45. サクラ咲ケ
咲樹からの電話が終わり、香月が俺のスマホの終話ボタンを押す。
勝手に決めんなよ。
明後日は暇だけど。
「やったー!咲樹とデート!朔のお陰だな。ありがとう。」
自分の為か・・・。俺もまぁ、テンション上がる。
「どこ行くのかな。遊園地とか絶対混んでるじゃん。」
「山とか滝とかで良いんじゃない?自然に触れよう。」
香月の提案に「良いじゃんそれ。」と賛同し、滝スポットを調べる。流し素麺を食べれるところが気に入り、咲樹に「ここで。」とメッセージを送った。
「今さらだけど俺、思い返してみると女の子と出掛けたこと無いわ。」
「え!見た目はまぁまぁチャラいのに?」
うるせーよ。なんか考えるとそわそわしてきた。いや、でもデートはしたことある。
「俺も初めて女の子と出掛けたの、咲樹とカラオケ行った時なんだけどさ。行くって決まってからの挙動不審はヤバかったよ。ねーちゃんに心配されたもん。」
星さんは面倒見良いな。
俺も、藤原さんとの初めてのデートが二人きりじゃなくてよかったかも。
次の日は由紀乃さんがうちに来て、髪の毛を切ってもらう約束していた。
「まだ免許ないから、練習ってことで。」
咲樹も興味津々で見ている。
ある程度チョキチョキされると、バリカンが出てきた。
鏡を見れないためどうなるのか怖い。
咲樹が笑いを堪えてチラチラ見ながら勉強をしている。
「じっとしてな。失敗すると、坊主だからね。」
怖えー!耳元と襟足をジョリジョリされ、くすぐったいのを必死で耐える。服についた髪の毛を掃除機で吸われると、鏡を渡されて仕上がりを見てみる。
「おぉー!かっこいいじゃん!お洒落!」
前髪の長さは目の上ギリギリぐらいだけど、耳元と襟足がスッキリしていて涼しい。
下を向くと目が見えなくなってかっこいい。
咲樹も切ってもらっている。咲樹はずっとショートボブだ。今回はショートボブに動きがついた感じで可愛い。
「女の子はもみ上げのところを外ハネにすると可愛いの。コテで少しだけ癖をつけるだけで全然違うからやってみてね。」
へぇー、と言って鏡を見る咲樹は嬉しそうだ。由紀乃さんもどんどん腕をあげていく。
咲樹が由紀乃さんに紅茶を入れると、最近どう?という話になった。
咲樹が「明日グループデートするんだ。」と言うとめっちゃ食い付いてきた。「例のあの子?」と目を輝かせる。
俺が頷くと強い力で肩を叩かれた。
「遂に!?だって告白したの一昨年でしょ?どんだけ奥手なのよ。香月のこととやかく言ってる場合じゃないから。ほんとに、イケメンなのに勿体ないわー。」
いや、ちょっと前まで恋人いたし。二股はかけられねーだろ。
明日何を着ていくのかという話になり、持ってる服を見せろと言う。仕方なく部屋につれていく。
「あまり派手にしすぎちゃいけないから、これとこれかな。靴は歩きやすいスニーカーね。あと、紫外線対策はしっかりしなよ。帽子は全体にツバがあるやつね。首もとはバンダナ巻くと良いよ。」
正直、参考になった。咲樹も見て欲しいと言って由紀乃さんを部屋につれていく。
機能的で可愛くコーディネートしてもらっていた。
当日。香月と合流し、藤原さんを迎えに行く。咲樹がインターホンから呼び出すと、藤原さんが出てきた。
少し目が合ったけど、照れて逸らしてしまった。
藤原さんもスニーカーにジーパンとTシャツというラフな格好だ。お団子ヘアが可愛い。
「すごく楽しみだったの。こんな風に出掛けるの、初めてかも。」
藤原さんはずっと笑っている。咲樹が急に振り向いた。
「そういえば、朔と香月ってまだ藤原さん呼びだよね。下の名前で呼んであげてよ。」
何でだろう。いつもなら簡単に呼び捨てで呼べるのに、藤原さんは簡単に呼び捨てに出来ない。
「俺、さん付けで良い?椿さん。」
「ふふ、良いよ。私は香月くんって呼ぶね。」
なんだよ、なんだよ。抜け駆け。
「じゃ、俺は椿ちゃんで良い?なんか、呼び捨てにしづらい。」
「じゃあ、私は朔くん・・・って呼びづらいね。朔ちゃんって呼んでも良い?」
まさかのちゃん付けに照れる。うん、と言いながらもみんなとは違う呼び方に、少し優越感を感じた。
電車を乗り継ぎ、一時間弱で滝の入り口についた。もう空気がひんやりして気持ちいい。
いつの間にか香月が咲樹の横を占領したため、自然に椿ちゃんと並んで歩く。
「あれ?髪の毛切ったの?」
話し掛けてきてくれてほっとする。話題を探すの難しい。
由紀乃さんに切ってもらったこととか、バリカン出てきてびびったことを話すと笑って聞いてくれて、少しずつ打ち解けてきた。
「椿ちゃんもお団子可愛いね。自分でやったの?」
照れ笑いが可愛い。うなじが綺麗。
「最近暑いから、学校以外はずっとこれ。簡単にできるよ。」
タオルで汗を拭きながら歩く。五月でも歩き続けると暑い。
だんだん滝の音が近づいてきて、足元もぬかるむ。香月は咲樹の手をさりげなく掴んでいる。俺も手を繋いだ方が、と思ったとき、腕を掴まれた。
「ごめん!滑って転びそうになっちゃって。」
申し訳なさそうにしている椿ちゃんの手を自分の手の平に乗せてぎゅっと握った。
「転ぶと危ないから。俺も転ばないようにしないと。共倒れになら無いように、ははっ!」
手を繋いだだけなのにドキドキする。手汗とか大丈夫かな。
滝壺に到着し、みんなで写真を撮ることになった。
家族連れのお父さんに写真を頼まれ、お互いに撮ってもらった。
いいじゃん。ナイス、さっきのお父さん。
滝の裏側にも行ける道があって行ってみることにした。でもちょっと不気味。お地蔵さんとかあるし、石が積んであるのがなんか怖い。思わず椿ちゃんの手をぎゅっと握ってしまった。
「もしかして、朔ちゃんってこういうの苦手?」
「うん。最近香月とホラーゲームやって鍛えてるけど、リアルはちょっと怖い。椿ちゃんは怖くないの?」
「全然怖くない。可愛くないよね。朔ちゃんの方が可愛い。」
思わず足を止める。
「椿ちゃんの方が可愛いよ。」
恥ずかしがって引っ張られる。やっぱり可愛い。
流し素麺屋さんに到着し、流れない素麺を食べる。流し素麺を見たらそんなに美味しそうじゃなかった。
「流れない素麺、冷たくて美味しいね。さくらんぼ乗ってるよ、サクラサク。」
「なんだよ、チェリーブロッサムの方だよ俺は。なんで素麺にはさくらんぼなんだろうね。味違うよね。ま、可愛いからいっか。」
帽子をとってさくらんぼを食べていると、カメラ大好きっぽいおじさんに写真を撮らせてくれないかと声をかけられる。ちょっと警戒したけど、他に撮った写真を見せてもらい、変なことに使わないですか?と一応念押しして撮らせてあげた。おじさんは素麺を奢ってくれた。
「断らないところがすごいな。」
「他の写真は風景とか綺麗な写真だったし、被写体として選んでもらえたなら良いかな、と思って。ここで写真見れるらしいよ。素麺ただになったしラッキー。」
なんかURLが載った名刺をもらった。一応鞄に仕舞おうとすると、椿ちゃんがその名刺を写真に撮らせてと言ってきたので渡す。名刺はすぐに返ってきた。
素麺屋に併設されたお土産を見てみる。さくらんぼのチャームが売っていて目を引く。
「これ可愛いね。さくらんぼってなかなか無いよね。」
椿ちゃんが賛同してくれた。お揃いで買おっか、と言って二人分だけ買った。
咲樹と香月は二人の世界なので放置だ。
店を出て、ひとつ袋から出して自分の鞄に仕舞い、袋ごと椿ちゃんに渡す。
「お金は?」と言われたが、「いいよ、プレゼント。受験頑張ろうね。」と言うと「ありがとう。大事にするね。」と笑顔で鞄に仕舞う。
帰り道は自然に手を繋いで、受験の話になった。東大と芸大が近くにあることとか、芸大の受験科目とか。俺は国語が苦手だ。同じ文系でもレベルが違いすぎる。
「芸大はそれだけじゃなくて実技もあるんでしょ?朔ちゃんの声、好きだから受かって欲しいな。」
声好きなんだ。なんか嬉しい。
「♪サクラ咲ケ 僕の胸のなかに 芽生えた 名もなき 夢たち・・・。受験頑張らないとなー。」
嵐の『サクラ咲ケ』を口ずさむ。繋いでいる手がぎゅっと握られる。椿ちゃんの上目使いはグッと来る。
「大丈夫。朔ちゃんは頑張ってるし、頑張れるよ。いつもかっこいいなって思ってる。」
母さんの言葉を思い出した。一生懸命な姿はかっこいい、か。「ありがとう。椿ちゃんもかっこいいよ。」と言うと、ありがとう、と返された。
話をしない時間も心地良い。
もう地面はぬかるんでいないのに、手を離したくなかった。駅に到着して手を離す。
左手が寂しい。
今日はこのまま帰ることにした。滝、良かったなー。癒された。
電車に揺られながら景色を眺める。隣に座っている椿ちゃんが船をこぎ出す。香月たちは滝について話し込んでいる。マイナスイオンがどうとか。たまに椿ちゃんのお団子が顔にかかってくすぐったい。そして良い匂い。椿ちゃんはバランスを崩して、ハッと起きた。
「大丈夫?疲れた?」と声をかけると真っ赤になって、恥ずかしそうだ。
「実は昨日あまり寝れなくて。遠足の前みたいだよね。えへへ。」
ヤバイ。めっちゃ可愛い。いつもは凛としている椿ちゃんとのギャップもあり、キュンがすごい。抱き締めたい、って思った。
椿ちゃんの家の最寄り駅に到着し、家まで送る。もうすぐ終わっちゃうのか。
家の前に着くと、執事の田中さんが出てきた。
「椿さん、お帰りなさいませ。皆さんもお疲れさまでした。休憩していかれますか?」
え、いいんですか?と言って家にあげてもらった。
田中さんは、前に助けて貰ったこともあり、俺とユズとの関係を知っていると思われる。何となく気まずい。
香月は初めて中に入ったため、感動していた。すげー、しか言っていない。
香月は椿ちゃんの命の恩人の位置付けのため、なんか大事にされてる感があった。本格的なアイスティーが出てきた。めっちゃ上品な味がした。
今日は母さんが夕飯作ってるはずだ。ご馳走さまでした、と言って帰ることにした。
椿ちゃんはケンちゃんと一緒に見送ってくれた。
門から出ると、なんとなく緊張が解ける。咲樹と香月がニヤニヤしながら見てくる。「なんだよ。」「別に。」のやり取り。香月が寄ってくる。
「キスしたくなった?」
「うーん、抱き締めたくはなった。気持ちはわかるような気がする。」
おー、進歩したー。と喜ぶ。かなりゆっくりだけど、少し近づけた今日は、とても良い日だった。
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