第15-1話 決裂の昼食

「お待たせしました、和牛ステーキのライスと日替わりスープセットです。ご注文は以上でよろしいですか?」


 店員が伝票置き場に差し込み離れていていった。


粂戸くめとも、もっと高いの頼めば良いのに、支払いは和胡あいつなんだから」


 やふら は手に取ったフォークを店の奥に向ける。


「え、どうして和胡わこが払うんだ?」

「だって『特別な人達』なんだから、当たり前だろ。

 あいつら上級国民なんだから、金もたんまりあるんだし。もしかしたら、飲食代もタダなんじゃね? って、どこかのサイトに載ってた」

「いくらなんでも、それは無いよ。和胡はどうみても、俺らと変わらないよ」

「甘いんだよ、粂戸は」


 否定してから、やふら は大きめにきった肉かたまりを口に入れ食し、店奥に視線を向ける。


「女子だからって騙されんなよ。さっきだって武器を振り回してたんだろ。恐い女だよな。もしかして女じゃなかったりして」

「え? 」

「あくまでも『もしかして』の話だよ。

 とにかく、和胡あいつは信じるな。友達として言っておくわ」

「……」

「それはそうと、犯人分かった?なりすましのやつ」

「まだ」

「そう」


 やふら は、小さめに切った肉を食して、無理矢理に変えた話題を続ける。


「本当に酷い奴だよな。姫原ひめはらさんに悪口を言うなんて」


 この騒動が起こる少し前。

 粂戸の女友達、姫原ひめはら沙江さえが使用するSNSに悪口のコメントが届いた。粂戸が疑われたが、同じキャラクターのアイコンに一字違いの名前になっている なりすまし だった。


「まあな。沙江には、誤解がとけたから良かったけども、悪質もいい所だよ。

 『アイコンを有名なキャラにしたからなりすまされたんだよ』って怒られた。

 まあ、沙江が小学校からの友達だったから良かったよ。コンビニチキンで許してくれたし」

「…。一緒に行ったんだ、姫原さんとコンビニに」

「そりゃそうだろうよ。金、払わなければならないから」

「そう、んまあ、そうだよな」


 やふら は、ドリンクバーで入れてきたコーラで負の感情を飲み込んでから、有利な立場になるように会話を進める。


「俺さ、思うんだけれども、なりすましの犯人、棚島たなじまなんじゃね」

「棚島が? あいつが、そんな事するわけがないだろ。今日だって、みぬ姉さがしに協力してくれているんだから」

「どうだか。だって和胡の従兄弟なんだろ。『特別な人達』の従兄弟になるんだから。何をするのか分からねぇよ。

 『特別な人達』は、自分達は特別だから何をしても構わないって考えているわけだし」

「和胡は『特別な人達』かもしれないけれども、棚島は俺らと同じ『普通の人達』だ。

 それに和胡は『特別な人達』かもしれない。けれども、俺や みぬ姉をモンスターから助けてくれた。心は『普通の人達』と変わらない」


「……。だから、甘いんだよ、粂戸は」


 簡単に返された事に、イラッとした やふら はフォークを肉に突き刺した。


「何で友達の言う事を信じてくれないんだよ。

 いいか、和胡はとんでもない悪人だ」

「何でそんな事が言えるんだよ?」

「俺さ、見たんだよ。

 粂戸の姉ちゃんが端末いじってた時、画面がちらっと見えたんだ。

 ガリカルがどこにいるのか分かるアプリが開いていて、俺等がいる場所に点がついてた。

 つまり、この中にガルガリが混じっているんだよ」

「ガルガリが?」

「そう。

 『特別な人達』を特に悪く思う『普通の人達』から出てきた『特別狩り』

 ガルガリは、その『特別狩り』を狩る集団。すなわち『特別な人達』の集まり。

 そしたら和胡しかいないだろ」

「そんな…和胡がガルガリだなんて…」

「だから恐い女なんだよ。あいつは」


 ショックを受ける粂戸に満足した粂戸は突き刺した肉を頬張り、ようやく肉の味を噛み締めようとした。


「いや、何かあるはすだ」

「おいおい、粂戸」

「時間がない…もう少ししたらゲームが再開してしまう。

 だから、それとなく和胡に聞いてくる」


 粂戸は立ち上がり店奥にいる和胡の姿を確認すると歩き出す。


「…」


 3歩目の所で、粂戸は気がついた。

 背中に何か当たった感覚と、敵意を通り越した視線に。


「やっぱ、お前はどうしようもないクズだ」


 友達とは思えない暴言を吐いた後、カラフルな水鉄砲のような武器を向けて、やふら は狂ったように笑っていた。


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