第16-1話 バトルを制するには

 カラフルなモンスター達が窓外から一つしかない大きな目でこちらの様子を覗いていた。

 10月下旬ならば、ハロウィンのイベントのようでSNSに投稿したくなる光景だが、人を丸呑みにできる能力を持つ脅威でしかない。

 今は3匹しかいないが、遠くから近づくモンスターが見えた。さらに増える可能がある。


「お前らが、のんびり昼飯食っている間に招集かけたんだよ」


 やふら はポケットからWi-Fi使用ができるスマホを取り出した。


「ルール破ったら瞬殺って言ったけれども…生きてるって事は、エンターテインメントがあれば、許してくれるみたいだな。

 とはいえ、ジィズマイ姐さんを怒らせたくないから、時間まで待機させるよ」

「……」

「さて、お前らが どう負けるか、高みの見物をさせてもらおうか」


未縫衣みぬいさん」


 和胡わこは未縫衣の手を取ると走り出した。後方を確認したが、やふら が追ってくる様子はなかった。


『このままでは勝ち目がない。何か考えねば…』


 足は店外ではなく店奥、バックヤードへ


「外じゃないのか?」

「外に出ればモンスター達に時間になるまで追跡されて、ゲーム開始と同時に襲いかかってきます」

「そうか」


 和胡は腕を振り上げてスマートウォッチを起動し、通信障害関係なく使える機能『時間』で再確認する。


『開始時間まで10分もないから、近場の安全な場所で迎え撃った方が良い。

 特に未縫衣さんは運動能力の数値が一般人レベルだから、奴らに見つかったら大変だ』


 装飾の必要がない殺風景な従業員用の通路に入ると、出来上がった料理を運ぶ店員がいたが、和胡達に不審がる事もなく通り過ぎて行く。


「安全な場所は…」


 厨房、休憩室と目に入ったが、さらに奥にあって裏口からも離れた部屋のドアを開ける。

 そこは書類らしき物をしまうファイルが並べられた棚に、机とデスクトップ型のパソコンのある小部屋だった。

 キーボードの横に飲みかけのコーヒーが入ったマグカップが置かれているが、持ち主は見当たらない。


「事務室か…それか店長かオーナーの部屋…なのかな」


 通り過ぎる際、パソコン画面を見るとネットに接続しなくても使える表計算ソフトが確認できた。

 和胡は2人しかいない部屋の安全性を再確認する。


「ここなら、ドアから一匹ずつしか入れないし、窓も換気用の小さなのが上にあるだけ。あちらは数が多い分、地の利を生かせます」

「そうなのか…そう言えばくめとがゲームで、ゾンビに囲まれた時、似たような事をしていた……」


 和胡は部屋奥にある、もう一台の机を見る。こちらはノートパソコンが置かれていたが閉じられた状態で飲み物もなく、長時間、使っている形跡はない。


「未縫衣さんは机の下隠れていてください」


 椅子を引き、人が隠れられるスペースを作るが、未縫衣は近づいてこない。


「未縫衣さん?」

「……和胡よ、ここは本当に『本当の世界』ではないんだな。

 作られた嘘の世界で、私は迷い込んだに過ぎないんだな」


 まだ、倒れた粂戸くめとから心を引きずっている

未縫衣は、彼のいた方向を見つめている。


 いや、次々と更新される状況を受け入れようと、必死に心の整理をしようとしていた。


「大丈夫ですよ、見縫衣さん。目が冷めたら元気な粂戸に再会できます」


 未縫衣は和胡をしばらく見つめてから、頷いた。


「わかった、今は和胡を信じる」


 机に向かい、しゃがむ前に振り返る。


「目が覚めた時、和胡にも会えるのか?」


 その問いに和胡はスマイルだけで答えた。


「未縫衣さん。時間です」


 和胡は、未縫衣が隠れた机の前に立ち「開始」を待つ。


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