第11話 バタイ・グラッセスの本音

 学校へ行くことになってしまった……。

 教科書を開いてはみたがサッパリ理解できないし何を学べというんだろう。いや、もしかしたら授業を受けることで獲得できるスキルがあるかもしれない!


「ハァー」


 思い出されるのは、帰って直ぐに言われた両親の言葉、

 ○。○。○。

「ユウノ無事だったか! どこをほっつき歩いてたんだ。明日からちゃんと学校に行くんだぞ

 ○。○。○。


 だって。でもメイドさんたちは優しかったなぁ……。貴族と言えば平民をいじめて左うちわなイメージだけど違うようだ。


《主のイメージは悪徳貴族じゃな、一般的な貴族は国のために働き、時には王のために命を捨てなければならんこともあるのじゃ》


 ウルドの言葉は助かる。どうしてもこういった世界はラノベやアニメでみた知識がベースになってしまう。でも記憶を覗かれるのは怖い……何を引っ張り出されるか分からないし。 


《ずいぶんと環境の変化に適応できるようになったのう。いい傾向じゃ、ひとりで生きられるすべが精神的なゆとりになっているのじゃろう》


 家を出てはみたものの困ったことがある……学校の場所が分からない。


「仕方ない、メイドさんに教えてもらおう」


「あらユウノさんじゃない。病み上がりなのにもう学校に行くの?」


 通りがかったのはメイレーン、昨日とは違った制服姿がなんとも可愛らしい。


「父に学校へ行くように言われてね。でも肝心の学校の場所が思い出せないんだ」

「ふふふ、それなら私が案内するわよ」


 いやぁ渡りに船とはこのことだ。本当に良い子だ……こんな妹が欲しかった。


 彼女と話していると、クラスメイトだった九重ここのえ世羽よはねさんを思い出す。誰にでも優しかったよなぁ……双子の姉は厳しかったけど。

 

 彼女のこと、学校のこと、通学中に色々なことを教えてもらった。これからどうなるか分からない以上、郷に従うのが良いだろう。


「あれがわたしたちの学校だよ、3年生だからもうすぐ卒業だけどね」


 メイレーンの指す先には洋画で観たフクロウ飛び交う魔法学校をイメージさせる建物があった。周囲の家屋に溶け込んでなんともよい雰囲気である。


《主の記憶にある『ハローポットー』という学校に似ておるな。こういう雰囲気をナーロピアンと括るのじゃな》


 なんか色々と混じってるみたいだけど……まぁいいや。


「ユウノ様」

「おはようございますシシリーさん」


《後方に嫌な臭いがするのじゃ……これは弟の臭いじゃな。それに前方から不穏な臭いが漂ってくるぞ、注意するのじゃ》


 怖いこと言わないでよ。って、フードを着た26が前かがみになって走ってきた。

《あやつ、刃物を持っておるのぉ》


 視線は……「シシリー!」


「はい、なんでしょうユウノ様」


 後ろからはバタイおとうとが走ってきている。シシリーは刃物の男に気づいていない。仕方ない……シシリーに覆いかぶさった。


 ザシュ!──


「シシリー、俺が来たからにはもう大丈夫だ!ってあれ?」


 弟よ……何言ってるんだ。

「チッ、 (失敗したか。依頼ってことで殺れたのによぉ)」


 ボソッと言ったこの声……女か?


「ユウノ様ユウノ様、私を庇って……誰かフードのを捕まえてちょうだい!」


《ほれ、早く死者蘇生をかけないと体の方が死んでしまうぞ。その体は弱っちいでな》


 『死者蘇生』によって腹の傷が癒えた。良いのか悪いのか治ったのは体だけ、服にはべったり血糊が広がっている……死者の体なのに血が出るんだ。


《当たり前なのじゃ、死者として生きているんじゃからのぅ》


 死者として生きてるって……ずいぶんと難解なことを言うな。体の感覚が全くないからどういう状況かも分からないし。


《早く倒れた方が良いのではないか、周りは一生懸命に助けようとしておるぞ》


 必死になって患部に回復魔法を当て続けるシシリー、「直ぐに先生を呼んできます」と走って行ったメイレーン。バタイだけはオロオロとなんとも言い難い表情をしていた。


 痛くないし怪我も治ってるけどどうしよう。ナイフで刺されたのに普通に起き上がったら大変な騒ぎになるのは僕でも分かる。


 シシリーの魔法気持ちいいなぁ。感覚はないはずなのに不思議なもんだ。


回復のネプローゼ先生を連れてきました!」


 すっごい息切れのメイレーン、必死になって連れてきてくれたようだ。


「ユウノさんが男に刺されたって? シシリーさん、そのまま回復魔法を当て続けてちょうだい。先生と重ね掛けしましょう。ユウノさんは目を瞑っていて下さい。その方が回復も早いはずです」


 あまりに周りが心配してくれるもんだから何も言えない……あぁ、今度は担架まで持ってきてくれた。


 あっぶない、担架に乗せられるときに首が落ちるかと思った。


「ゆっくり急いでユウノさんを治療室に運んでちょうだい」


 驚かせたら申し訳ないし、このまま成り行きに任せるのが得策だな。それにしても死者操作ってすごいスキルだよ生きてる人と変わらないんだもん。


《死者操作スキルは『宿る力』を体内に宿すのじゃ。肉体しか戻せんので思考は操者が担うのじゃ》


 こういう仕組みって誰が作るんだろう……こんな世界で科学が発展したらどんな世界になっちゃうんだろう。

   

「シシリーさんの初動が良かったから大事にはならなかったわ。あとは先生に任せて教室に戻りなさい」 


 回復のネブローゼ先生は生徒たちを教室に戻らせると、「私も報告に行ってくるからゆっくり寝ててね」と治療室を出て行った。


「ふぅー。なんか疲れた」


 ガラッ━━


 誰か来た……バタイか? 来てくれたのか。


「兄さん……兄さん……大丈夫?」

「…………」

「寝てるのか……まったく運のいいやつだぜ、せっかく迷宮で殺したと思ったのによー、なんであの毒で生きてるんだよ。先に生まれたってだけで権力も金も幼馴染のシシリーまでも手に入れやがってぇ。絶対に絶対に全てを奪ってやる!」


 そんなことを考えていたのか……嫉妬かぁ。確かにこういう時代って生まれた順番が違うだけですべてを手に入れる人と失う人で分かれるんだろうなぁ。


 ガラッ━━


 また誰か……あ、先生だ。


「あらーバタイさんじゃない。お兄さんの様子を見に来たのかな? 大丈夫よ。もう問題ないわ」

「先生……ありがとうございます。兄は僕の憧れなんです。本当に良かった……」


 バタイを見送るネブローゼ先生、彼の気配が消えると「ふぅー」と小さく息を吐いた。


「ねぇユウノさん、バタイさんって家ではどう? なんていうのかなー無理してるって言うのか心の闇のようなものが……って、ごめんごめん今のは忘れて。家族に言う事じゃないわね」

「……先生……なんとなく、なんとなくですけど僕もそんな気がします。でも、昨日からの記憶しかなくって」

「そう……注意深く見守ってあげた方が良いわね。それとユウノさんも変わったわね。まるで別人みたい」


 そっか……一晩だけしか家にいなかったけど、あんな両親に育てられたらどんな風に育つんだろうと考えずにはいられなかった。


「自宅へ連絡して迎えに来てもらうから、今日は帰って休みなさい」


 えっ、誰が迎えに来るか分からないし……「先生、もう大丈夫だよ!」


 ピョンピョン跳ねたりして元気に動けるところを見せたら納得してくれた。


「私とシシリーさんの回復魔法の具合が良かったからかな」なんて笑っていた。


《死者操作が1上がりレベル4となりました》


 うわっ! 久しぶり過ぎてビックリした。死者操作もとうとうLV.4かー、ずいぶんと動きやすくなったものだ。


 自宅に戻ると出迎えてくれたのはボランド執事。

「ユウノ様、バタイ様から連絡をいただいた時には生きた心地がしませんでしたぞ。フードのがユウノ様に危害を加えるとは許せませんな! 警備兵が犯人を探しておりますのでじきに捕まると思います」


「もう大丈だよ、心配かけてごめんね」


《主はそいつの言葉に違和感を覚えんのか?》


 なんだろう……特に変わったことはないけど。


《主を刺したフードの者が女だったと知っているのは誰であろうな》


 そういえば……あの胸、ボソッとでた言葉、あれは確かに女性だった。シシリーは男がーって叫んでたけど……。


 グラッセス家を取り巻く環境、王族であるシシリーを巻き込んだ何かが起こっているのかもしれない。

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