第一三話「変わる勇気と絆」
恭子の家を出た僕は、ロードスターでドライブに出かけた。一人、運転しながら、昨夜のことを思い出していた。僕のガキ臭い喧嘩。真央を怖がらせてしまったこと。そして、恭子に子供のように叱られたこと。
僕は、自分の不甲斐なさに嫌気がさしていた。いつまでたっても、僕は何も変われない。大切な人を守るどころか、迷惑ばかりかけている。
「・・・まるでガキじゃん、俺」
僕は、そう呟いた。
真央が僕を抱きしめてくれたこと。真央が僕に本音で話してくれたこと。その全てが、僕の心を温めてくれた。でも、同時に、僕は真央の優しさに甘えてばかりいる。
真央は、完璧だ。仕事もできて、誰からも尊敬されている。それに比べて、僕は、未だに「チャラい」仮面を被ったままだ。僕は、真央に釣り合うような、立派な人間ではない。
(大人になるまで、告白は封印しよう)
僕は、そう心に誓った。
僕は、真央のことが大好きだ。でも、今のままでは、真央に告白する資格はない。真央の隣に並び立つためには、僕はもっと成長しなければならない。
僕は、大人の階段を登るために、一人、静かに決意を固めていた。
ーーー
それから、僕の生活は一変した。
これまで、期待されるのが嫌で、適当に仕事をこなしてきた僕が、真央に認められたい一心で、仕事に打ち込むようになった。
僕は、石田さんの席に何度も足を運んだ。
「石田さん、ここのコード、どう書けばいいんですか?」
「石田さん、このプロジェクト、どう進めればいいですか?」
最初は、戸惑っていたような石田さんも、僕の真剣な眼差しに、熱心に教えてくれるようになった。石田さんは、僕の質問に一つひとつ丁寧に答えてくれ、僕の成長を喜んでくれた。
僕は、不器用ながらも、少しずつ成長をしていった。僕の仕事に対する姿勢は、社内でも徐々に評価されるようになった。
そんな僕の変化に、真央は気づいていた。
僕が石田さんに質問している姿を、真央は遠くから見守っていた。僕が真剣な顔でパソコンに向かっている姿を、彼女は、優しい眼差しで見ていた。
僕たちは、相変わらず、週に一度は、仕事帰りに居酒屋で会っていた。
「最近、仕事頑張ってるね」
真央がそう言うと、僕は少し照れながら、「まあ、ぼちぼちかな」と答えた。
「なんか、顔つきが変わったね」
「・・・そうかな?」
真央の言葉に、僕は嬉しくてたまらなかった。
「真央さん、仕事の話はやめよう。酒が
あの頃とは違い、単に照れるから、仕事の話はしたくない。真央は、ただ静かに頷いて聞いてくれた。
僕たちの関係は、恋人でもなく、友達でもない、特別なものになっていた。
真央は、僕が自分を偽らず、本音で生きていることを喜んでくれた。僕もまた、真央に認められたい一心で、自分を磨き続けた。
僕たちは、いつの間にか互いの存在を、心の支えにして、依存しはじめていた。
第一部・完
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