39. C.h.a.o.s.m.y.t.h

 学校でのクリスマスライブを終え、先生が動画をアップする。自分的にはJackson5の曲が好きだ。

 アップした動画を見届け、昨年と同じくやおはちへ。今回は楓くんも一緒に来てくれた。去年も即席ライブの話をしたら参加したかったとぼやいていたらしい。


 やおはちに着くと、去年の大学生バイトの人もいた。彼女よりこっちを優先したと言っていて、ハードルが上がる。


 店長は張り切って、サンタ帽子やトナカイカチューシャ、三角帽子も用意していた。

 準備が整い、朔の呼び込みが始まる。


「Merry Christmas、イブ!今年もスーパーやおはちのオリジナルクリスマスケーキ、美味しくできました!

 ファミリーで過ごす方も、カップルで過ごす方も、一人で過ごす方も、やおはちのケーキを食べて素敵なクリスマスにしましょう!

 今年は一人用サイズもあるよー。

 では、そんな素敵なクリスマスに添える音楽をお届けします!」


 曲はJackson5の曲にした。朔が台詞を喋る。

 メロディーが始まると、みんなも聴いたことがある曲なので足を止めてくれる。

 大学生バイトの人も、鈴を持って盛り上げてくれた。


 一曲だと尺が足りず、どうする?という話になる。咲樹に、『星に願いを』の伴奏が出来るか聞くと、ギターを始めた頃に練習で弾いていたということで、ヴァイオリンとセッションすることにした。

 朔の歌はないので呼び込みに徹してもらった。

 生のヴァイオリン演奏が珍しいからか、けっこう集客になった。


 楓くんが、「最後にあの曲やるか。」と言って、去年も演奏したback numberの『クリスマスソング』を演奏した。

 また、朔はメガホンで熱唱している。去年より余裕があるのか、「君が好きだー」のフレーズで愛想を振り撒いている。

 そしてケーキは完売した。


「今年も良かったよー。これ、君たちのケーキね。」

 坂井店長にケーキをもらい、大学生バイトの人とハイタッチをした。


「楓くんはこのあと由紀乃さんと会うの?」


 朔が訊くと、「由紀乃は今日は予定があるらしくて明日会う予定。」ということで、一緒にケーキを食べることにした。

 今日は朔と咲樹もうちに来て、ピザを食べる予定だ。朔が、お父さんとお母さんに二人で過ごすように促したらしい。


 途中でピザを買ってからうちに着くと、楓くんは「ほんとに占いじゃん!」と言ってテンション上がっていた。

 ねーちゃんは友達と過ごすらしく、母さんは仕事でいない。


 皆を客間に通し、コップや皿などを準備していると、咲樹が手伝いに来てくれた。


「はぁ、ほんとは二人で過ごしたかった。」

 心の声が漏れてしまった。


「このメンバーで集まれるのも、もう無いかもしれないし。二人きりはこれからもまだ何回も過ごせるでしょ?」


 そうなんだけど。咲樹は二人きりじゃなくて良いんだ・・・。でも、これから何回も、という言葉が嬉しい。

 準備して客間に戻ると、朔と楓くんが今後の展望について真剣に話していた。


「俺にはドラムしかないから。ドラムを極めて、いろんなアーティストとタッグを組みたい。ひとつのバンドに所属するかは、今はまだ決めてない。これからの出会いにもよるしな。食べていけるかは分からないけど、最悪バイトしながらかな。」


 楓くんはすでに専門学校への入校が決まっている。


「俺はさ、視覚も聴覚も満たせられるアーティストになりたいんだよね。好みはあるかもしれないけど、俺のパファーマンスで感動してくれる子が一人でもいれば、自分の感性を信じて表現していきたい。」


「朔ならついてくるファン、絶対いるよ。俺、ついてく!」


 楓くんと笑いあっているのを微笑ましく思いながら、皿を準備すると、朔はもう食べ始めた。お腹空いてたらしい。


「香月は将来どうしたいとか決めてるの?」

 少しためらってしまう。


「ヴァイオリンで生活できるまでには成長したいと思ってる。それには経験も必要だと思うから大学卒業したら少し海外で修行してみたいなっていう気持ちもあったり。でも、あまり具体的にはなってないな。それに、ソリストになれたとしても仕事が来ないと食べていけないし、大学で教員免許はとっておこうと思ってる。」


 朔が、「それは俺もだし。教員免許、俺もとろ。」と言っている。咲樹は真剣に聞いてくれていた。


「咲樹は?どんな医者になりたいとかあるの?」

 楓くんが、俺が気になっていることをさらっと聞いてくれた。


「専門はまだ決めてないけど、できる限り患者さんに寄り添える医師になりたいと思ってる。多分、基本的な思いは朔と一緒なんだよね。朔はファンに寄り添いたいし、そのためには出来る限りのことをする。私も患者さんに対してそうありたい。やっぱ似てんだね。あ、私も医師免許取らないと。」


「みんな何かしらの免許取るのか。俺もなんか取ろっかなー。危険物とか?」

 関係ない資格とってどうするの?と笑い合う。


「まぁ、どうなるかはまだ分からないけど、みんなで励まし合ったりしていけると良いね。卒業してもさ、たまには集まって音合わせしたい。香月のベースも好きだから、ヴァイオリンだけじゃなくて腕が鈍らないようにたまには弾いてね。」


 朔のリラックスした笑顔に、はいはい、と返す。やおはちのケーキを食べて、クリスマスイブの夜は更けていった。


 

 次の日。終業式を終え、音楽室に集まる。今年最後の部活で、先生から話があるらしい。朔は待ち時間は常に何か踊っている。


「ダンスもうまくなったね。」

 思ったことを言ったら更なる進化を見せられた。


「見てみて!こんなこともできるようになった。」

 朔はバク転して、逆立をしたままジャンプした。メンバーみんなが驚いた。


「朔くんの進化が半端無い。俺は踊れませんから。」

 蓮が自分もやらされると思ってびびる。


「お前にこれは求めてないよ。でも、また一緒に踊って歌おうね。」

 蓮は嬉しそうにしていた。先生がやっと来た。


「みんな、ごめんね呼び出して。実は、軽音楽部が広報活動に大きく貢献したということで、記念品をもらいました!」


 記念品・・・。あまり期待できない。と思ったが、去年と今年の文化祭の写真集だった。


「教頭先生がこういうの好きでさ。作ってくれたから、会ったらお礼言っといてね。」


 蓮とみくは去年のには載ってないが、それはそれで嬉しいらしい。写真を見ながら思い出す。濃い時間を過ごしてきた。楓くんは一番嬉しそうだった。


「じゃ、軽音部らしくたまには俺から一曲。」


 甲斐先生はギターを構えて歌い出す。ONE OK ROCKの『C.h.a.o.s.m.y.t.h』を歌ってくれた。歌い終わると、「これ、来年演奏してね。良いお年を。」と言って解散になった。


 写真のなかには俺と咲樹が背中を合わせて弾いてるツーショットとか、朔が蓮と踊ってるところとか、いろんなショットがあって、ほんとに教頭先生、ありがとう。


 

 音楽室の前で藤原さんが待っていた。咲樹と一緒に商店街に買い物へ行くらしい。女の子二人だけでそんなところに行くなんて、危ないんじゃないか?


「見てみたい雑貨のお店調べてきたんだー。」

 咲樹は藤原さんと二人で、さっさと歩き出してしまった。


「ねぇねぇ、俺も一緒に行って良い?そのお店、俺も行ってみたかったんだ。」

 朔は自然に会話に入っていく。


 俺も行きたい。お店には全然興味ないけど咲樹が行くところには行ってみたい。


「香月も時間あるなら行こうよ。高校生なんてすぐ終わっちゃうよ?」

 朔は俺の方を振り向いて、親指を立てた。


「行く行く。絶対行く。」

 咲樹も藤原さんも、快く同行を認めてくれた。


「もしかして、一緒に行きたかったの?」

「当たり前じゃん。可能な限り一緒にいたい。」


「えっ!笹蔵くんってそんな甘い言葉を使うの?咲樹ってば、溺愛されてるわね。」

 藤原さんに言われて恥ずかしくなる。


 だって本心だし。咲樹は鈍いところがあって、俺が誘っても誘われてるって気付かずに塩対応されることが多々ある。

 今度は二人で歩きたいな。めげずにデートに誘おう。


 ちゃんと「二人でデートに行こう」って言おう。どこに誘おうか考えながら、後ろから咲樹の姿を見守る。


 そして、隙を見て咲樹の隣をゲット。


「どんなお店なの?」

「え?可愛いキャラクターのグッズが売ってるお店だよ。香月は好きじゃなさそう。」


「そんなこと無いよ。咲樹が好きなら俺も・・・、いや。咲樹が好きなものはリサーチしておきたいんだ。俺は咲樹が好きなものに興味があるんであって、そのキャラクターグッズに興味がある訳じゃない。」

 こんな説明で伝わるかな。我ながら回りくどいな。


「ふふっ、ありがとう。私も香月の好きなものは興味あるよ。また、好きなものは何か話そうね。おうちデートが多いから、外に出掛けるのも良いね。」


 うん、超良い。俺の言いたいこと伝わったかな。やばい。顔が緩む。

 咲樹の隣を藤原さんに譲り、朔と隣で話していると、なんだか視線を感じた。


「なんか、誰かにつけられてない?」

「え、お前分かるの?すげーな。藤原さんの執事がついてきてるんだよ。俺は全然分からなかった。」


 後ろを振り向くと確かにいつもの運転手の男性が確認できた。

 でも、なんか気配が違うような・・・。気のせいか。


 

 ゆめかわグッズのお店には早々に飽きたため、隣のレコードショップで時間を潰す。朔は興味津々で、どんどん奥の方へ進んでいく。


 入口付近にいた俺は、買い物を終えた咲樹に声をかけられ、次はスイーツを食べると言うのでついていった。

 咲樹が朔に電話をかけると、スイーツのお店はすぐに分かったらしく、すぐに来るらしい。


「高校生を満喫!香月、写真撮って!」

 咲樹と藤原さんのツーショットを撮らされる。 いいなぁ、ツーショット。


「はい、笹蔵くんも、ツーショット撮ってあげる。」

 藤原さん、神ー!!そしてこういう時、咲樹はちゃんと乗ってくれる。


「写真用に『あーん』してあげる!」

 最高です!ほんっとに、最高ですっ!


 藤原さんに激しくお礼を言ったら凄く面白がっていた。写真を確認すると、いい感じの写真が何枚も収められていてニヤニヤが止まらない。藤原さん、カメラのセンス良いな。家宝にしよう。


「そういえば、朔は?遅くない?」

 そういえば、そうだな。ふと、さっき感じた嫌な気配を思い出す。何か事件に巻き込まれてないといいけど。


「椿さん、佐倉さんをお迎えに参ります。少しここでお待ち下さい。」


 執事の田中さんが素早く去っていく。めっちゃ格好いいな。密かに田中さんのファンになった。

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