第23話 進化、そして進化

 あれから数カ月、本体と体の同時操作にもずいぶんと慣れてきた。不可能だと思っていただけに生き物の可能性に驚くばかりだ。


「よし、今日こそは王立図書館に行くぞ!」

《やっとじゃな、チャチャっと時の女神の居場所を見つけるのじゃ》


 世間では新学期が始まりクラスメイトたちは高等部に進学したり、自分なりに選んだ進路を生きたりしているのだろう。

 ドライニアルミナさんともあの夜以来一度も会っていない。……一応姉弟という立場なんだけどどこで何をしているのやら。


 相変わらずフラッフルンの姿で出歩くと高確率でマリアナと遭遇する。 (フシギデ ナラナイ)


 目的地である王立図書館の特別室に入るためには10万ギラがかかる。1ギラも持っていない僕にはハードルが高く困っていたところをウランさんがマインを助けたお礼ということで簡単な依頼をひとつこなすだけで入場料をもってくれると約束してくれた。


「グラッセス家のお金を勝手に渡すことは出来ませんが、依頼という形で解決してもらえれば、特別室入場コインを差し上げることが出来ます」


 依頼内容は、魔物の核を何でも良いから10個持ってきて欲しいというもの。何でも良ければほんの数時間で終わるレベルなのだが頑張った……なるべくレベルの高い魔物を選定して倒しまくった。


「ちょっとこの量はもらいすぎです! お金に換えたらいいんじゃないですか」

「いいんです、どうせ僕はお金を使わないしマインに何かをしてあげてください」

「蜘蛛レオン様はギルドプレートを持っていたのですから、核を集めるのに討伐依頼を受けていれば良かったですね……申し訳ありません、先に言っておけばよかったです……まさかこんなに強いのを倒してくるなんて思わなくって」


 そうだったのかー、アイギスくんは冒険者として登録していたのだから、ギルドランクを上げるチャンスでもあったのか。


 ウランさんから王立図書館の特別室入場コイン受け取ると、本体を自宅で待機させ体だけで図書館に向かった。


「特別室は今日の閉館まで利用できます。あなたに必要な本がきっと見つかりますので有意義なお時間をお過ごしください」


 王立図書館というだけあって蔵書の数が信じられない。見渡す限りの本、本、本。ナーロピアンな見た目に加えてしっかりとジャンル別に区分けされている。通常スペースだけでも1日あっても回れなそうだ。


「じゃあ特別室に行こうか」


 王立図書館の特別室は、通常では触れることも出来ない貴重な本が集められていた。貴重というより特別と言った方が正しいかもしれない。なんらかの力が加えられた本のみが蔵書されているのだ。


《この場所なら目的の情報が得られるのじゃ。ここは人が本を選ぶのではなく、本が人を選ぶのじゃからな》


 とりあえず気になった本を1冊取り出した。


《激運が1上がりレベル6となりました》


 おービックリした。いきなり本体のレベルが上がるなんて……もしかしてアタリか!


 本をペラペラめくっていく。この本には様々なことが書かれていた。

・魔王は他の魔王に認められることで魔王を名乗ることが出来る。人数制限はない。

・方角を守護する神獣は4柱、4神と呼ばれている。

・精霊は火・水・風・土のどこかに属している。

竜魔人ドラゴニュートは6匹おり、それを従える王として竜王が存在する。


 確かアウラがドラゴニュートって言ってたなぁ、もしかしてその内のひとりだったりして。

《何を言っておる、アウラは竜王なのじゃ。アウラの守ってもらえば安心じゃったからな》


 守ってもらってた? 守っていたのは事実だが嫌そうだったけど。


《それは力を奪っておったでな。我の封印を解く良き人材を見つけたら返してやる条件だったのじゃ》


 それって……脅迫?


《良いではないか。我との賭けに負けたんじゃからの》


 これ以上は止めておこう……あの強さで力を奪われていたって……どんだけ強いのだろうか。


「そんなことより『時の女神』を調べないと……って、あったー!」


 何々……時は4人の女神によって管理されている。過去神ウルド、現在神ベルダンディ、未来神スクルド……ここで記述が切れている。もうひとりは一体?


《それは人知の及ばぬ神じゃからな。実際に見つけてみんと言葉として認識できないのであろう。特別室にある本は様々な種族によって書かれたものや上位の種族が知識として与えたものが集まっておる》


 これほどの本を人の手だけで集められるとは思えない。って、あれ? この本は……魔物図鑑? 思わずペラペラめくってみた。


「あった」


 蜘蛛レオン──蜘蛛の体にカメレオンの尻尾を付けた魔物、『同化』によって周囲に溶け込み姿を隠すことで身を守っている。

 この魔物を倒せば多くの経験値を取得できることから『奇跡の魔物』という名を持ち、倒した者はレベル1であっても35まで上がると言われている。主な攻撃は、毒の牙と強力な尻尾、そして蜘蛛の糸を得意とする。舌を長く伸ばし遠くの獲物をキャッチすることもある。


 舌? えっと…… ぺいっ! 勢いに合わせて伸びる舌、とりもちのような先端が物に触れるとそこにあった物をくっつけて引っ張り込む……あ。待ってー……くっついてきたのは壊れた時計、埃っぽい風味が口いっぱいに広がった。


 それに……『奇跡の魔物』は数種類おり、蜘蛛レオン、拳骨バット、甲虫トビムシなど……この変な名前の魔物は他にもいるようだ。


《異なる文字種が組み合わさった魔物は、魔物を作り出す魔神族が面白がって作ったという話しなのじゃ》


「…………って」ちょっと待て、目を止めたのは魔物図鑑の最期の章。


 進化について──種族は知能が高くなるほど人形ひとがたに近い形で進化する。この世界の90%以上を占める人族は排他的であり姿形すがたかたちが違う生物を迫害する傾向にある。

 人族でない種族は、数千年の時をかけ、人族を排除するより溶け込む道を選んだのだろう…………中略…………そこで、知能を得た生物せいぶつは進化を重ねることで一代で人形ひとがたに変態し姿を使い分けられるようになるのである。


 進化かぁ……僕も進化出来るのかな……。


《進化条件を達成しています、進化しますか? → はい / いいえ》


 はい!


《進化対象は2種類です。 セアカコケレオン / カバキコマレオン》


 ……あのー何がどう違うのか分からないのですがー。セアカコケレオンってあの有名な怖いセアカコケグモっぽいよな……それなら『カバキコマレオン』の方が優しそうだし。うーん。


《進化対象が、カバキコマレオンに決定されました。ステータス、スキルの改変を行います》

《進化によりレベルを半減させ現在のステータスを基礎値として設定します。そして進化後の上昇値を係数として現レベルのステータスとして再計算されます》

《カバキコマレオンの効果により毒スキルがMAXとなります》

《カバキコマレオンの効果により麻痺スキルが解放されました》

《カバキコマレオンの効果により状態異常耐性LV.1がそれぞれに付与されました》


《確率により、上位への進化が可能となりました。 進化しますか → はい / いいえ》


 あの……頭の中がパニックなのですが……

《凄いのぉ、お主は運が良い。ここで進化しないとこの進化はもう発生しないのじゃ》


 そうなんだ……それならお願いします。


《上位種への進化を開始します。進化対象はゴウシュウアンドレオンとなります。ステータス、スキルの改変を行います》

《進化によりレベルを半減させ現在のステータスを基礎値として設定します。そして進化後の上昇値を係数として現レベルのステータスとして再計算されます》

《ゴウシュウアンドレオンの効果により麻痺スキルがMAXとなります》

《ゴウシュウアンドレオンの効果により腐食スキルが解放されました》

《状態異常スキルの半数以上を取得したため、称号『オトシイレルモノ』を取得、それにより混合異常スキルLV1を取得しました》


《これより進化・改変を行います。処理中は休眠状態となります。予想処理時間は3時間です》


 ちょ……、図書館の閉館時間があと1時間……〇。 〇。 〇。 〇。



 〇。 〇。 〇。 〇。


「ん……ん……」


 良く寝た……って、うぉー体が変わってる。透き通るような白さ、青色の美しいライン、あれ? 少し体が小さくなったかな……いつもより視界が低くなった気がする。


《目覚めたか、今はアイギスからだの方を気にした方が良いのではないか》


 あっ、そうだ。意識をアイギスの方に向けた。って、ここはどこだ……医務室だろうか、中等部で見た治療室を大きくした場所。


「ネブローゼ……先生……?」

「あら、あなたは私のことを知っているの? ごめんなさい、私はあなたのことを知らないわ」

「いえ……すいません。あそこの中等部に腕のいい回復の先生がいるって聞いたことがあって。一方的に知っていただけです」

「あらそうなのー恥ずかしいわね。私の仕事はこっちがメイン、必要な時に学校に行って手伝っているの」


 特別室でさまざまな知識が一気に頭に流れ込んできたということで直ぐに解放された。

 死者操作で動かしている体でも人族として認識してくれてありがたい。

 ただ……副館長と名乗る人物が笑いながら「人族で良かったな、違っていたら密偵の容疑をかけられて帰れなかったかもしれんぞ」と言っていたのを聞いて少し怖くなった。



===

あとがき一口メモ。

蜘蛛レオンとは蜘蛛レオン種の総称である。




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