第16-2話 静寂なる中の恐怖
「……」
『開始時刻と同時に来ると思ったけれども…』
子供でも入れない換気用の窓を見上げて確認するが、襲撃者の姿は見当たらない。
「こないな…。ジィズマイとやらにもらった端末では、モンスター達は店の周りにいるのに」
「地図を拡大できますか?」
「いや、できないというか、いつも使っている地図アプリと変わらない。拡大できても店の内部までは表示されない」
「……」
和胡は声に出さず思案する。
『やふら も、店内に逃げ込んているのを確認しているから、籠城すると考え、出てくるまで待ち構える気か?
どう動く?
狭い通路内で人より大きなモップモンスターは動きにくい。
という事は、ということはやふら単独で襲撃してくるとか?』
和胡は学校内での やふら を思い出す。
『学校内での行動を見る限り消極的なイメージだけれども…クラスZ(犯罪者)としている以上、豹変するから、ありえなくもない。
やふら自身はモップモンスターに変身していないし、もしかしたら、モップモンスター以外になれる可能性もあ…』
「和胡」
未縫衣が緊張した声をあげた。
近づいてくる足音に和胡はカラフルな武器を構える。
「…」
カチャリと開いたドアから、見覚えのない男が現れた。
「………」
和胡は引こうとした引き金の指を緩める。男の動きに違和感があった。
「和胡、なぜ打たない?」
和胡に動きがないのは、机下にいる未縫衣でも分かり、見えないからこそ、不安の声が強く出る。
「この人は、違うと思います。襲いかかってくる敵ならば、ゆっくりと開けず、無防備に入ってきません。お店の方だと」
その男は、和胡達の存在に気づいているものの、銃口を向けられている事を含めて、不審がることなく、パソコン前の椅子に座るとキーボードを叩き始める。
『でも、本当に大丈夫なのか?やふらが変身して油断させている可能性もあるかもしれない』
和胡の銃口は男に向けたまま、少しでも違和感がないか観察を続ける。
「………………」
掛け時計の秒針が1周、2周としていくが、男に目立った動きはなかった。
パソコン画面も、打ち込まれた文字や数字におかしな所はなく、油断させるために適当に打っている様には見えない。
『この人は店の人と考えても良いだろう。
だとしたら、襲撃は?』
和胡は銃口下げて、辺りを見回し安全を再確認してから、襲撃してこない事に焦り始める。
『動きがないのはおかしい。
…もし、俺が やふら だとしたら、籠城すると知ってどう動く?
ここがモップモンスターに不利ならば、有利な状況、有利な場所に移動させるんじゃないのか?
例えば非常ベルを鳴らして、火事と思い込ませて店の外に出すとか?
非常ベル…いや、本当に火を付けるかもしれない。ホームセンターに灯油販売所があった…まそか、そこまで……いいや、ここは架空世界だと知っている者ならば、ゲーム感覚でできる』
その不安に囚われた和胡は改めて部屋を見回して今の状況を確認する。
『もし、避難しなければならなくなったら…店の裏口か、店の入口の2か所しかない。どちらも店を出れば広い駐車場、体の大きなモップモンスターには有利な状況になる」
和胡は小部屋に移動した行動を後悔してから、すぐに打破する方法はないか考え始めたところで…
突然、それは現れた。
「和胡!」
その存在に気づけた未縫衣は、声をあげるが、和胡の腕は動かないまま、それを見つめていた。
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