第32話 無一文
「パイリンに紹介されたレムだ。急な出来事に戸惑っている者も多いかと思う。俺は強制的に配下とするつもりはないし虐げる気もない。1年後、サムゲン大森林に新しい街を作るので住んでも良い者は来てほしい、もちろんこの里を潰すつもりもないので残ってもらっても構わない」
よしっ、噛まないで言えたぞ。自然と出るガッツポーズ、心の高揚を抑えながらポーカーフェイスに徹して館を出る。この後のことは、鬼族で話し合った方が良いとベルダンディーからアドバイスを受けていた。
……フゥー 緊張したー。途中で何を言ってるかわけ分かんなくなっちゃったよ。( レンシュシテ
ヨカッタ)
そのそもスピーチっぽいと言えば、せいぜい授業参観で作文を読む位だ、あんな大人数の前で喋らされたら緊張しない方がおかしい。
《スピーチは言葉も大事ですが心も大事なんです。緊張はしていましたがレムの人柄が言葉に乗って良かったです》
あ……ありがとう。このべルダンディーの笑顔に癒される、ウルドはいつも偉そうにしてたもんなぁ。
《姉さんはあれでレムのことが好きなんです。もちろんわたしもレムのことが好きですよ、だから自信をもってください》
え、え、好き? ヤヴァイ……心臓がドキドキしてきた。っていうか、ウルドがお供だった時はほとんど蜘蛛レオンの容姿だったけど。
《わたしたちは姿形で相手を認めるわけではないんです。それに
考えてみれば、ウルドとべルダンディ―を運良く解放することができたが、残りふたりまで封印されたままの状態でいるとは限らない。
しかし約束した以上、どんな状態であれ探し出して連れてこなくてはならない。ダメだったらその時、また
鬼族はパイリンが取りまとめてくれるし、サムゲン大森林の開拓はウルドが担当してくれることになった。
「よし、それじゃあ気ままなひとり旅、ダルメルカ王国を目指してしゅっぱーつ!」
ダルメルカは本来『現在神』が封印されていた場所。なんらかの『時の女神』情報があるかもしれない。鬼族の里を出て北東に向かった先、アーメルダ自由商業連合国を抜けた先にある。
「待ってくださーい、レム様」
走ってくるのはシュリナ! いったいどうした……いや、このパターンは絶対に付いて行くって話しだろう。
「連れていってください付いていけばいろんな薬や植物もみつかるかもしれませんし新しい知識を手に入れられるかもしれませんのでそれが新しい街でもお役に立てると…………」
シュリナの興奮口調……早口過ぎて何を言っているかまでは分からなかったが、付いて行きたいという情熱だけは感じられた。 (ヤッパリ‐)
シオンはサムゲン大森林の街に住んでくれる約束をしてくれた。しかし彼女は留守番、開拓を手伝いながらウルドやパイリンの鍛錬を受けるようだ。
シュリナの巫女服は随分と目立つ、アーメルダは自由商業都市いうくらいなので商業が盛んで人口がとても多い。良い意味でも悪い意味でも心配だ。
《心配には及びません。容姿や服装を極端に気にするのは人族くらいです。アーメルダは多種多様な種族が住んでいますし問題はないでしょう》
べルダンディ―が言うならそうなんだろう。ウルドと違って納得できる。
歩き続けること半日、宿場町に到着した。
宿場町シルド──
アーメルダ領の南西に位置する宿場町、インフェルザン領との国境付近にあるので、多くの人で賑わっている。西に広がるサムゲン大森林は人気の観光地でもあるので、有名な町であった。
「今日はここで1泊しようか」
ひとりだったら無理に泊まる必要は無いが今はシュリナがいる。さすがに女の子を連れて野宿っていうのは避けたい。
「いいんですよ、わたしは野宿でも」
「僕って魔物だけど人には優しくありたいと思っているんだ。だから出来る限り宿に泊まらせてあげたいと思っている。まぁ、町を見て回るのも旅の醍醐味だから一緒に観光もしよう」
▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷
「ひとり3,000ギラー?…… (考えてみれば僕は全然お金を持っていない)、すいません手軽にお金を稼ぐ方法はないですか」
「それなら冒険者登録したらどうだい、ここまで歩いてこれる位なんだからちょっとした魔物なら倒せるだろ」
いやぁなんかいきなり恥をかいた。カッコ悪いところを見せちゃったな。
「レム様、無理して宿に泊まらなくても……」
「いや、ここは意地でも泊まりたい! 僕もそうだけどシュリナだって世界のことをあんまり知らないだろ、ダメな時は野宿すればいい。でもそうならないためには何をしたらいいのか知りたいんだ」
「分かりました、まだ先は長いですからね」
この町は宿場町のイメージがピッタリだ。多くの宿屋が軒を連ね、同じように飯屋も多い。外飲みを愉しんでいる人たちもいる。そんな中、ギルドはとある酒場の一角に作られていた。
「俺はモックスだ。君たちは冒険者登録かい、こんなところで新規登録なんて珍しいな。じゃあレベル情報だけ読み取らせてもらうよ」
ボックスに手を乗せるとポワーっと光る。
──ガチャン。何かが打ち付けられる音、続けてキィィィィィンと高く鳴り響き終わるとプレートが飛び出した。
「はい、君は『I』だね。次はそこのお嬢ちゃんだ」
同じようにシュリナがプレートを作った。
「おお! お嬢さん凄いね、『II』が出たよ。ということはレベル20以上だね」
「それって凄いんですか?」
シュリナの問いに「最初からIIが出るってことは、いつでも軍に入れるレベルの強さってことだからねぇ」。ガハガハとギルドの男が答えた。
「すごいねシュリナ」
「ありがとうございます、レム様」
「じゃあ、登録料ふたりで2,000ギラだ」
手を伸ばす男。
「あ、お金……宿代を稼ぐために冒険者登録をしたので……持って……」
一瞬真面目な表情になる男、しかし直ぐに大声で笑いだした。
「ハッハッハ、こんなところで冒険者登録をするやつなんてそんなものだ。それは俺からの応援だと思ってとっておけ」
「ありがとうございます。必ずお返しします」
「いいぜそんなの。飯食う時はここに来てくれればな。そうだ、何も知らなそうだから言っておくが、サムゲン大森林を見るのは構わんが中には絶対に入るな。精霊王シルフィードの管理地だ、余計なことをしようもんなら森から二度と出れなくなる」
あぁ、そうか。外からのサムゲン大森林の認識はそうなっているのか。僕はお礼をして張り出されている依頼を確認した。
「えっと……人探し、魔物退治、アイテム探し……変わりにケンカしてほしい? いろんなのがあるんだなぁ」
「レム様、リッパンエダノキの採取ってのがありますよ」
「リッパンエダノキって何?」
「サムゲン大森林で寝床を作った時に使った柱です。とても丈夫な木材なので人気が高く色々な所に使われるんです」
あぁー、そういえば。植物学の知識って植物に触れないと分からないからなぁ、名前で言われても全然分からなかった。そうだ!
異空間収納からリッパンエダノキを一本取り出した。強度が高かったので何かの役に立つかと思ってしまっておいたのだ。
「レム様、異空間を使えるんですか! それは人前で使わない方が良いです。バレたら大変なことになりますので……詳しくはあとで話します」
リッパンエダノキと依頼書を持ってモックスの所へ持っていくのであった。
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