59. 見上げてごらん夜の星を

 焼肉屋さんに到着する頃には土砂降りになっていて、急いで店内に入る。

 先生はちゃんと予約してくれていて、個室に通された。

 人数が多いのでテーブルが二つになり、三年生組と先生のテーブル、一、二年生のテーブルに自然と別れた。

 先生がまだ来ていないので注文できない。


「お腹空いた。ハラミとホルモン食べたい。」

「私は砂肝。小ライス。」

「野菜も食べなさい。」

 香月のおかん発言に笑っていると先生が到着し、さっさと注文する。食べ放題でよかった。


「それでは、文化祭の無事成功を祝って、カンパーイ!」

 うぇーい、と言いながら蓮たちとも乾杯をする。

 肉が届くと、いつものように香月が焼いてくれた。

 向こうのテーブルは、将が焼いている。莉子も皆と仲良く話していてほっとした。


「今日のステージ、良かったよー。俺も泣きそうになった。」

 先生って涙腺弱いもんね、と咲樹に突っ込まれている。

 一年生の時も、まこちゃん先生は泣いてたな。


「祭りの後って言うかさ、達成感とか充足感もあるんだけど、その後に喪失感の波が来るんだよね。去年までは、来年どうするかって考えれば良かったけど、今年は最後だったからほんとにそれが辛い。」


 そこまで言うと泣きそうになる。

 隣に座っている香月が頭をポンポンして、「泣けば良いじゃん。」と言ってくれた。

 そう言われると泣きたくない。

 ぐっと涙を堪える。


「何この可愛らしいやり取りは。ホームビデオに撮りたいわ。これでお前らも実質的な引退だもんなー。」

 先生が感傷的になっていると、隣のテーブルから声が上がる。


「先生!第二世代も頑張ります!私はもうちょっとパンクっぽいのやりたいし、将はビジュアル系やりたいし、やりたいことたくさんあるんです。だから指導お願いします!」

 力強いみくの言葉に、場の空気が一気に明るくなった。次期部長はみくで正解だったな。


「では、只今より、軽音楽部部長及びGlitterYouthリーダーの引継任命式を行います。佐倉朔に替わり、山本みくをアサインいたします。」


 敬礼をすると、皆が『勇者は還りぬ』をハミングしてくれた。

 何か渡すもの・・・、と探す。

 予備で持っていた黒色のバンダナスカーフを首に巻いてあげる。

 巻き終えると拍手と笑いが起きた。


「このバンダナ、格好いいね。頑張ります!」

 みくは敬礼を返す。次世代も頑張ってくれて嬉しい。

 俺らも負けないように頑張らないと。


 たくさん食べると眠くなる。

「今回は起きたまま帰還しろ。」と香月に念を押され、何とか夢の中には行かずに済んだ。


「朔。お前、文化祭が終わっても肝心な受験があるからな。金曜日は今まで通りレッスンつけてもらえるから、ちゃんと来いよ。」

 そうなんだよね。時間は止まらない。頑張ろ。


「受験の前に、もうすぐ修学旅行だね。自由行動とか、グループ決めた?」

 咲樹の言葉に「えっ?」となる。

 うちの高校は何故か三年の学年で修学旅行が設定されている。

 しまったな。最近、授業は真面目に聞いていなかった。


「朔はたぶん無自覚だけど、俺と同じグループ。松下も一緒だよ。」

 そうだったのか!よかったー。

 咲樹は椿ちゃんと同じグループらしい。

 グループと言ってもツアーに参加するらしく、自分達で何かを決めたりすることは無いみたいだ。

 沖縄のホテルは二人か三人の部屋だそうだ。


「それ、俺も行くことになったからよろしくね。咲樹たちのクラスの担当になった。」

 甲斐先生は引率で参加するらしい。ちょっと楽しみ。

 焼き肉は最後のデザートを食べてお開きとなる。


「まこちゃん先生、ゴチになります!」

 皆が俺に続いて「ゴチになります!」と言うと、「お前ら、出世払いだぞ!」と笑っていた。


 

 そして、修学旅行当日。

 生憎の雨の中飛行機が飛び立つ。

 雨の日の飛行機ってめちゃめちゃ怖いじゃん。生きた心地がしない。

 香月と松下は、沖縄の食べ物の話で盛り上がっているけれど、俺はそれどころじゃない。

 着陸するときはほんとに揺れて、香月にしがみつく。


「あーぁ、これが咲樹だったらなー。」

「こんな、レールの無いジェットコースターは真面目に無理。きっと咲樹も誰かにしがみついてるはず。」


 たぶん咲樹は椿ちゃんにしがみついていることだろう。俺的にはこの姿が恥ずかしいので、隣が香月でよかった。


 前にもこんなことあったな。

 ユズとテーマパークにデートに行って、ジェットコースターに乗った時。

 あの時の嬉しそうなユズの顔を・・・、あれ、だんだん思い出せなくなってきた。

 ドライフラワーみたいに、色褪せてきたのかな。



 ぐったりしたまま空港に降り立つと、暖かくて驚いた。沖縄は晴れていて良かった。

 バスに乗って観光地をめぐる。青い空と海が開放的で、歌いたくなってしまう。


「♪Cos,ah ah,I’m in the stars tonight, So watch me bring the fire and set the night alight・・・」


 BTSの『Dynamite』を口ずさむと、松下が自然に踊り出す。目が合い、少し派手に歌って踊ったら生活指導の先生に怒られた。


 沖縄の人たちは陽気な人が多いけど、気候も影響してるんだろうなと思った。


 

 咲樹と椿ちゃんとはクラスが違うため、バスが止まってもなかなか会わない。

 沖縄の文化を学べるテーマパーク?では滞在時間が長く、会えるかもしれないと心弾ませる。

 俺と香月と松下は、やはり沖縄の音楽に興味が沸き、三線体験コーナーでほとんどの時間を費やした。香月は初めて触ったと言っていたのにすぐに弾けるようになった。体験コーナーのおっちゃんもすごいね、と言ってくれる。


「さっきの先生と女の子も上手だったけどね。」

 それ、まこちゃん先生と咲樹なのでは。

 おっちゃんに簡単な島唄と踊りを教えてもらい、松下と踊ると超楽しかった。

 香月は三線を買えと勧められていたが、プライベートで来たときに買います、と断る。


「沖縄でリゾートウエディングもいいなー。」

 香月の乙女発言に松下が突っ込む。


「お前、結婚するの?高校生カップルって別れるって言うじゃん。」

 何て不吉なことを言うんだ!と松下の胸ぐらを掴んで揺らす。


 松下は、あまり感情を表に出さない香月の面白い態度に、「そんなに好きなんだ。」と笑っていた。


「確かに、咲樹さん良いよね。ツンとしてるかのように見せかけて、優しいし話しやすいし、頭は良いし、美人だし。何と言ってもギターを弾いてる姿は格好いいし。あと、胸もいい感じであるし、歌ってる声がエロくて良い。」


 咲樹って他の男子からそんな風に見られてるんだー、と客観的に聞いていると、香月がかなりショックを受けていた。


「でも、香月も女子から人気だぞ?ダンス部の女子からの支持は、たぶん朔よりあったと思う。お似合いなんじゃない?」

「マッツー、まとめ方が最高だな。香月の感情が乱高下して面白い。」

 俺で遊ぶなよ、と言ってくる香月はちょっと照れていた。



 夜ご飯はホテルでバイキングだった。ゴーヤーチャンプルーが気に入り、何回も取りに行くと椿ちゃんに会った。


「朔ちゃん。なかなか会えなかったね。ゴーヤー好きなの?」

「うん。美味しいよ、これ。」


 こっちのラフテーも美味しかったよ、とたわいもない会話をして席に戻る。様子を見ていた香月が、予想より短い会話時間に驚いていた。回りにからかわれたくないのが本音だ。まこちゃん先生がやって来た。


「お前ら、楽しんでるか?俺は今日、ずっと咲樹と藤原と一緒に行動しちゃった。若くて美人な女の子を引き連れて歩くって、気持ちいいね。」


「先生。ほんとに気を付けないとそのうちモンスターペアレントから苦情来るよ。」

 明らかに鼻の下が伸びてる。


「別にセクハラとかしてないし。他の生徒にもちゃんと気を配ってるよ?」

 先生が訴えられませんように。良い先生なので勿体無い。


 

 部屋は狭かったけどベッドの部屋で良かった。

 大浴場があるということで、利用時間の終了四十分前に行くと全然人がいなくてラッキーだった。

 体を洗って、三人で露天風呂でのんびり浸かる。


「星が見えていいね。♪見上げてごらん夜の星を 小さな星の 小さな光が ささやかな幸せをうたってる・・・」


 坂本九の『見上げてごらん夜の星を』。癒し系の曲だよな。

 露天風呂は声が響かない。香月が「坂本九はお父さんも好きだよね。」と星を見上げる。いい歌詞だし、歌いやすいしスッと入ってくる。先輩方には学ぶことが多い。


「朔は味のある声だよな。何回も聴きたくなる。一緒にカラオケ行きたいもん。」

「おー!いいね、カラオケ。受験が終わったら行こうよ。マッツーはいつからアメリカ行くの?」

 卒業式が終わったら早めにアメリカに行くらしい。出来れば見送りにいきたいな。


 そして、一緒に風呂に入ると、やはり体に目が行く。マッツーは先生にも褒められていたけど良い体してる。香月も運動してなさそうなのにまぁまぁ引き締まってる。


「朔は綺麗な体してんな。美少年の模範じゃん。白いし。」

 松下がじろじろ見てくる。そう、俺は白い。だからあまり露出したくない。

 前は白いのが好きじゃなかったけど、由紀乃さんにアドバイスをもらってからは、白いのも強みになるのかな、と思えてきた。


「大学入って落ち着いたら、髪の毛の色抜きたいんだよね。銀髪にしたい。」

 全身白じゃん、と笑いながらも、二人とも似合いそうと言ってくれた。

 大浴場の利用時間が終わりそうになり、あわてて拭いてジャージを着る。

 のんびりした修学旅行だけど、楽しい夜の時間が続いた。

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