりあえず奥に進めばいいのか?」

「はい、地下2階に新たな通路が発見されたと聞いています。その奥に閉じ込めているそうです」

「おかしいわねー、それなら冒険者なんて雇わずに自分たちで採取すればいいのに。君はどう思う?」


 おっと、いきなりトーコさんに話しを振られてしまった……うーん。


「僕はここに来るのは初めてだから中のことは分からないけど、蜘蛛レオンは素早いって聞くし手に負えないんじゃないかなぁ」

「おー、そうかもな。なかなか俺たちのような冒険者はいないしな……。蜘蛛レオンさえ倒せれば俺も勇者になれるし、気合が入るってもんよ」

「あんたは勇者って柄かい、私のような美しい者が勇者にこそ相応しい」


 洞窟内に出てくる魔物のレベルは高くても18ほど、ふたりのコンビネーションで次々と襲ってくる魔物を倒していく。


 連携にしても突っ込み合いにしてもこのゼットンとトーコはいいコンビなんじゃないかと思えてきた。


「ねぇ、なんでユーコが付添になったの?」


 ふたりが戦いに集中している間に聞いてみた。


「分かりません。私が行くと蜘蛛糸を採取しやすいんだと聞きましたが、私にはそんな能力はありませんし……」


 まぁ最悪自分で糸を出して採取したものですって納品すればいいかっ。


「で、糸を採って何に使うの?」

「私は詳しく教えてもらっていませんが、どうやら育成勇者の防具として使うようなことを聞いたことがあります」


《蜘蛛レオンの糸はとても丈夫で質が良く鋼のような強度を持ちながら糸のように扱えるので防具を作るのに最適なんです。蜘蛛レオンは見つからなくても生息するエアフィルダール迷宮の下層なら良く落ちています》


 なんか腑に落ちないんだよなぁ。本当に閉じ込めたのなら動ける範囲を縮めていけばいいだけの気がするけど……「うーん」

「多分ですが、レムさんは蜘蛛レオンの生態を知っているから不思議に思うのかもしれません。蜘蛛レオンを見たことある人なんて限られているので」

「なるほど……そればらペット登録してもらってみんなに姿を見てもらったほうが動きやすくなるのかなぁ」


 目的地には数人の男たちが集まっていた。その中のひとりが「蜘蛛レオンはこの中です。4人で糸の採取をお願いします」と奥へと通された。


 次の瞬間──岩が引きづられる音とともに出入り口が大きな石によって塞がれていた。


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