第10話 バーバラとメイレーン
僕は今、彼女たちになされるがまま馬車に乗り、揺れる体に身を任せている。
この子たちはどこぞのお嬢様なのだろう……立派な馬車、馬を引いているのも上品でいかにも執事のような男性。
馬車の主である赤髪のバハーラという女性はズバズバと遠慮ない物言いをし、淡い青髪のメイレーンという女性はおっとりした性格のようだ。
狭い空間に女性ふたりと同じ場所にいると、どうにも
「ユウノくんが行方不明になって大騒ぎだもんね。まさかエアフィルダール迷宮から出てくるとは思わなかったわよ」
「確かにねぇ、ユウノさんに何があったのかしら」
「これはチャンスよ! グラッセス家に恩を売れるわ! このままお嫁に来てくれって言われたらどうしよう~ ウフフ」
「ダメよバーバラ、ユウノさんには婚約者がいるっていうじゃない」
僕に婚約者……いや、僕じゃなくって体の持ち主か。婚約者がいなかだ死んでしまうなんてユウノくんは一体何をやってるんだ。
「まったくバーバラは……そんなことばっかり胃って。恩とかじゃなくて、ちゃんと人柄も見てアタックしなさいよ」
「いーいメイレーン、男の価値はお金と身分で決まるの! ハプーン家はそういう教えなのよ」
えーと、話しをまとめるとこの子たちはインフェルザン王国の貴族、迷宮内は超難度だが周囲には弱い魔物が出没するようで、学生たちにとって経験値を稼ぐ人気の狩場らしい。
変な感じだな~。若者の人気のスポットが狩場なんてさー、お洒落な服を探したり美味しいものを食べたり……日本とは全く違うようだ。
そうだ、このまま訳が分からないまま街に行くよりも情報を仕入れておいた方がいいだろう。
「ん、んー」
「あ、ユウノくん起きた?」
「ああ、悪いね記憶を無くしちゃったばっかりに」
「気にしないで、ちゃんとグラッセス家に送り届けてあげるからね」 (ウッフッフ)
このバーバラって子はお金持ちに惹かれるタイプだな……鈍い僕でも分かるぞ。メイレーンって子はおっとりしていて可愛いかも。
「ねぇ、悪いんだけど
なんかうまくすればお金持ち気分を味わえるかもしれない。これも『激運』スキルのおかげなのか!
《そんなにうまくいくかのう、我にはトラブルの臭いがプンプンするのじゃ》
「 (ウルドは過去神でしょ、未来は誰にも分からないって)」
「ユウノさん何か言いました?」
「いや……ちょっと独り言」
あぶない……ついウルドに話しかけるのに声が出てしまった。思うだけで伝わるっていうのに。
「ユウノ・グラッセス、インフェルザン王国に住む貴族グラッセス伯爵の長兄よ━━
年齢は彼女たちと同じ14歳の中等部3年生。成績優秀、人望も熱く将来はグラッセス家を継ぐことが約束されている。
━━でも、凄いわよねぇ。『
「ダメよバーバラ、そのスキルは儀式でしか使えないってのは有名な話でしょ」
『邪視・守護者』? きな臭い名前だな。額に眼でも現れて相手のことを覗き見するのか。(ヤミノ チカラ カイホウカ)
『守護者を見通す力じゃな。王国で重職に就くには、その結果が重要視されると聞くのじゃ』
「 (よくそんな事知ってるね)」
『当たり前なのじゃ。昔は良く王国へ遊びに行っておったからのう』
何にしても凄い体に当たったもんだ、まぁどんな状況になっても迷宮に逃げれば良いから気楽にいられるけど……。
あんな可愛い子と友だちになれるのかぁ。高校に入って女子と会話した総文字数を今のだけで越えてるんじゃないだろうか。
「バーバラお嬢様、そろそろ街に到着します」
「ありがとうバックス、いつも経験値稼ぎに付き合ってくれてありがとうね」
「いえいえ、とんでもありません。でもお気をつけ下さい。この辺にも随分と強い魔物が増えてきました」
「大丈夫よ、強い魔物は迷宮の周りまで来ないわ」
なんだか懐かしい。女子と仲良く話した記憶なんて小学校低学年まで……そういえばなんでボッチになったんだろうなぁ。そんなことを考えられずにはいられなかった。
◆ ◆ ◆
「なっ、ユウノ様……なんでここに……」
家に着くなり出迎えてくれた執事がありえない程に狼狽えていた。
「ボランドさん、私たちが迷宮付近で経験値稼ぎをしてたら中から出てきたんです。ユウノくんが行方不明だって聞いてたから発見できて良かったです」
「えっと、ハプーン家とフライ家のお嬢さんたちだったよね……見つけた時に何か変わったことなかった?」
なんだ……このボランドという男、
《この男、なにやらきな臭いのぉ~清廉潔白に生きてきたとは思えん臭いじゃ》
「ユウノさんは記憶を無くしているようです。迷宮内でよっぽどのことがあったのでしょう」
メイレーンの言葉に更に青くなるボランド。
「ボランドさん、ユウノくんを早く休ませてあげてください。服もボロボロになるほどのことがあったんでしょうし。なんなら私が看病してあげますけど……」
「い、いや大丈夫です。旦那様も奥様も心配しておられましたから安心するでしょう。ユウノ様はメイドたちに任せて私は旦那様に無事を知らせに王城に行ってきます」
ボランドはメイドを呼ぶと僕を任せてとっとと出かけてしまった。
それにしても迷宮を出てから寝っぱなしだ。今思えば怒涛の日々を過ごしてきたんだもんなぁ。
それにしても初|
遠くから近づいてくるドタトタ走る足音、躊躇することなく扉が開かれた。
「ユウノ様! ご無事に帰ってきてシシリーは嬉しいです!」
メイレーンに少し似ているかな? 彼女は部屋に入るなりベッド前の椅子に座り込むと布団に突っ伏して泣き出した。
「わーん、ユウノ様……ユウノ様……無事で良かった。ずっと……ずっと帰ってくるのを待っておりました。本当に……本当に無事で良かった」
誰だろう……。妹……の訳ないか。もしかして
「えっと……君は……? ごめん、記憶を無くしてしまったみたいで」
背筋をピンっと張って固まったかと思うと、更に大きな粒の涙をボロボロと流した。
「許嫁の私を忘れてしまっただなんて……シシリーです。シシリー・インフェルザンです」
「インフェルザン? この国の名前と一緒?」
「うぅぅ、本当に忘れてしまったんですね。私の伯父がインフェルザン王です……が、身分なんて関係ありません。私はユウノ様だから好きになったんです」
こんなにも可愛い子を遺して
「兄さん!」
入って来たイケメン、兄という言葉から弟なのだろう。
「ごめん……僕は記憶を無くしてて……」
「良いんだ、無事に帰ってきてくれて嬉しいよ。兄さんが行方不明になった時……一緒に迷宮に潜ってたから責任を感じてたんだ。我が儘を言わなければ良かったってずっと後悔してたんだ」
「兄弟なら我が儘なんて当たり前のことじゃないか」
随分と兄さん想いの弟なんだなぁ。前世での弟と正反対だ……。
『臭い! この弟というのも臭いのじゃ。きっと何かをやっておるぞ』
「すまない、今日は疲れたんだ。悪いんだけどひとりにしてもらっていいかな」
「そうだね兄さん、シシリー、兄さんが無事に戻ってきたんだからいつでも話せるよ。今はゆっくりとお茶でも飲んで心を落ち着かせよう」
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