第22話 アイギスとルミナ
深夜にも関わらずぱらぱらと歩いている人の姿、何人とすれ違ってもこちらに興味を示すことはない。
あー!、静かに街を歩けるってなんて幸せなことなんだぁ。思わずテンションが高くなる。
空を見上げれば煌めく星、視線を移せば草がなびいて葉擦れの音が耳に入る。こんなにゆっくりと自然を感じたことは初めてかもしれない。まぁ、
「はぁー、帰って来たー」
ほんの数時間しか家を離れていないのに何日も空けていたような気分だ。そんな僕の元に走ってくる女性……誰だこの人?
「蜘蛛レオン様、ようやくお戻りになられましたか」
「あー、ドライニアさん!」
焦っていたので依り代として収納した体を見ていなかったから誰だか分からなかった……なんというのだろう。この清楚な雰囲気、ドライニアさんのイメージにピッタリ、というかゆらゆら薄っすら見えていたドライニアさんに似ている気がする。
「そんなに見つめないでください。恥ずかしいじゃないですかぁ」
「えっと……、ドライニアさん……ですよね? キャラが変わってませんか?」
鳥がぴゅこぴょこ枝移りするように、自分の体を見回るドライニア。
「この体、宿る力が残っていたようなんです」
「どういうことですか?」
「体に刻まれていた強さやスキルが引き継がれているんです」
確かにユウノやバーバラを死者操作したときより体内に力を感じる……と、いうことは「強さが引き継がれてる?」……そうか、だからドライニアさんの数字が16になってたんだ。と、いうことは僕も同じように強さが引き継がれているのかもしれない。
「そういうことになります。そのせいで体が持っていた性格に引っ張られているんですよ」
《うぅむ、ひとつだけおかしいことがあるのじゃ》
ウルドが珍しく首をかしげている。
《この2つの体はおかしいのじゃ。容姿が精神に引っ張られているのじゃ。主の記憶にある悠人にどことなく似ておるのじゃ》
慌てて鏡のある部屋に駆けこんだ。所々ひび割れてボロボロではあるが立派に目的は果たせる鏡。
「た……確かに……同じというわけじゃないけど……どことなく似ているというか」
そう考えるとドライニアさんの容姿も合点がいく……でも、蜘蛛レオンっぽい顔に似せられてたらどうなってたんだろう……あー、本体を動かすのを忘れてた。
ふたつの体を同時に動かすなんて無茶な話しだ。前のように首を落として……いやいやいや、感覚が共有されてるんだぞ…… (コワスギル) やっぱり良いことばかりじゃないよな。
《死体操作を解除して再操作することも可能じゃぞ。死んでから時間が経っておるで宿る力は一瞬で抜けてしまうがの》
このままの方が都合が良さそうだな、この体に何かあっても正体は
「蜘蛛レオン様ー」
広間から呼ばれる大きな声、慌ててドライニアさんの元に戻った。
「ドライニアさん、何かあった?」
「これを見て下さい」
持っていたのは小さなプレート、『I』という数字がはめ込まれ、横に『ルミナ・パラス』と書かれていた。
ポケット探ると同じプレートを発見、『I』の数字と『アイギス・パラス』という名前が書かれていた。
「この体は冒険者の様ですね。名前から察するに兄妹かと……」
………………
ドライニアさんとの打ち合わせした結果、
翌日──
僕は
これが思ったより難しい。2つ同時にアクションゲームを操作するようなもの、VRゲームのような没入感にどちらが本体だか分からなくなることがある。
「あら……メロディーちゃん」
目の前にいるのはマリアナ、相変わらず魔物操作をかけてくる。なにより
えーと、アイギスの容姿としてマリアナと会うのは初めてだったよな。
「えっと、うちのフラッフルンのことを知っているのかい?」
「はい、飼い主がいないかと思って学校で拾ったんです。でも行方不明になっちゃって……昨日久しぶりに再会して飼い主がいたことを知りました」
「あぁ、君がメロディーちゃんって名前をつけてくれた……姉さんから聞いたよ」
はい思い付きで答えてます。昨日出来事を
「今日はお散歩ですか? ってあら? メロディーちゃんが寝ちゃってますね」
あぁぁ、しまった。体の方に集中するとつい本体への意識が切れてしまうんだよなー。
「ははは、この子は賢くってね。僕が話し込むと暇を察してか寝てしまうんだよ」
良かった……ごまかせた。
「確かに賢いですよね。接していると私の言葉が分かるんじゃないかと思うことが何度もありました。そうだ、もし良ければ今度その子を貸してください。家にいるフラッフルンと
!!!なんと……僕がフラッフルンの雌と……いやいやいや、倫理的にNGじゃないか。
《クっクックック、良いではないか。そうすれば彼女の追っかけから逃げられるかもしれんぞ》
「あはは、ぼ……僕のペットじゃないからね。姉さんに話しておくよ、あ、そろそろ帰るね」
体に僕を抱えさせて家路についた。こうしないと集中して歩くことも出来ない。しばらくこのまま街の中を散策することにした。
この辺りは卒業式にまで参加した中等部の学区だったせいか顔見知りを良く見かける。なんとなく学区外にある国立図書館の方まで足を延ばした。
実は街の住民たちは浮足立っていた。昨日戦った『蠍の魔物』を倒した冒険者を英雄として盛り立てているのだ。
言うなればネフィリムの時と一緒だな……たまたま僕の毒で弱っていたところに居合わせた人が倒したのだろう。
なんでそんなことが言えるか……それは蠍の経験値をもらえなかったからだ。毒を入れた魔物が死ぬまでに幾分かの時間がかかる。その間にパーティーを組んでいない他者に一度でも攻撃を入れられると、討伐フラグを持っていかれてしまうからだ。
本当にMMORPGみたいな世界だよな。小説なんかだと誰かがこの世界を作って管理しているような話しがあるけど……。ここは
別に世界を救おうとか勇者になろうとか思わないしなー。
《主は欲が無いのぉ。最弱の魔王とはいえネフィリムを倒したのじゃ、この国の王となって治めるのも面白いかもしれんぞ》
そんなつもりはない。異世界に転生したおかげで、 (イキナリ シンダケド) 仕事に捉われる人生を送らなくて済んだんだ。だからこそ平和にのんびり生活したい。 (コレガ モクヒョウダ)
約束した『時の女神探し』を終えたら僕を蜘蛛レオンにした爺さんを探してお礼でもしたいなぁと思っている。
「あれー? アイギスじゃね?」
うーん、誰だか分からん。ユウノたちと同じ歳位か? まだまだ若い数人の男女が近づいてきた。
「あれ? なんか顔が変わったか? 何をしたって貧乏くさい雰囲気は変わらないな」
「フラッフルンを抱っこして散歩なんてダサーイ」
「高等部に行けなくて冒険者になったんだろ。1年やって何か達成したのか?」
「私たちは王立高等部よ、いわばエリート、まぁせいぜい底辺で頑張れや」
「ルミナちゃんは可愛かったのによー、俺が面倒見てやるって言ったのに貧乏な道を選びやがってよー」
あー、そうか。
頭上の数値は16程度、ルミナと同じじゃないか。きっと偉そうなことを言っているのだから凄いのだろう。
「じゃあ、そういうことで。見下すような相手に絡む位だったら自分を高めた方が良いよ」
笑顔で手を振って立ち去った。後ろでギャーギャー騒いでいたが無視、まさか僕が見下す相手をあしらう日がくるなんて思いもしなかったとドキドキしながら帰るのであった。
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