第17-1話 離脱
予想はできた。
ただ、あまりにも時が流れ、様々な事が起きたせいで、考えるのを忘れていた。
「喜べ、正義の味方の登場だ」
「
「…えと、本当に帯論さん?」
「和胡、なぜ撃たない?」
和胡の武器を持つ腕は下がっているが、視線は疑いの視線を向けている。帯論を知らない
「え? 何で疑うの?」
「外見だけじゃ、本人か分からないからだよ。帯論さんなら帯論さんと言える証拠を見せてよ」
「ふむ、そうだな……。
猫好きのチョコ好きだからペット(部屋の管理するプログラムをル映像化したコンパニオンをショコラと名付けて『しょこらたん』とデレデレと呼ぶ話でもするか」
「それ、俺の話じゃねぇかっ」
顔を真っ赤にして抗議した和技は『休日の女子高生スキン』の和胡に変わっている事を思いだし、慌てて未縫衣に言い訳をする。
「わこ?」
「違う、違うんだ、未縫衣さん。性格の設定をツンデレの『ツン』レベルを上げていて。そんなショコラがヘソ天でくつろいでいるというレアな瞬間が見られたからつい、言葉が漏れてしまったというか……運悪くこの男が部屋に入ってきて目撃されただけで、普段、そこまでデレデレになっていないから」
「言い訳になってないぞ。あと、わざわざ『ツン』レベル変えるなんて、ドM思考じゃねぇか」
「それ以上、しゃべるな、本物」
和胡は武器を向けて帯論を黙らせてから、未縫衣に困った先輩修復士の紹介を進める。
「えーっと、未縫衣さん。この人は素行が悪いけれども、味方です。安心できる人です」
「一言多いぞ。それよか、こっちの状況はどうだ?」
「どうだって…って、帯論さんが、ここにこれたって事は、ネットワークは直っている?」
「あぁ。こっちでも一悶着あったが、回復した」
「……………」
回復の知らせを耳にしたのと ほぼ同時に、和技として行動してくれたAIからの情報を受信した。
AIの情報、すなわちホームセンターにあるバックヤードでの一件。
「やふら…あいつ、とんでもない事してやがった」
その情報を帯論に送信してから、和胡は やふら がいる店内に向かって走り出そうとしたが、帯論に強い力で腕を捕まれる。
「まて、未縫衣ちゃんの救助が最優先だろ。女子スキンじゃなければデコピンものだからな」
「あ…」
常に『普通の人達』の安全を守らなければならない。それが『特別な人達』の規則であった。
「ごめん」
和胡は机の下に身を潜めていた未縫衣に近づくと手を差し伸べる。
「未縫衣さん、夢が覚める状態になりました」
「という事は、元の世界に戻れるのだな。
「もちろんです」
和胡の返事に未縫衣は喜んたが、その表情はすぐに消えた。
「……。本当なら、和胡と一緒に私もジィズマイやガルガリ達と戦いたいのだが、力不足なのは分かっている。
それと…」
未縫衣は和胡と『特別な人達』と推測できる帯論を改めて見る。
「悲しいものだな。毛嫌いしていた『特別な人達』に助けられて無事に帰られるのは」
「……」
「地の底を這いつくばって生活している『普通の人達』を『特別な人達』はゲラゲラ笑いながら見下ろしていて、何不自由なく楽して生きていて。
『特別な人達』が持つ『特別な力』も自分達を誇示するためのものだと思っていた。
だけど、特別なのは守るための力なんだね」
肯定の言葉を言ってから、未縫衣は首を横に振る。
「とはいえ、まだ毛嫌いする気持ちを簡単に変えることはできない。今すぐにでもスマホで『特別な人達』の行動を撮って公開したいという部分もある。まあ、今日は忘れてきたが」
「未縫衣さん、おれ…私たちは『特別な人達』という事をバラしてはいけない規則で生活しています。
『特別な人達』の情報がなければ、誰かの噂が悪い方に広まっていくのは百も承知です。
気づけてもらえた。そのだけで、私達は十分に嬉しいですよ」
和胡の言葉に未縫衣は、少しぎこちない笑みを『特別な人達』に向ける。見方が変わった事を表していた。
「未縫衣ちゃん、我々『特別な人達』が存在するのは『普通の人達』が安全に生活できるように管理するため。それを知ってほしい。
そして今回、こんな目に合わせて本当にすまない。
和胡、見送ってやれ。先に行っている」
帯論、和胡の肩を軽く叩いて部屋を出ていった。
『見送る』未縫衣をログアウトさせる言葉であった。
「…えと、未縫衣さん」
和胡は、未縫衣に近づく。
「夢から覚める作業をするので、目を閉じてもらっても良いですか?」
「目を閉じる……あの時みたいだな」
『あの時、未縫衣さんの瞬間移動の能力は取り除いたはずなのに…なぜ、また発動した?』
疑問が和胡の頭に浮かんだが、それにより一つの行動を見逃した。
「そうだったな、あの時もおとぎ話のように、口づけで夢から覚めたんだったな」
未縫衣の唇が合わさっていた。
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