壊れた星の直し方(8)
しかし当の辻占は首を横に振る。
「私はそうするべきでは無いと思ってる」
「どうしてです? 犯人にしっかり罪を償わせるべきだと思います!」
さっきまで天球儀を見ていた筈の夏穂は、いつの間にか俺の隣に来ていた。
こいつは基本面倒事に拍車をかけてあらぬ方向へ吹っ飛ばすタイプの人間だが、今回に関しては俺も同意見である。
もしこれが本当に人為的な物であれば立派な事件だ。器物損壊の立派な罪にだって当たる。
流石に教師陣もしかるべき対応を取らざるを得なくなるだろうし、この部にはそれを請求する権利はあるだろう。
しかしあろうことか、星占学部の部長である辻占がそれをあっさり否定したのだ。
「勿論私だって、もし犯人が分かるならそうするべきだと思う」
「じゃあ何故……!」
夏穂の反論を辻占は制した。部長と鹿子はただ隣で静観している。
「でもね、このまま犯人捜しをしてももしかしたら犯人は分からないかもしれない。この部屋には監視カメラも無いし、実際に壊された瞬間を見ていた証人もいない。決定的な証拠が無ければ犯人を特定するのにも時間が掛かるだろうし、その間ずっとぎこちない空気の中で活動することになるだろう。……おっと、こういうことを言うと私が犯人だって言っているように聞こえてしまうけど、念のために否定しておこう。私はここ一週間この部室に立ち寄ってない。鍵の貸出票が何よりの証拠だ」
辻占の言葉に、周りの部員が訝しむ様子は一切ない。この女は部員たちから、一体どれだけの信頼を得ているのだろうか、と辻占の人望と底知れぬ恐ろしさを感じた。
赤服部長が同じ状況だったらどうだろうか。俺は間違いなく真っ先に部長のことを疑うだろう。
「それに誰が壊したとか、同じ部員を疑いながら活動をするのは私は嫌だ。……私はもう少しでこの部を引退しなければならない。最後まで気持ちよく過ごしたいっていうのは私の身勝手な利己心かもしれないけど、どうか分かってほしい」
辻占のそれはまるで懇願するかのようにも聞こえた。
そうか、この辻占という人がどうしてここまで人望を得ているのかが、何となくだけど少し分かった気がする。
この人は他人の感情を揺れ動かすのが上手いんだ。自分を起点に波を立たせ、それに相手を上手く乗せる。あたかも本心で語るかのようにして相手の同情を無意識的に誘い、動かす。
なるほど、これは恐ろしい。……もっとも、辻占の本心がどうなのかは部外者の俺には分からないことではあるが。
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