49. 熱愛発覚中

 ねーちゃんのせいで咲樹のいない佐倉家に泊まることになった夜。変なものを見てしまったせいで、朔も俺も眠れる気がしなくて夜更かしをすることにした。

 夜遅くにお父さんが帰ってきて、お母さんが夜食を出しているのを横目に、末吉秀太のライブDVDを見る。


 朔は「俺、ここで出てくる曲は全部歌えるし踊れる。」と言ってテレビの前で口ずさみながら踊っている。

 クオリティが高い。

 せっかくなのでPV風に動画にとって咲樹に送ってあげた。たぶん椿さんと見て楽しむんじゃないかな。

 我ながらいい具合に撮れた。


「私にもその動画送ってくれない?」

 お母さんと連絡先を交換し、送ってあげると『さんきゅ』という可愛らしいスタンプが送られてきた。咲樹も何気に可愛いものが好きだし、趣向は似てるのかな。

 咲樹からも『ありがとう!椿がときめいてる。』とメッセージが来た。


 DVDが終わり、とりあえず部屋に引っ込むことにした。

「俺はいい運動になったわ。更に興奮して寝れないかも。」


「難しい本を読むとか、話をすれば眠たくなるんじゃない?音楽史とかならためになっていいかも。ビバルディとバッハって、同じ時代だって知ってた?日本ではちょうど赤穂浪士が討ち入りした頃だよ?すごいよね。その頃の日本にはどんな音楽があったんだろう。」


 少しだけ歴史の話をしただけなのに、朔は寝てしまった。

 なんだよ、マジで。

 咲樹がいないってだけで、佐倉家が寂しい。

 もう深夜一時だ。


 咲樹は寝てるよな。起こすのも悪いし、おやすみのスタンプだけ送ることにした。

 朔を起こさないように部屋を抜け出して屋上に出るときれいに星が見える。夏の大三角形ってどれだっけ。この時間でも見えるのか?

 空を眺めていると咲樹から着信があった。


「もう寝てるかと思ったから、スタンプ送られてきてビックリした。」

 声を聞いただけで胸の中が温かくなる。会いたい。


「香月。ハッピーバースデー。」

 あれ?そうだった。誕生日だ。全く忘れていた。咲樹は電話の向こうで歌ってくれる。


「十八だね。大人って感じ。」

「まだまだだよ。大人って、何なんだろうね。たぶんずーっと大人になりきれずに年取っていくんだろうな。」

 常日頃から思っていた『大人の定義』の曖昧さについて語る。


「いいね、それ。ずーっと若いままじゃん!」

 最近あまり話せてなかったからか、笑いながら話すときに「ふふっ。」ていう咲樹の癖が懐かしい。


「明日、あ、今日か。もし時間があるなら、ランチの時間から椿の家に来てほしいんだけど。どうかな?あ、朔も。」

「分かった、朔も連れていくよ。」

 少し間が空く。咲樹も勉強で疲れてるだろうな。もう切るべきなんだろうけど、なかなか切れない。


「誕生日プレゼント、欲しいものとかあったりする?もう準備しちゃってるけど、ふふっ。」


 咲樹が選んで準備してくれたものなら何でもいいけど、「咲樹。」と答えた。呼び掛けられたのだと思って「なに?」という返事が返ってくる。声に出してしまうと、更に想いが溢れる。溜め息をついて、もう一度伝える。


「咲樹がほしい。」

 無言が続く。こんなこと言っても困らせるだけなのに、バカだな俺って。

 引かれちゃったかな・・・。

 ごめん、と言おうとすると、咲樹の方が話してくれた。


「ありがとう。受験が終わったら、二人きりで旅行とか行きたいね。お互いに笑顔で行けるように頑張ろう!」

 気の利いた回答に救われる。ほんとに大好き。


「今日から十八歳だけど、十八歳の俺も咲樹のことが大好きだから。傍にいてね。」

「うん、私も大好きだよ!寝れないの?床に敷いた布団だと寝づらいかもね。私のベッドで寝てもいいよ?」

 えっ!いいの?言葉に甘えて咲樹のベッドで寝ることにした。



 咲樹の部屋に入ると、落ち着く良い香りに包まれる。

 机の上には付箋がたくさん貼られた参考書があった。付箋の貼り方も見やすいように綺麗に貼られている。

 少し中を見たけど、よく分からなかった。


 電気を消して咲樹の布団に入る。ライオンのぬいぐるみはまだ朔が使っているため、抱き枕に昇格したっぽいカビゴンのぬいぐるみを抱き締めると、不思議とすぐに眠たくなった。

 さっきの会話を思い出す。

 大好きを返してくれて萌えた。

 咲樹の香りに包まれて、咲樹を抱き締めて眠る夢を見た。


 

 ぎゅっと抱きついてくる感触に、手を伸ばす。抱き締めようとすると、違和感を感じた。

 あれ?なんか固い。


「おはよ。」

 わーーーーっ!!

 朔が同じ布団の中にいて飛び起きた。


「お前はもう。寂しいからって咲樹のベッドで寝るとか、末期か。俺が慰めてやろうか?」

「また、まりちゃんにBL描かれるぞ。」

 心臓に悪い。危うく咲樹と間違えるところだった。

 朔をカビゴンで殴り、ベッドの使用許可はとっていることを伝えた。


 時計を見ると九時だった。ずいぶん熟睡したんだな。咲樹との約束を思い出し、朔に伝える。

 すると、「あ、誕生日おめでとう。」と思い出してくれた。

 朔の部屋に行き着替えると、誕生日プレゼントをくれた。厳重に包装されている。


「もしかして、中身って俺があげたやつと同類?」

 朔が頷く。


「マジで買うときドキドキした。よくみんな、そんなの堂々と買えるね。レジの店員さん、お兄さんなのを確認してから行ったからね。」


「ってことは、兄として認めてくれるってこと?」

 これをくれるってことは、そういうことだよね。


「ちげーよ。親友として。兄としては、まぁ、黙認ってとこかな。公にイチャイチャすんなよ!」

「はい!わきまえております。」

 敬礼すると、「よしっ!」と言って敬礼を返してくれた。


 

 藤原家に到着すると、いつものように田中さんが出迎えてくれた。

「お誕生日だそうですね。おめでとうございます。」

 あまり話をしたことがないのに、田中さんが笑顔でお祝いの言葉をくれた。


「いえ、そんな。ありがとうございます。」と恐縮してしまった。

 玄関を開けてもらい、リビングの扉の前で一旦待たされる。

 朔と「なに?サプライズかな?」と話をしていると、すごいサプライズがあった。

 ガチャッと扉が開き、目の前に予想していなかった光景が広がる。


「おかえりなさいませ、ご主人様。」

 咲樹と椿さんがメイド喫茶みたいなことになっている。しかも、咲樹は物凄く恥ずかしがっている。


「香月くん、私からのプレゼント。咲樹がメイドになったらすっごい可愛いと思って作ってみたの。一人じゃ嫌だって言うから私もお揃い。」


 こんなプレゼント、最高すぎますぅーっ!

 今度は朔が棚ぼたか。写真を撮らせてほしいとお願いして、渋々だったけど撮らさせてもらった。


「椿さん!ほんとにありがと。萌えが止まらない。」

 テーブルに案内されて座らされた。朔に「このサプライズ、ヤバイね。」と言うと、「俺も椿ちゃんの写真撮りたい。」と照れながら呟く。

 ランチと誕生日ケーキが運ばれてきた。


「このケーキ、田中さんも一緒に作ってくれたの。デコレーションとかすごく上手で尊敬。」

 田中さんにもお礼を言うと、「いえ。」と微笑んで返してくれた。咲樹が隣に座る。


「ビックリした?」

「ビックリしたけど、すっごい可愛い。メイド喫茶に通う野郎の心理が物凄く理解できた。」

 ふふっ、と笑いながら三枚のカードを差し出す。


「私からの誕生日プレゼント。物じゃなくてごめんね。このカードに書かれていることをご奉仕しようと思います。チャンスは一回。他のカードに何が書かれているのかは、引いてから開示するからね。はい、引いて下さい。」


 えー。何が書かれているんだろう。神様、一番良いカードを俺に!右側のカードを引いた。朔と椿さんも見守る中、カードを開ける。


『猫耳でツーショット』

 何これ。他のカードは『ケーキをあーん』、『熱愛発覚中を披露』だった。

 絶対『熱愛発覚中』が良かったじゃん、と少しがっかりしていると、椿さんに猫耳を付けられる。

 咲樹も付けられ、カーテンの前で、二人でハートを作るように指示される。

 咲樹を見つめると、すごく恥ずかしがっていて、それにまたデレデレしてしまった。


 椿さんの指示にしたがって可愛く写真を撮ってもらい、これはこれで良かったかな、と思った。

 朔が「えー、いいな。俺も撮りたいー。」と言って俺がつけていた猫耳を付けると、様になってしまった。

 咲樹は恥ずかしがることなくハートを作り、雑誌に載っているかのようないい写真が撮れた。そしてその流れで椿さんとも写真を撮っていた。策士だ・・・。


「イケメンはこういうとき得するよな。」

「努力が無駄にならなかったよ。頑張ってるといいことあるなー。」


 ランチとケーキを食べる。めっちゃ美味しい。咲樹、椿さん、田中さんありがとう。食べ終わってコーヒーをいただいていると、咲樹たちはそろそろ着替えてくるね、と席を立つ。

 名残惜しそうに見つめていると、咲樹が、「この服、プレゼントだって。いつか、他のカードのもやってあげるね。」と耳元で囁いて部屋を出ていった。

 ドキドキと妄想が膨らんでいく。最初のデートで行ったカラオケで、咲樹が歌ってくれた『熱愛発覚中』がずっと頭のなかで流れていた。

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