壊れた星の直し方(9)

「だから私はこの件を一旦不問にするし……疑っているようで申し訳ないが、もしもここに犯人が居るとすれば正直に言ってくれたら私は許す。いないとは信じているけどね。だから最後まで気持ちよく活動しよう……私の勝手な願いだ」


 辻占の言葉を批判する者は居なかった。

 はっきり言って俺は、本当は辻占が壊したんじゃなかろうか、と疑っていたのだが、部長が何も言わないということは白なんだろう。


 部長は人の隠し事をすぐに見抜くし、こういう状況でも忖度して気付いた真実を隠したりしない。辻占の言葉は信用していいと思う。そして同じ理由でこの場の部員全員も多分白だ。


「で、でもそれじゃあ今後の活動に支障が出るんじゃないですか?」


 辻占に尋ねたのは星占学部の女子部員だった。全くの初対面である。


「うん、みめちゃん……もとい浦山の言っていることは正しいよ。これから一年生も入ってきてくれるだろうし、そんな中で不祥事が起きたことを放っておけば、何より後輩である君たちに不便をかけるだろう。だからそのためにこの人たちを呼んだんだ」


 一斉に部員たちの目線が俺達に向く。鹿子のみがぎょっとする。


 俺はてっきり話の流れから、文学部員は犯人捜しをやらされるんじゃなかろうか、と思っていたのだが、辻占の話ではその限りではないらしい。まあ、その犯人捜しを当部活に頼まれても困るんだが。


 第一うちの部活には推理が得意な人間はいないし、そっちの専門職ならば他に探偵部や超隠密新聞部なる部活がある。情報収集や推理なら彼らに頼るのが筋だろう。


 しかし、俺達が何をやるのかは前もって部長から聞かされていない。それにそもそも全く見当が付かない。そして同じく、ここの星占学部員たちも詳しいことは聞かされていないのだろう。


「ええ、私達が呼ばれた理由はあらかじめ聞いているわ」


 部長が言う。


「部長、俺何も聞いてないんですけど」

「だってあなた昨日来なかったじゃない。この二人は知っているわよ」


 そう言われるとぐうの音も出ない。この点については完全に俺が悪いので黙ることにした。だから夏穂、そのドヤ顔を今すぐに引っ込めろ。ムカつく。


「私達文学部員は星占学部の部長、辻占清華と共に短期のアルバイトをして天体望遠鏡を購入する費用を手に入れる、ということで正しいわね?」

「うん、間違いない」


 その場に居たほとんどは、驚愕の表情を見せる。ちなみにそのほとんどというのは、星占学部員たちと俺である。


「部長、だったら私も一緒に手伝います!」

「私も!」


 星占学部の部員たちは次々に手伝いを申し出る。すごい、これが本物の人望というヤツなのか。これは確かに便利そうだ、とか不純なことを考えてる俺のような人間には、人望のようなものは集まらないようにできているんだろう。この世の道理というヤツだ。


「残念だけど、この件に関しては首を縦に振ることはできない。これは私が解決するべき……いや、私自身で解決したい問題なんだ。君たちは新しく入ってくる一年生たちの為に勧誘を進めてほしい」


 そう言うと、部員たちは一瞬で大人しくなる。もうこの領域までいったら最早宗教だ、とは思ったが、そんなこと口が裂けても言えない。間違いなく殺される。


「話はまとまったかしら? それじゃあこれからすぐ後にもうバイトが入っているから、そっちの方に行きましょうか」

「分かった。よろしく頼むよ」


 部長の後に続いて辻占、鹿子、俺、そして夏穂の順に部室を後にする。

 ドアを閉めようと後ろを向くと、夏穂は星占学部の一部員に向けて手を振っていた。どうやら既に「知り合い」と呼べる人間が居るらしい。

 

 ……それもそうか。だって学校が始まってから二週間が経っているんだから。

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