46. Darling
滝から帰ってきて佐倉家に上がらせてもらう。家に電話したら誰もいなかったため、一緒にご飯を食べさせてもらうことになった。
朔が「もう、泊まって行けよー。ゲームやろうよー。」とねだるので、付き合うことにした。
「そういえば、朔の写真どうなったのかな。ウェブサイト見てみようよ。」
スマホでアクセスしてみると、すでにアップされていた。
なんか汗かいてるし、無駄にエロい。SNSにも反映されていて、『いいね』が百件ぐらい付いていた。
「さくらんぼ食べただけなのに、すごいね。撮る人によって表情変わるね。」
朔は客観的に感想を言っている。投稿者のプロフィールを見てみると、驚いた。
「この人、有名なカメラマンだよ。俺でも知ってる。」
え?あのおっさんが?と信じてくれない。
SNSのコメントに『偶然出会った少年。少年の中に垣間見える大人な表情を撮ることができた。快く撮らせてくれてありがとう。』とあった。
「また、スカウト来るんじゃないの?」
「そんなん、来るわけないじゃん。イケメンなんてごまんといるんだからさ。いちいち俺ばっかり来ないって。」
そうかな。この写真、すごく良い。こんな感じでパリコレモデルになった人いたな。でも朔は身長が足りないか?と無駄な心配をする。
お母さんが作ってくれたシーフードカレーはスパイシーで美味しかった。シーフード良いな、今度作ろ。
お風呂に入って朔に服を借り、パンツは新しいのをもらった。パンツは仕方ないけど、服がちょっと小さい。
見かねてお母さんがお父さんの甚平を貸してくれた。ちょうど良かった。
朔がお風呂から上がるのを待つ。最近、美容のケアをしているからお風呂が長いらしい。
咲樹はまた勉強を再開していて、ほんとに尊敬。俺らはゲームなんてしていて良いのだろうか。
目が合うと、じっと見つめてしまう。いかん、吸い込まれる。
邪念を払おうとゲーム機にソフトをセットし、プレイを始めた。ラスト・オブ・アス。
ゾンビになっちゃう病気?が蔓延している世界の話。
咲樹とお母さんからは「なんでこんな気持ち悪いやつやるの?」と評判悪い。
仕方なくFINAL FANTASYに変えたら、これなら見れる、と許可が出た。
咲樹が少し休憩、と言って隣に座る。今日は棚ぼただけど、ずっと手を繋ぐことができて嬉しかった。いろいろ出来ないけど、くっつくだけでも嬉しい。暫くは今日のチャージで頑張れそうだ。
咲樹に、何でリビングで勉強するのか聞くと、自分の部屋だとギター弾いちゃうからという回答で、ギタリスト魂は健在であることがちょっと嬉しかった。
朔が風呂から出てきて、FINAL FANTASYを喜んでいた。ホラーゲームやりたくないのかな。
咲樹が勉強に戻り、朔とFINAL FANTASYをプレイする。プレイしながら、受験科目の話をすると、国語が苦手と言っていた。一度実力テストをして対策考えないとな。一緒に大学通いたいし。
遅い時間になり、咲樹も寝るということなので俺らも寝ることにした。布団に入り、何となく今日の話をする。
「何気に、ずっと椿さんと手繋いでたね。」
朔は「見てたんか。」と照れる。少し間が空いて、「ユズと手繋いだ時と似てた。離したくないなって。」と呟いた。
「ラブソングってものすごくたくさんあるけど、恋してる時に聴くと感じ方が全然違うよね。♪抱きしめたい 溢れるほどの 想いが こぼれてしまう前に・・・」
Mr.Childrenの『抱きしめたい』か。ねーちゃんが前によく聴いてたな。
それにしても良い声だなー。口ずさんだだけでしっかり心に届く。
「お前はやっぱりシンガーだな。フルコーラス聴きたくなる。」
「もう眠いし、今度ね。カラオケとか行きたい。今日はありがとな。すごく良い思い出になった。おやすみ。」
良い夢見れそうだな、と眠りについた。しかしその日見た夢はSILENT HILLだった。ゲームは良いけど夢はいかん。
悪夢のせいで早く目が覚め、喉が乾いたのでキッチンに行くと咲樹がすでに起きていた。
「おはよう。早いね。」
寝起きの咲樹も可愛い。夢の中で幽霊と戦った話をすると、怖いゲームやり過ぎだって、と笑われた。
咲樹は屋上でストレッチをしてから早朝学習をするということで、屋上に付き合わさせてもらった。太陽が登るところで、甚平は少し肌寒い。
「日の出を見ると、すごくやる気が出る。よーし、今日も頑張るぞー!」
朝焼けに照らされた咲樹はすごく綺麗だ。背伸びをしているところの写真を黙って撮ったら怒られたけど、許してくれた。
早朝学習に向かう咲樹のストイックさに敬意しかない。部屋でやるということだったので、そっか、と朔の部屋に戻ろうとすると、何もしないなら来ても良いよ、と言ってくれたので喜んで部屋についていった。
咲樹が机で勉強している。集中している咲樹の目を盗み、咲樹のベッドに横たわると、一気に睡魔に襲われてしまった。咲樹の香りに包まれて、良い夢を見た。
なんかギターの音が聴こえる。優しい声。
「♪ねぇDarling ねぇDarling またテレビつけたままで スヤスヤどんな夢見てるの・・・」
夢?咲樹が歌ってる。
ゆっくり目を開けると、ほんとに咲樹が弾き語りしていた。俺が起きたのに気づくと、ニコッと笑って歌を続ける。
「♪Ah なんで好きになっちゃったのかな 私って少し変わり者なのね・・・」
なんて贅沢な目覚めなんだろう。歌詞の続きが気になる。最後は「あなたしかいない」で良かった、と思いながら、拍手をすると朔が入ってきた。
「まったくこのカップルは、いつもミュージカル。」
うるさいよ。超良い目覚めだった。
さっきの歌のタイトルを咲樹に聴くと、西野カナの『Darling』という曲らしい。
「なんで咲樹の部屋で寝てんだよ。兄としてはまだ許さんぞ。」
「悪夢で早朝に目覚めたら、朝勉する前の咲樹に会ったんだよ。勉強してる間、咲樹の部屋で待ってようと思ったら、ベッドで爆睡・・・。」
朔は咲樹の早朝学習のことを知らなかったらしく、感心していた。そういう朔は朝のジョギングを終えていて、なんとなく取り残されてる感じがしてしまった。
お母さんが準備してくれた朝食を食べていると、咲樹から相談を受ける。
「実はもうすぐ椿の誕生日なんだけど、是非、椿に聴いて欲しい歌があるの。出来れば生演奏で届けたいんだ。朔にピアノをお願いできないかな。」
どれどれ、と曲を聴く。まぁまぁ弾ける程度の朔には少し難しそうだが、練習する、と約束した。俺もヴァイオリンで参加することにした。誕生日まであと二週間しかない。
勉強している咲樹を家に残し、朔たちの叔父さん夫婦が営んでいるピアノバーへ向かう。俺も一度だけ行ったことがあるが、とても雰囲気が良いお店だ。
「久しぶりだなー、朔。香月くんだったよね。今日も弾いてく?」
気さくな叔父さんだ。ヴァイオリンを持って来ていたので、俺も弾かさせてもらう。朔は早速練習を始める。完全に耳コピだが、一旦弾いては曲を聴くというサイクルを繰り返し、だんだん様になってきた。いつの間にかピアノの腕もあげたな。
叔父さんたちの話はとっても勉強になった。音楽のルーツとかすごく詳しくて、メモを取ってしまった。
「朔と香月くんがプロのミュージシャンになったら、うちの店でディナーショーやってね。」
「是非!出来るように頑張ります!」
叔母さんに何か演奏して、とお願いされ、ヴィヴァルディを弾いたら喜んでくれた。
学校が始まり、部活の時間でも例の曲を練習していると、蓮とみくが一緒に演奏したいと言ってきたので音を合わせる。
咲樹は歌の練習をしなくて良いのかな、と心配すると、あいつは椎名林檎ならなんでも歌える、と朔が太鼓判を押した。
咲樹は週に一時間ぐらい顔を出してギターを教えている。将や琥太郎、莉子ともだんだん打ち解けてきた。特に莉子は、朔のことでよく質問をしているようだ。
咲樹は会話の先をよく読んでいて、上手に回避しているのがすごい。でも、回避しきれない会話もあった。
一生懸命ピアノの練習をしている朔を見ながら、莉子が咲樹に問い詰める。
「朔くんの好きな人って、結局誰なんですか?咲樹ちゃんは知ってるんですよね。香月くんも教えてくれないし。」
莉子は朔の好きな人にすごくこだわっている。
「誰だって良くない?朔にも自由に恋愛する権利はあるでしょ?本人が教えてくれないことを私や香月が教える筋合い無いし。知ってどうするの?」
咲樹は諭すように話したが、莉子は戦闘モードだ。
「ライバルがどんな人か、確認したいだけです。朔くんを好きな気持ちは誰にも負けませんから。」
みくが「コイツ何とかしてください。」という目で俺と蓮を見る。
「好きな気持ちがどんなに強くても、どうしようもないことだってあるからね。莉子の目に朔がどう写っているのか分からないけど、朔はああ見えても繊細で臆病だから、莉子とは合わないんじゃないかな。」
ユズくんさんが朔を好きな気持ちは誰よりも強かったと思う。でも、どうにもならなかった。
咲樹の言葉が胸に刺さったのか、莉子は唇を噛み締めていた。
「なかなかキツい言葉だったね。合わないとか。」
「私の意見を言っただけだよ。香月は合うと思う?付き合ったところを想像してみてよ。莉子がああしたい、こうしたいって言うのに付き合わされて振り回されて疲れちゃいそう。朔は付き合ったら、結構尽くしちゃうと思うからさ。」
確かに、尽くしそう・・・。朔もわがままを言えるような相手に巡り合うと良いな。
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