逃げる後輩のシバき方(6)
「…………どうやらいないようね。もう帰っちゃったのかしら」
教室をきょろきょろと数回見回した後、ついに隠れた俺を見つけることはできなかったのか、その場から姿を消した。
「…………よかった」
俺はほっと胸をなでおろす。
さて、そんな全生徒から羨望の眼差しを向けられる生徒会長様がどうしてこの俺なんかの名前を呼ぶのか。
それはあの人の持ち合わせるもう一つの顔……そう、我らが『文学部』の部長も他でもない、あのお方が兼任なさっているからである。
さっき俺は会長の外面を菩薩だと言った。しかし、外面が菩薩ならばその内面は夜叉。
そしてその夜叉の面は、全生徒中俺の知る限り、何故か俺にのみに向けられているのである。
やむを得ない事情があったとはいえ、俺は昨日無断で部活を欠席したことになっていた。いや、普段から部活に関しては休みがちな俺だが、昨日はがっつり例の女子に連れ去られる現場を目撃されてしまっているのだ。
部長からあの光景がどう見えたかは知らないが、面倒になることは必至。クッソ、日本史での雑談に出てきた赤福はまさかこのフラグだったのか⁉ 余計なお世話だチクショウめ!
しかしマズいことになった。このまま学校に居ては
仕方ない。ここは一度家に帰るしか…………
「あら、そんなに身を屈めて一体どこに行く気かしら? 初狩君?」
「へ?」
頭上から声がする。
あまりに唐突な出来事に、俺はなんの躊躇も無く反射的に上を見た。
「ふふっ、こんにちは」
そこには、彼の全生徒の憧れの人。満面の笑みを浮かべられた兎天上神様のご尊顔があった。
「…………
その時の俺の顔を第三者から見たらどのように見えたことだろう。きっと完全にすべてを諦めたような絶望の表情が浮かんでいたに違いない。
自分でも全身から血の気が引いて行くのが分かる。俺は今まで、顔から血の気が引くときの「さぁー」って擬音は感覚を擬声にしたものだと思っていたのだが、まさか本当にこんな音がするとは知らなんだ。
「元気そうで何よりよ。……ところで初狩君。今日の放課後暇かしら?」
向けられる天上神の笑み。しかしその裏側には、確実に夜叉か、あるいは不動明王の気配が住んでいる。
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