第20話 生と死と
「それでは魔王擁立作戦を実行する前にみなさんの抱える問題を整理しましょう」
明るい声で話し始めるパティア、円卓を見回すローブ姿、配下として真剣な表情でマスターを見つめる面々、この光景は厨二心をくすぐられる。
「はい、先生」
バーバラが手を挙げた。
「どうぞバーバラさん」
バーバラは立ち上がって口を開く。
「頭が行方不明なんです。体だけは取り戻すことができました。頭のことを耳にしたらどんな小さなことでもいいので教えて下さい」
「それってさー、俺の体を動かしてたやつと関係があるんじゃないかと思ってるんだ」
ユウノが顎に手を当てて考え込んだ。
「行方不明だったユウノ君が記憶喪失になって迷宮から戻ってきたなユウノ君ね」
「あぁ、執事と弟に騙されて毒殺された俺の死体を使ってたんだろうな」
ユウノくんの中身って本当にドライニアさんなのか? とてもそうは思えないんだけど。
「バーバラさんは、先生がドールに『宿る力』を移してる時に体を持っていかれちゃったんだもんね」
「はい! ユウノ君と同じように記憶喪失として家に潜り込んでたようです……でもなんで取り返した時に頭だけが無かったんだろう」
「俺の体は精霊が動かしてたもんなぁ、ちゃんと頭はあったぞ。ただ精霊が入ってたが……」
「先生が邪魔だからどっかに吹き飛ばしてくれたんですよね」
そうか、やっぱりユウノの体はユウノ自身が動かしているんだ……。
もしかしてここにいる面々はパティアに作り変えられたドールたちなのか。
「先生、精霊ってペットのように可愛いらしいのかしら? それなら私もひとつ欲しいわー」
「精霊は実体を持たないのよ。きっとその辺りで彷徨っているか、植物を依り代にして風に揺られてるかもしれないわ」
「先生は精霊には厳しいですね」
「この姿になる前……ずっと、ずっと昔はキレイでファンタジックな精霊が好きだったわ。でも、この世界に来ていろいろと見ているうちに死者に取り憑くドライアド族が嫌いになったの」
ドライニアさん……一体……どこにいったんだ。
「私は可愛いペットさえいればいいわ。ソロンさんとキロンさんは何か言っておきたいことありますか?」
「大丈夫よ。この場所にくればいつでも思いっきり翼を広げられるもの、それだけで満足だわ」
「有翼族も大変だな。人族は人の姿を成していない種族には冷たいからな」
「その通り! 先生もそう思うわ。姿かたちは違っても中身が大事なの。どんな姿をしていても心のキレイな人はいるわ……みんなが笑って暮らせる世界を絶対に作りましょう」
……
この後は学校での出来事、街での出来事。どんな良い行いを見たのか、どんな悪い行いを見たのか……そんな情報共有が和やかに行われていた。
ほんとうに学級会でも見ているようなノリだなぁ。
「はい、じゃあ今日はここまでにしましょう。みんながみんなの意見を尊重できて良い会議が出来ました。先ずはバーバラさんの首をみんなで見つけましょう。どんな小さな情報でもいいので共有して必ず探してあげましょう」
「「「「「はい」」」」」
みんなの声がハモった。考えてみればバーバラの首は僕の異空間に収納してある。この場で出すわけにはいかないし……後でそっと返してあげた方が良さそうだな。
「じゃあ、メロディーちゃん帰りましょう」
マリアナに連れられたまま自宅に戻った。家の中では自由に動けるが常に監視されている。知識を持っていることがバレてしまったせいだろう。
そして数日──
いまだにマリアナの家にいた。どーせいつでも逃げられる。温かいゴハンと心地よい寝床が最高! ベッドの上でゴロゴロしても大丈夫……すっごく過ごしやすいんだもん。
《いつでも逃げられる? 嘘をつくでない。主の撫でられてるときの顔は傑作じゃぞ、すっかり心を奪われ精神的に捉われておるではないか。動物操作は回避できても魅了は破れんのか》
なんと……マリアナは魅了スキルも持っていたのか。どうりで……
《いや、そのスキルは持って無いのじゃ。主の心が彼女を欲しているのじゃ》
……確かにこのままここにいるとヤバい気がする。あの極楽に連行されるナデナデを受けられなくなるのは心残りだが、いつまでもウルドにバカにされているわけにはいかない。
建物の隙間を利用して薄く
《細くなったんだからある意味スマートな脱出ではないか》
こういうときのために瞬間移動スキルが使えると便利なんだけどなぁ。
《あれは
《そんなことより、時の神をそろそろ見つけに行かんか。どうも主には探そうという気概が見えんのじゃ》
ははは、ごめんごめん…… (すっかり忘れてた)。明日、国立図書館に行って文献を調べてみよう。何らかの情報が得られると思うんだ。
そして更に数日━━
困った。蜘蛛レオンの姿で街は出歩けないし、フラッフルンの姿で出歩いてマリアナにでも見つかったら一大事。なんとか体を手にいれなければ……。
「失礼します!」
急な来客にアタフタと物を転がしながらソファーの陰に隠れた……来客を知らせる何かが無いものかなぁ。と少しイラッとしながら覗き込んだ。
ウランさん……。
「急にどうしたの?」
「あぁ、蜘蛛レオン様……その声はバーバラさん。良かった、ちゃんとバーバラさんの中にいたんですね」
ウランさんは
「訳あってバーバラの体から追い出されたんだ。今はバーバラの声を借りているだけだよ」
「そうでしたか……実はユウノ様とバーバラ様が普通に生活しているんです」
「普通に生活しているなら問題ないんじゃない?」
「バーバラ様は記憶が無いとは思えないほどに学友と交流をし、ユウノ様もまたドライニア様が入っているとは思えないほどに目立っているんです」
考えてみれば凄いことだ。他者によって奪われた命、僕やパティアからの介入を除けば『死』が無かったことになっているのだから……。
《主の言いたいことは分かる。しかし生物の進化には理があるのじゃ。種族は死と生によって環境に順応した進化をし発展していくのじゃ。それを捻じ曲げる永続的な
「死者蘇生は……」
《難しい話じゃが、死者蘇生は時間を戻すスキルであって生き返らせるスキルではない。生き物としての寿命を全うするための補助的なものなのじゃ』
「うーん……」
《難しく考えるではない、これが世界の理じゃ。死を回避するスキルとして一つだけ許されているのは
色々と考えてしまう。あのパティアという者は何を考えているのだろう……なんのために仲間を増やして……。
「……蜘蛛レオン……様?」
「ごめんウランさん、ちょっと考え事をしてたよ。ウランさんの言う通り僕はもドライニアさんも借りていた体を追い出されてるんだ」
「そんな……それじゃあドライニア様はどこに……ドライニア様は普通の精霊とは違うんです。実体を失うと動くことすらできない体なんです」
ウランさんによると、ドライニアは精霊の持つスキルである実体を作り出す力を捨てた。何かを依り代に行動する制約を課した変わりに、基礎能力と成長力を強化……この地を守るものとしてなんとしても責任を果たしたいと思っているようだ。
「状況は分かった、夜になったら僕が探してみるよ!」
これが新しい体を手に入れるキッカケになるとはこの時は思いもしなかった。
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