第15-2話 暴露

「友達の言う事を聞かないだなんて。どんだけクズなんだよ」


 やふら は容赦なくジィズマイが提供した武器を、その友達に放つ。


姫原ひめはらさんも、そうやって陥れたんだろう。汚い奴だよな」


 予想もできなかった事に、ただ驚く粂戸くめとの口が僅かに動き、何かを言おうとしたが、体にくる衝撃で声にならない。

 そんな友達の姿に やふら は笑い声をあげた。


「これを待ってたんだよ。豆鉄砲をくらった顔を見たいがために、偶然、電話してきたお前をここに呼んだんだよ。ここなら何をしても構わないからな。

 あぁ、ついでに教えてやるよ。粂戸の成りすました犯人、俺さ。

 小学校から一緒だけの理由で、つきまとわれていた可哀想な姫原さんを守るために動いたのに、阻止しやがって」


 やふら は、片思いの相手と仲の良い友達に近づくと、片手で胸ぐらを掴み軽々と持ち上げる。


「…」


 常人じゃありえない力に目を見開く粂戸の表情を、やふら は濁った満悦の笑みを浮かべた。


「俺さ『特別な人達』でガルガリなんだ。驚いた?」


 もう片方の手で持っていた武器の銃口を粂戸の額に付ける。


「じゃあな、粂戸。また、明日、学校で会おうな」


 勝敗に関係なく、イベント中に基他きた新町にいた『普通の人達』の記憶は消される。

 やふら にとって、気に入らない友達に引き金を引くことは、銃撃戦ゲームで敵チームになった友達に引き金を引くのと変わらなかった。


「……」


 やふら の指に力が入る前に、粂戸の口が開いた。


「…お前の事、紗江さえは見抜いていたよ。『目が笑っていない恐い人』だって…俺は、ひて…」

「…」


 気持ちよく復讐を終わらそうとした やふら は、どん底に叩きつけられた。

 片思いした相手に失恋、いや嫌われていた事に怒号と悲鳴を合わせた声を出し、そのエネルギーを手にしていた者を投げ飛ばして発散させる。

 悲鳴のような笑い声を上げ、追撃しようと走りより、馬乗りになって握りしめた拳を当てる寸前で…

 やふら は自分の額に武器によるダメージを受けた事に気づいた。


「やっぱり、お前だったか」


 銃口を向けたままの和胡わこが立っていた。


「それは、こっちのセリフだ、棚島たなじま


 2撃目を避けるため、後方に跳んだ やふら は和胡に銃口を向けつつ、失恋という惨事を二人にバレないよう顔を引きつらせながらも、必死に平静を装った。


「……」


 一方の和胡も和議わぎを指した名前呼びに眉が少し動き、動揺を見せる。


「棚島、バイト組のくせに影武者なんて使って…。しかもスキン変更かよ」


 『特別な人達』の中でも和技のように活動する者と、そうでない者がいる。将来、重要なポジションに就くがために学業に励むためなのだが、より上から目線でいたい者たちは和技の様に活動する者を『バイト組』と呼び見下している。


「くめとっ」


 動かない弟に未縫衣みぬいは駆けつけようとするが、和胡は やふら に近づかせないように腕を掴んで阻止した。


「未縫衣さん、大丈夫です。彼は生きています」

「だって…」

「良く、見てください。血が一滴も流れていない。それに彼の顔に苦痛はなく穏やかに目を閉じています。

 ここは、現実ではない世界なのですから」

「え?」


 混乱する未縫衣をなだめるために選んだ言葉に、やふら は少しでも優位に立ちたいがため揶揄やゆする。


「あーあ、言っちゃったな。クラスB(普通の人達)に秘密を教えるなんて重罪なのに」


 『普通の人達』に秘密を口にするのは禁忌とされているが、和胡は やふら の言葉に平然とする。


「全てを話したわけではない。そもそも、町の消去させる、お前達の方が罪は重い」

「姐さん達の大いなる力ならば、ただのシステムトラブルによるリセットで処理は終了。『特別狩り』達もリセットされて、月曜日には何事もなく学校や仕事するし」

「何のために『特別狩り』を集めた? 」

「知っていても教えるわけないだろう」

「……」


 未縫衣は、言い合う『特別な人達』の間を店員が通り過ぎて行くのを目にした。倒れて動かない弟にすら気を止めることなく。


「え?」


 ホームセンターで見た光景がここにもあった。


「どうして?」


 店に入った時は人数を聞かれ、注文したメニューを運んで来てくれたのに…。店員は彼らにぶつかることのないよう歩いていた。


 見えているはずなのに、見えていない。


 巻き込まれたくないから目を合わせないというわけでなく、店員、いや、他の客達もリラックスしていて、非常識な部分だけ認識できていない。


「未縫衣さん、我々は、いや、未縫衣さんだけ違う世界に迷い込んだと…今は考えてください」


 進展のない会話をやめた和胡は、簡単に説明した。


「そして、ここから抜け出す方法は、ガリカルと呼ばれた者たちを武器で倒す事です」

「ふうん、そういう事にする気か。

 なるほどね、2対1にすれば、勝算があると考えたわけ」


 やふら は、にやりと笑い、指を窓に向ける。


「このゲームは開始と、同時にガリカルの勝利にしかならないから」


 窓外にはモップモンスター達の姿があった。


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