58. HACK

 職員室でコンビニおにぎりを食べていると、教頭先生が寄ってきた。


「今年のステージも良いですね。皆輝いてて、生き生きしている。私も彼らにパワーを貰いました。高校教師、楽しいでしょう。甲斐先生も、生き生きしていますよ。」


「あ、ありがとうございます。」


 教師になって少しした頃、俺のやる気のない態度を教頭に叱られたことがあった。

 そんな人から褒めてもらっているような言葉をかけられて、一瞬固まってしまう。


 アルバムを作ってくれたり、色々と気にかけてもらっていたことに気付かされた。

 さっき、愛の挨拶を弾く前の香月の話を思い出す。

 俺も愛に包まれていた。

 あいつらがいなかったら気付かなかったかもしれない。


 

 ステージに戻ると、朔がストレッチをしながら、一緒に写真を撮ってほしいと言ってくる子ににこやかに対応していた。

 ぶれてない。

 今年は朔だけじゃなくて、他のメンバーも写真のリクエストがあり、莉子も男子にちやほやされて楽しそうだ。


「お前の策略通りじゃん。」

 香月が琥太郎にそんな言葉をかけていて、詳しく聞くと、琥太郎が莉子の方向性をちやほやされるようにぶりっ子路線に持っていくことを提案したらしい。


「蓮くん、ごめん。私、みんなの莉子になるから付き合えない。」

「うん。全然良いんだけど、何これ。俺が振られたみたいになってる!」


 皆が笑いながら、「ドンマイ」と蓮の肩を叩いた。


 午後の部が始まる。

 朔が松下と仲間のダンス部員を引き連れてステージに上がった。

 楽器隊も続き、持ち場につく。

 ダンス部はダンス部オリジナルの黒色のTシャツを着ている。

 朔はピンク色のGlitterYouthTシャツを着ていて目立っている。


「皆さーん!軽音楽部のブースにお越しいただきありがとうございます!早速行きますか?行けますか?」

 朔は楽器メンバーとダンスメンバーを見て準備を確認すると、曲紹介に入った。


「では、今年も仮面ライダーから一曲、選曲させていただきました。三浦大知さんの『EXCITE』!」

 曲に入ると、朔の歌とダンス部のダンスが弾ける。『HEY!』のところで皆の声を煽り、会場が一体になった。


「皆ありがとー!『HEY!』いい感じだった。次も踊っちゃいます。蓮、カモン!」

 蓮は水色のTシャツで、ヘッドセットをして朔のところに駆け寄る。


「はい!まさか今年も踊るとは思いませんでした。頑張ります。」

「いや、マッツーが歌ってくれないから、こうなるよね。曲は、かつて全米を熱狂させたダンスボーカルグループ、イン・シンクの『It's Gonna Be Me』です。みく、いいよー。」


 ダンスの曲はシンセサイザーがを使うことが多い。

 琥太郎や将も先輩に負けず劣らずの演奏を頑張っている。

 莉子も残りの時間を伝えたりと雑用をこなしていて、チームワークも出来てきた。


 朔たちのダンスボーカルも良い出来だ。

 欧米のグループは観客を惹き込むパフォーマンスがうまいので、勉強になっただろう。

 やはり女子にはかなり受けている。


「次は、ついに、日本のアイドルですよ。」

 香月が楽器をヴァイオリンに持ち替えるのを見て、慌ててステージに上がる。


「曲は嵐の『MONSTER』です。頑張って踊るので、よろしくどーぞ。」

 蓮の曲紹介の後、朔と香月が息を合わせ、ヴァイオリンパートから曲に入る。

 雰囲気があって格好いい曲だし、ダンスも見ていて飽きない。

 朔や蓮も、アイドルさながらのかっこよさでなんだか誇らしい。


「ありがとうございましたー。どうでしたか?ダンスゾーン。楽しんでもらえていたら嬉しいです!」

 客席から大きな拍手が沸く。


「ちょっと、俺も蓮も少しだけ休ませてほしいので、次は莉子にバトンタッチです。」

 朔たちはステージから降りて水分補給をして汗を拭く。一緒に踊ったメンバーと記念撮影をしていて、咲樹が撮ってあげていた。


「かっこよかったよ、みんな!アイドルになれるんじゃない?」

 朔が「アイドルは演技とかもだもんなー。ちょっと無理。」と具体的に考えていた。演技は無理なんだ。嘘つけないもんな、と納得する。


「次の曲は、自分の気持ちを強く信じていきたいって思える、女の子のかっこよさが詰まった曲です。miwaさんの『ヒカリへ』。」


 莉子のぶりっ子が消え、格好いい女の子へ変貌を遂げる。

 宮本さんが「彼女はアイドルの素質ありますよー。」と言いながらステージを見ている。

 確かにちやほやされるの好きだし、良いかもな。


「ほんとにそう思いますか?本人にも聞いてみますか?」と反応すると、「是非、お願いします!」と笑顔で握手された。


「ありがとうございました!可愛かったねー。」

 朔が一番前にいた男子に話しかけると、「莉子ちゃーん!」と声援を返してくれた。


「次は、甲斐先生お待たせ。King Gnuの『あなたは蜃気楼』!」

 俺のせいでKing Gnuのコピーバンドみたいになっていたので、お手のものといった感じに聴こえる。

 蓮とのダブルボーカルが懐かしく感じた。

 曲が終わりお礼を言うと、朔が俺に手を振ってきてちょっとキュンとした。


 続いては莉子が人前で初めて歌ったaikoの『カブトムシ』だ。前は朔がハモったが、今回は敢えてソロでの歌唱とした。

 ロングトーンもちゃんと声が出ていて、すっかりぶりっ子だけのイメージを払拭できた。


 将がリクエストしたビジュアル系バンド枠から、L'Arc~en~Cielの『HONEY』を演奏する。ビジュアル系もけっこうしっくり来る。


「午後の部も折り返しになりました。次の曲はまた、朔くんと香月くんの思い出の曲ということですね。」


「そうなんですよ。詳しく話すと長くなるんで短く要約しますと、俺が迷子犬になっちゃったときがあって、雨の中、保護してくれたんですよ、香月が。マジで恩人です。」


「要約しすぎて話が見えませんが、香月くんはやっぱ格好いいということだけが分かりました。曲はASIAN KUNG-FU GENERATIONの『迷子犬と雨のビート』」


 バンド感溢れるサウンド。こういうバンドの音楽は、演奏していても楽しいと思う。

 その後は、Official髭男dismの『イエスタデイ』、Avril Lavigneの『Let Go』と曲が続く。

 Avrilの曲は、英語が苦手な莉子に朔が細かく指導を入れていたのを思い出した。


「洋楽が続きます。次は、Maroon5の『Sugar』です。」

 本家のボーカルのアダムには叶わないけれど、なかなか色っぽく歌えていた。

 バンド演奏だし、楽しそうだった。


「次は、校長先生リクエスト枠で、松田聖子さんの『SweetMemory』です。可愛らしく歌ってね。」


 はーい!と言って莉子が準備する。

 昔のアイドルって歌うまくないと出来なかったよなーと思いながら莉子を眺める。

 校長を見つめながら歌っていて、校長は嬉しそうだった。というか、デレデレしていた。

 これで来年の予算も通りやすい。


「ありがとうございました!良かったね。キュンと来るね、SweetMemory。じゃあ、次はONE OK ROCKの『C.h.a.o.s.m.y.t.h』(カオスミス)です。甲斐先生が弾き語りしてくれたことがあって、今年これを歌えと言われていました。歌詞も俺らにはまってるし、なんだかエモくなっちゃいますね。」


 朔は歌いながらメンバー一人ひとりのところへ行き、目を見て歌う。

 咲樹や俺のところにも来てくれた。

 サビはステージで客席に向かって、手を大きく振りながら歌っていた。


「ありがとー!実は次の曲でラスト二曲です。このまま皆、一緒のグルーヴでいきましょう!曲はShutaSueyoshiさんの『HACK』です。SNSでバズってたし、知ってる人もたくさんいると思うから一緒に踊ってね。」


 みくのシンセサイザーがまた活躍する。

「♪ready joy ready joy やっちまいな やる時はどこまでも ほらほらどんどん感染してく 思考回路 リズム合わせ KNOCK KNOCK KNOCK・・・」

 朔も一人で躍りながら歌っているが、簡単な振りのためか客席も皆踊ってくれて、一体になった。


「先生!久しぶりー。」

 突然、楓に声をかけられて驚く。

 午後の部の途中から、後ろの方でずっと見ていたらしい。


「最後の曲は初期メンバーでやりたいって言うから、来ちゃった。」

 知らなかったんだけど。咲樹もピックを準備していた。


「じゃ、ラストの曲になります。この曲は毎回演奏しているけど、俺たちには特別で大切な曲です。今回は初期メンバーで演奏させていただきます。楓くーん、咲樹ー。」


 二人がステージに上がり、楓はみくと、咲樹は将とハイタッチをして楽器を譲ってもらった。

 咲樹のギターから入る。やっぱ安定感があるな。楓のドラムも弾けてるし、香月のベースも重みがあって、朔のボーカルは青春そのものだ。

 曲が終わると、初期メンバーはやりきった表情で見つめ合って頷いた。


「ありがとうございました!Glitter Youthでした!今日、見に来てくれた皆さん、本当にありがとうございました。」

 朔が深々と頭を下げて、皆も同じく頭を下げる。


「初代GlitterYouthメンバーの最後の文化祭になりましたが、皆さんと一緒に音楽を楽しむことができて、本当に幸せな時間でした!みんな、大好きです!またどこかでお目にかかれる時を楽しみにしています。またね。バイバイねー!」

 皆が手を振りながらステージにから降りてくる。朔は泣きながら楓に抱きつく。


「やっぱ最後だと思うと寂しいよー。」

「よしよし。ほんとにお前可愛いな。変な気になるっつーの!」

 メンバーは笑いながらその光景を見ていた。


 楓はガッチリしているので抱きつきがいがあるらしい。俺がやられてたらヤバイわ。

 アンコールもあったが、雲行きが怪しく、応えることは出来なかった。急いで機材を片付けると、雨が降ってきて間一髪だった。楓はアルバイトが入っているらしく、片付けまで手伝って帰っていった。


 焼き肉は現地集合な、と言って職員室に戻る。教頭がまたアルバムを作ってくれると言ってくれた。

 やっぱ最後だと思うと、俺も寂しいな。生徒には言わないけど。

 今日の演目プログラムを大事に机にしまった。

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