第37話 ノブナガ商会の罠

「なんだ一体!」


 入ってきた道が大岩で塞がれてしまった。どうやらこの道は……「人工的に作られている……のか」


 僕の言葉にゼットンとトーコはキョロキョロ見回した。


「確かに人の手が加えられた感じがするな。なんのためにこんな場所を……」

「アンタァ、ユーコとか言ったわよね! 私たちを閉じ込めてどうするつもり?」


 ジリジリと詰め寄るトーコ、ゼットンも不信な目を向けている。そんなユーコは訳がわからないといった感じでオロオロ、ついには座り込んでしまった。


「ごめんなさい、分からないです。私も呼び出されて付き添いを命じられただけなので……。何も教えてもらえず、行けばわかるとだけしか聞いていません」


「こんなところで争っても仕方がない。塞いだのが、何を閉じこめる為なのか分からないでしょ……もしかしたら蜘蛛レオンを逃がさないためかもしれない」


 最悪、ヴェルダンディーからもらった『或るべき姿』で岩を壊せばいいかな……。


《そのスキルではあの岩は壊せません。今のレベルでは片手サイズくらいまでの変形しか出来ないかもしれません》


「お前、ユーコの守り手だろ。そこでふたりで待っていろ。俺はトーコと奥を見てくる……蜘蛛レオンを倒しちゃっても文句は言うなよ」


 ゼットンとトーコは笑いながら奥へと歩いていってしまった。ふたりの姿が見えなくなると、ユーコが小さく口を開いた。


「レムさん……実は私が付添人に選ばれたのに心当たりがあるんです──


 彼女は語りだした。指示通りキャラを演じられずに罵声を浴びせられ続ける日々、頑張ろうにもノブナガの叱責が頭を過ぎって体が震えてしまうこと。いつしか役立たずとして罵られ、捨てる算段をされていたこと。


 ──もしかしたら依頼を装って事故でも起こさせようとしたのかもしれません」


「そんな……ことが」


《レム、ふたりの気配が薄くなっていきます》


「ユーコ、ゼットンさんとトーコさんが危ない」


 ユーコの手を握って奥へと走った。安全のために待機させておきたいところだが、さっきの話しを聞いたらひとりにしておけない。


「◯×◯▼*ぁそ。……」


 何か聞こえる……気配を悟られないように奥にいる人影の様子をうかがった。


「弱いねぇ、こんな楽な依頼を見つけられてラッキーだったなぁ。報酬も高額だしアイドルを好きにしていいだなんてさぁ……まぁ、ユーコというのが残念だが贅沢はいえんな」


 36の前で力なく倒れているゼットンとトーコふたり、レベルが見えなくなっているということは……そういうことなのだろう。バケツを引っくり返したような血痕に男の残虐性が垣間見える。


「キャー」


 男の言葉を聞いて、ただでさえ震えていたヨーコが目の前の惨状に悲鳴をあげた。


「誰だ! 4人と言っていたからな、残りのふたりか」


 後方には巨大な岩石で塞がれ、前方にはふたりを殺した男。


「ふたりを殺したのか?」

「随分と華奢な女が出てきたな。もっと強いやつが出てくるかと思ったら拍子抜けしたもんだ。まぁ、見た目だけはいいからヨーコと一緒に可愛がってやるよ」


 見た目はワイルドでカッコいいのに……「残念な性格だ」


「なんだと、魔人バラクス様をバカにするとはいい度胸だな。この姿を見ろ!」


 目が赤く光ると共にエネルギーというのだろうか、ビリビリとした何かを肌に感じる。


《魔人とは珍しですね。この世の中、悪魔に魂を売り渡す人も減ったと思ったのですけど》


「悪魔に魂を売り渡した?」

「ほう、良く魔人のことを知っているな。人間なんていくらレベルを上げてもたかが知れてる。同じ努力をするなら魔人になったほうがマシってもんよ」


《彼は種族間格差のことを言っているのでしょう。人族やオークは最弱の部類に入ります、人族世界で生きていく分には困りませんが、多種族と関わるような者にとっては辛いところでしょう》


 ドッガーン── バラクスが仕掛けてきた。彼の拳が僕を狙う。後方に回避をしたがそのまま地面をえぐり取ってクレーターを作っていた。


「お前は一体何者だ、そこに転がっているふたりは反応すら出来なかったっていうのによ」

「いやぁ、そんなこと言われても黙って殴られたら痛いじゃん」

「仕方ない、とっておきを見せてやる ──波状攻撃メツボウセカイ


 ん?なんか聞いたことある技だぞ。


 ユーコを蜘蛛糸で後方に逃し、バラクスの技を受けた。

 左拳を地面を叩きつけ、飛び散った破片を右手で天井に飛ばす……この不思議な動きは……「ネフィリムの技か!」


 天井からは雨のように氷柱石が降り注ぎ、地面は大きく揺れ亀裂を作る。普通なら足を取られて身動き取れないまま地中に飲み込まれるか、降り注ぐ氷柱石に貫かれてしまうだろう。


 天井に粘着糸を放出してぶらさがり、網化糸を傘のように作り出して降り注ぐ氷柱石を避けた。


「な、まさか俺の最強の技……ネフィリム様と共に編み出したこの技が破られるとは」

「もしかしてネフィリムと知り合い? 僕も彼にはひどい目に合わされたよ」

「俺はネフィリム様の配下として役に立つことだけを目標に強くなったんだ。いつかはふたりで世界を獲ろうってな。


 そういえばネフィリムって魔王だったよな。それなら配下のひとりやふたりいてもおかしくないか。


「反撃させてもらうよ!」


 網化糸傘防御の更に上へ次元歪曲を作成、出口をバラクスの上に作った。通常戦闘では使いにくいスキルを活用し攻撃を反射させたのだ。


 バラクスの上に降り注ぐ氷柱石、着実に彼にダメージを与える。流石に魔人というだけあって先の尖った石程度じゃあ致命傷まではもっていけないようだ。


「あー!」……もしかして、次元歪曲を使えば岩を壊さなくても脱出できたんじゃないか。でも……流石に人前で使うスキルじゃないかな? あー、何が良くて何が悪いか全然分からないよ!


「お前は本当に人族か……どう考えてもありえん強さだぞ」


 いやぁ……持っているスキルを使っているだけなんだけど……それなら……蜘蛛レオンの姿に変態した。


「僕は蜘蛛レオンさ、人族ではないねっ」

「いや、もっと可笑しいだろ。素早いだけが取り柄の蜘蛛レオンがなんで人化を……レアなだけで同化さえなければ最弱なモンスターが」


 素早さを生かして一気な間合いを詰める。そして勢いをつけて尻尾をぶちかました。


「グファ」


 くの字に倒れるバラクス、自分の技で傷だらけになりひ弱な僕の尻尾でダウン。


「悪いけど吸わせてもらうよ」


 喰らう糸ベルパイダーでバラクスを吸収した。そして、既に3分以上経っているゼットンとターコも吸収した……「君たちの意思は僕が引き継ぐよ、安らかに眠ってくれ」


《レベルが4上がりレベル5となりました》

《時空歪曲が1上がりレベル5となりました》


 おー、ひさしぶりにレベルが上った。流石最上位種なだけあって上がりにくいんだな。あっ、そうだ。


 ユーコの所に走る。彼女はひとり震えていた。


「終わったよ」

「ゼットンさんとターコさんは?」


 黙って首を振る。ユーコは視線を落とし力なく崩れ落ちた……「わ、私のせいで人が死ぬなんて……私がとっとと逃げ出せば良かったのに……」地面を力強く叩いていた。


「ユーコさん、魔物として生きてきた僕から一言いいかな」

「は……い」 ──ユーコはゆっくりと顔を上げる。

「魔物の世界は弱肉強食なんだ。ズルイとかズルくないとかじゃない、命をとるかとられるかなんだ。ふたりのことは残念だったと思う。でも、僕も含めてこの世界に身を置いている以上、いつ、何があっても文句は言えないんだ」


 彼女は立ち上がると、「はい。内心は分かってるんです。転生前の平和な日本と違うんだって……でも心が追いつかない。こんなことなら前世の記憶なんて無かったほうが良かった」


 そう、日本とはまるで違う世界。僕は生まれかわって直ぐに死に魔物となった。おかげでこの世界の理不尽さに免疫が出来たのだろう。

 バラクスを吸収したこと、ゼットンやトーコを吸収したこと悲しくないと言ったら嘘になるが、心が痛むことはない。


 それでも僕はせめて身近な人だけでも守れるようになりたい。ひとつの種族として媚びずに生きていきたいと決心するのであった。




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