逃げる後輩のシバき方(4)
「あ、ああ。気にしなくていい。ちょっと後ろめたいことがあるだけだ」
「後ろめたいことがあるんならそれは隠すべきなんじゃないの? そんな面と向かって後ろめたいことがあるって言われてもただ気になるだけ」
ごもっとも。だが悠生は隠し事をことごとく見破ってくるし、それを隠すための嘘をわざわざ考えるのも不毛に思える。何よりめんどくさい。そして俺の言う後ろめたいことと言うのは、勿論昨日のことだ。
「……まあいいさ。言いたくないんなら」
「ああ、悪いな。非常に助かる」
悠生は振り返り、自席に戻ろうとする。
「気にするなよ。短絡的な蘇雨の考え事なんか、見破ろうとすれば簡単に見破れる。わざわざ今やろうと急ぐことでもない」
「……お前も大概失礼だな」
悠生は笑う。つられて俺も笑う。これほどの気の置けない仲が一番ちょうどいい。
心配事の多い今日この頃だけど、この会話が俺の心を落ち着けてくれる。それが何よりありがたかった。
「ちなみに信玄餅の配送先は?」
「速達で
……お前は一度怒られてしまえ
◆◇◆
六限の数学も乗り切り、漸く一日の全過程が終了する。…………ちなみに俺は数学が一番の不得意教科で、それが六限にあるのだからたまったもんじゃない。終始睡魔との葛藤であった。
数学の教諭と担任が教壇に立ち替わる。そしてすぐに終礼が始まり、諸連絡もそこそこに間もなく終わった。
そして訪れる放課後。
悠生は今日は図書委員の当番があるらしく、先に教室を出て行ってしまった。相変わらずのマイペースさだ。……さて今日は何をしよう。
バイトは今日は十七時からなので少し時間がある。かと言って一度家に帰るには時間がもったいない。……部活には行きたくない。
今日一日、あの女からの理不尽な報復を恐れて神経を常に研ぎ澄ませていたが、どうやらその心配は無いらしく、何事も無いまま放課後になった。
普段なら面白そうなことには積極的に首を突っ込んでいくが、流石にこのような命の掛かった無謀なやり取りには不用意に身を置きたくない。一応そこらへんは弁えている。
君子危うきに近寄らず、だ。
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