第19話 パティア先生のペンタグラム
マリアナ邸は平民街に良くある一般的な建物だった。
扉を開くと窓から入った光が薄暗い室内を照らしている。この世界の照明は日本の様式に近い、スイッチのような特殊なプレートがはめ込まれ、軽く触れて魔粒素を流せば備え付けられた電球が光る仕組みである。
照明を点けることなく奥の部屋へと歩いていくマリアナ、出迎えてくれる人はおらず、街の喧騒だけがくぐもって聞こえているだけであった。
「じゃあメロディーちゃん、みんなの所に行きましょう」
一番奥にある小さな部屋に隠されたスイッチに触れると、眩い光が僕たちを包むと一瞬で周囲の景色が変わった。
《確率により『瞬間移動』LV.1を獲得しました》
あ、なんか覚えた。
──『瞬間移動』とは登録された
と、いうことは『瞬間移動』だけ持っていても意味がないスキルってことか……。
「メロディーちゃん静かにしていてね、これからマスターを魔王にするための会議があるから」
魔王? えっえっ、マリアナ……普通の中等部の生徒だよな? 頭上の数字は15、同年代の平均レベルは9程度だから確かに高いけど……。
実は魔王だったという堕天使ネフィリムが思い返される……それでもレベルが50だった。
「メロディーちゃんそんなに震えなくても大丈夫、何かされるわけじゃないから……でもやっぱり私の言葉が分かってるようねぇ」
頬に手を添えるマリアナ。
あ、ヤバッ、つい反応する失敗を何度も何度も何度も……はぁーダメだ。気をつけても反応してしまう。
「マリアナ、君の口調のせいじゃないか。動物は感受性が高いっていうからな」
「ああ、ユウノ。もう体は大丈夫なの?」
「なんとかな。グラッセス家の血のおかげだ。記憶まで戻してもらえてマスターには感謝だよ」
「本当よねぇ、マスターのおかげでハプーン家も元通りだ、従わされていたのが嘘みたいに心地良くなったわ」
ユウノ、それにバーバラ……なんでこんなところに。
「みんな同じ時間だね」
「当たり前だろう、同じ卒業式に参加してたんだから」
「それにしても瞬間移動先の
ずいぶんと和やかな雰囲気だなぁ……マリアナが言っていた魔王の会議って……このメンツだと謝恩会の出し物かなんかか?
いや、昨日のバーバラの乱心姿を見るとそうとも言えないか……。
広さは1辺10メートル程だろうか、それなりの広さがある部屋で中央に大きな円卓が置かれている。その周りを11個の座席がグルリと並んでいた。
「ようこそ、私を『魔王に擁立する会議』へ」
上座に座るローブを着た者……バーバラの夢に出ていた怪しい人物と同じ雰囲気だ。頭上のレベルは1……? えっえっ1? 魔王になるんだよね? フラッフルンの最低レベルだって2だったぞ。
着座していく面々、ユウノ、バーバラ、マリアナ、あとふたりは知らない人だ。
「新しい人、入ったんだねー」
バーバラの問いに、上座の者は立ち上がった。……夢で見た通りの小さな出で立ち、一体何者なのだろう。
「本日を以て|パティアを取り巻く
「バーバラ・ハプーン、ハプーン家の3女、趣味は色んな事を学んでいい男を見つけることです」
「マリアナです。獣人族の動物使い。可愛い動物が大好きです」
「ユウノ・グラッセス、グラッセス家長兄。一度死んだが色々あってマスターに助けられた。邪視・守護者を所持している」
「ソロン・パピオンよ。有翼族のひとりで、人族として高等部に通ってるわ、今日からよろしくね」
「新しく入ったキリドだ。鬼族の里を救うための修行中だが、いつかは里に戻って強さに呑まれて天狗になってる馬鹿をぶん殴りたいと思っている」
なんだこの多種多様なメンツは……本気なのか冗談なのか……。ユウノって中身はドライニさんなんだよなぁ……。
「先生!」
「はい、バーバラさん」
はいぃぃ? せ・ん・せ・い? あまりの違和感に軽い目眩に襲われる。
「先生は、今、誰になってるんですか?」
ゾクッ──一瞬の寒気。ローブ姿の雰囲気が変わった。生徒たち……じゃなくて、円卓に座っている面々の顔も強ばった。
……ローブをとったその姿は……ユマ・エリン。さっき、中等部の卒業式で熱弁を奮った
「良くそんな大物の体を奪いましたね」
「もちろんよ、
「我らは先生に恩義があります。何を目的としても命を賭けての協力します」
「みんなありがとうね。でも普段は若人ならではの楽しみ謳歌してねー。そうだ、ギリドさん、先生のことは先生ってう呼んでください。パティアでもいいけど先生のほうが嬉しいです」
内容は別として転校生が入った学級会みたいなノリだなぁ。にしても、あの先生とかいう人、ネフィリムよりレベルは低くても強いオーラを感じるぞ。
《やはりドールマスターであったじゃか》
ドールマスター? ドールマスターってなんだ?
《ドール族……ひとりしかいない種族じゃ。じゃが無限に生み出すボディーに他者の能力をアップした上で移すのじゃ。目的を達成するためにどんどん眷属を増やす厄介な種族じゃな》
それってヤバいやつじゃん。みんながそのドールマスターの言いなりになるって訳だよね。
《そういうことじゃ。マスターが何を目的にしておるかじゃな。前回のドールマスターは国を奪って民を全てドールにしおったぞ》
よし決めた! ドライニアさんに話しを通して関わらないようにしよう。僕はヒーローでもなんでもないし、国を救うなんて大それた事を達成したいとも思わない。 (ヘイワニ クラシタイ)
「ところでマリアナさん、そのフラッフルン可愛いですね。先生も動物は大好きなんですよ」
「不思議なフラッフルンなんで飼うことにしました。『魔物操作』も効かないし、人の言葉を理解している節があるんです」
エマの姿をしたパティアはローブを羽織り、さっきの姿に戻ると近づいてきた。
「この子何という名前ですか?」
「メロディーちゃんです。この可愛らしさにぴったりでしょ」
にこりとするマリアナ。フードで影になっているせいかパティアの顔は見えない。しかし圧迫感みたいなものを体に感じる。
《スキル『ディスプ』が発動されました。ステータス情報の開示を許可しますか?》
いやいやいや、怖いわ。見せるわけ無いでしょ。強く拒絶した。
《スキル『ディスプ』が発動されました。ステータス情報の開示を許可しますか?》
また来た。繰り返すこと5回、全てを拒否、パティアは諦めたのか席に戻った。
「マリアナさん、この子に『ディスプ』が通りませんでした。獣というのは本能で動くもの、数回発動すれば1度位は許可してしまうものなのです。ということは、このフラッフルンは明確な意思を持って拒絶しているのでしょう」
しまったー。でもさっきの情報開示を許可したらがっり見られちゃいそうだしなぁ。
《レベルや体力、攻撃力や魔法力などのステータス情報は全て見られてしまうぞ》
究極の2択じゃないかぁ! レベル62なんて見られたら何をされるか分からないし隠匿1択、とぼけるのみ。……と、いうかこの場所から早く逃げ出したい。
「メロディーさん、良ければあなたも先生たちの仲間になりませんか? 意思を持つフラッフルンがいれば戦略に幅ができますから……君は今よりもっと強くなれますよ」
いやいやいやいや、これってバーバラの時に見た夢と一緒じゃないか。断わる断る断るー!
こんな学級会のようなノリの会議は続くのであった……。
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