第21話 ゆらゆらゆらゆらドライニアさん
あれから何日探しただろうか。蜘蛛レオンの姿で探すとなると夜しかない……死体操作を使って偽装すれば回りを気にせず探せるが移動スピードが遅すぎる。
《フラッフルンから白髪を探すような話じゃのー》
「なにそれ?」
《フラッフルンの毛は白いでのう、その中から白くならなかった白い毛を探すほどに大変だということじゃ》
「あー、砂漠の中から一本の針を探すようなものかぁー」
《言い方なんぞどうでも良いのじゃ》
あれ? なんだあそこ……何もないところに数字が浮いている……。あの数字はドライニアさんの数字と同じ。まさか、
慌てて数字の近くに寄ってみる。近づかなければ分からない気配、こんなのレベルが見えてなかったら絶対に見つかるわけがない。
『 (あぁ、蜘蛛レオン様……やられてしまいました……依り代を……依り代を……)』
か細い声、やっと訴えかけているのだろう。先ずはドライニアさんの依り代を探す必要がありそうだ。
《良かったのー見つかって。最近は冒険者が多いから探すのが大変じゃったろう》
そう、ギルドで高額な懸賞金をかけられた魔物が出没しており、討伐を目的とした冒険者がとても多いのだ。
ドライニアさんが見つかったから……迷宮に行って当面のドライニアさんが入る体を探しに行こう。
と、一旦街に帰ろうとしたときだった。
「お嬢様、私を置いて逃げてください」
「いやよウラン、そんなこと出来ないわ」
「みんな……みんなやられてしまいました……せめて、せめてお嬢様だけでも」
あの声は……ウランさんとマイン! 何かと戦っている……3メートルほどある巨大な蠍、口が丸く円の内側に尖った歯がグルリと生えている……。
歯の隙間にはたくさんの衣服の端切れ、周囲に倒れている
こんな時なのに紫色のボディが月夜に反射して煌めいている姿がカッコいいと思ってしまった。
蠍の頭上には30、マインとウラン以外に頭上の数字が見える人はいない。既に全滅間近だったのだろう。
この蠍を倒すことは容易い……しかし蜘蛛レオンの姿をマインには見せたくない。ユウノの姿でしか話したことないし、僕のことなんて分からないだろうが何となく嫌だ。
そうだ! 死者操作スキル…… ここにちょうどふたり倒れている。ひとりをドライニアさん用に収納して……もうひとりを彼女たちの盾として動そう。
《死者操作のレベルが1上がりレベル10となりました。スキル特性として五感接続が発動されます》
なんだそれ、いや、今はそんなことを言ってられない。
体をマインたちの前に移動させて裏に回り込む……ん? なんだこの違和感。操作している体から、視界、匂い……全てを感じる。
握られた手の温かみ、足に感じる地面……体が2つあるような不思議な感覚……。
「そんなことより先ずはあいつを何とかしないと」
毒化糸を蠍の体に突き刺した。
効いてないぞー的な雰囲気を醸し出していた蠍に異変……焦ったように怒りだし体に向けて尻尾を振り払った。
それを腕をクロスさせてガード、どうせ体は痛みを感じないし粉砕されたらたくさんある体に乗り換えればいいだけ。
蠍に毒が回っているのか尻尾の勢いは弱い、そのままガード……これなら粉砕されることはないだろう……って、『
打撃を受けた場所を中心に痛みが広がる。もしかして五感接続って……今までは別の体をラジコンのように動かしていたが、自分のもうひとつの体のようになっていた。
目が見えるなら逃がすことができる! 体にウランとマインの手を取って街までダッシュさせた。視界が共有しているので変な方向に走ることはない。僕は粘化糸を蠍の足に絡ませて動きを封じるとドライニアさんの元に走った。
ゆらゆら揺れる頭上の数字、今はあの辺りが頭なのか……思わずその揺れる数字を暫く見続けてしまう。 (ゴメンナサイ オモシロカッタンダモン)
『ドライニアさん、依り代を持ってきたよ』
拾った体を置いてあげると、頭上の数字がふらふら吸い込まれるように体の中へ入っていった。
…………。
あれ? ダメだったかな? そう思った瞬間パチリと目が開いた。立ち上がると体の調子を確かめるように動かすドライニア。
「あぁ~助かりましたぁ~。一時はどうなることかと思いました~」
あれ、キャラが違う? 子供のような話し方……ドライニアさんじゃなかったか?
『ドライニアさん?』
「えっ、あっ、蜘蛛レオン様。失礼しました、嬉しくてつい素が出てしまいました。いきなりユウノ様の体から追い出されてしまったので……いったい何が起きているのでしょう」
これまでのことをかいつまんで説明した。話さない方が良い部分を省いて……。
ドールマスターが復活してドールに宿る力を移しているという点、死んだはずのユウノとバーバラの宿る力が復活している点、バーバラの体を取られたが頭だけを持っていること含めて伝達した。
《取られたって、自分の体を取り返しただけじゃからどっちが奪ったというのが正しいのじゃろうな》
う、痛いところを。まぁ頭だけ持っていても仕方がないし、近々返す予定だ。
「蜘蛛レオン様、街が近づいてきました。そのお姿ですとまた騒ぎになるかもしれません」
確かに……そのせいで街がお祭り騒ぎになってバーバラが命を落としてしまった。知らないだけで他にも被害を被った人がいたかもしれない。
『フッフッフー、実は対策を考えてあるんだ!
フルッフルンの姿へ変態、綿菓子のようにふんわりとした白く長い毛の愛らしい姿に、ドライニアさんも「やっぱりフラッフルンは可愛いですね~」と喜んでいた。
「メロディーちゃん!」
街の目前で飛んできた聞きなれた声。君はいったいこんな時間にここで何をしているんですか……。
マリアナはテコテコと走り寄って拾い上げると、極楽に連行されるナデナデが飛んできた。
『
「お嬢さんすいません、そのフラッフルンは私のペットでして……返してもらっても良いですか」
「そうだったんですか……分かりました。はい、どうぞ」
「助かりました、あなたのお名前をお聞きしても良いでしょうか」
ウランさんとマインの声に五感が引っ張られる。「ありがとう」「もし良ければその子に会いにいかせてください」……あれ?こっちはマリアナの声……「あのー、助けてくれてありがとうございます」……今度はマインか……。
思考が混乱する。体と本体を同時に動かすってヤバイ。あまりの情報量に思考がついていかない。
『ドライニアさん、少し寝たフリをするので僕の家まで運んでください』
本体であるフラッフルンはドライニアさんの手の中で丸くなる……それにしてもマリアナはちょいちょい『魔物操作』を入れてくるな。
「あ、すいません。ちょっと疲れてボーっとしてしまって……ふたりともケガはないですか」
「はい、おかげさまで。本当にありがとうございます。最近ウランが夜な夜な魔物討伐に出かけていることを知って、隠れて付いてきちゃったんです」
「お嬢様、夜はダメだと旦那様から言われていたでしょう」
「だって……ウランが夜になると毎日でかけるから心配になって……」
本当にマインはウランさんが好きなんだなぁ、幼いころからずっとウランさんが専属メイドとして一緒だったっていうし。 (アネ ミタイナ モノカナ)
「夜も遅いし家に帰ろう、家族の人たちも心配してると思うよ」
手を振りながらウランさんに「 (ドライニアさんを助けたよ)」と小さく伝えた。
「 (あ、ありがとうございます。このお礼はきっと)」
「ちょっとウラン、大人たちでイチャイチャしないでよね」
「違いますお嬢様、お礼をするので後でグラッセス家に来てもらえるようにお願いしていたんです」
「それなら、私からも是非お願いします。せめてお名前を伺ってもよろしいですか」
えっと……適当な名前を言って後でおかしい?ってなっても困るし記憶喪失を語るのもなんか変だ。それなら良くある……。
「名乗るほどの者ではありません。ではっ」
多くは語らない。ドラマのワンシーン的なシチュエーションに心の中では大興奮、緩んだ顔を見られないようにその場を立ち去ったのだった。
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