第44話 3人は友達

「これ笑えるねえ、コウちゃん最高だね。」

「あーおかしい。」

 園子と明日香が楽しそうに屋上で写真を見ていると、背後に人の気配を感じふたりは振り返った。

「さやか・・・。」

 そこにはすごい顔をしてふたりを睨みつけるように立っているさやかの姿があった。

「さ、さやかどうしたの、こんなところで?」

 園子が驚きながら聞くが、さやかは無言でいた。そしてふたりに近づきさっき渡された写真をふたりに見せつけ、怒りで震える声で聞いた。

「どういうこと? これは何なの?」

「違ううんだよ。さやか何か誤解してるよね?」

 園子が必死に言うが、さやかはそれを無視して、明日香に顔を向けた。

「明日香、あなたはなんでここにいるの?」

 明日香は何も答えずこの場から去ろうとすると、さやかは明日香に近づき後ろから力強く腕を掴んだ。

「逃げるの! ちゃんと説明しなさいよ!」

 さらに怒りを増した声をさやかが発すると、明日香は足を止めさやかの方に振りかえった。

「みんなさやかの事を心配してるんだよ。あなたはそれがわからないの?」

 さやかを睨みつけるような眼をして言い返すと、さやかは持っていた写真をたたきつけた。

「心配してる? 心配してこうなるの?」 

「さやか違うんだよ。店長もさやかの事心配してくれてたから、私がさやかの事相談したんだよ。」

 そんなさやかを見て園子も涙を浮かべながら言ってが、さやかは目に涙を浮かべ震えながら拳を握りしめていた。

「心配、心配って、みんな言葉でそう言ってるだけじゃない。本当の私の気持なんか誰もわかってないんだから。コウちゃんも・・・。」

 そんなさやかを見て明日香は冷静に言った。

「そんなのわかんないよ。でもわかんなくて当然でしょ。だって私も園子も店長さんも誰もさやかじゃないんだから。でもみんな少しでもわかろうとして色々してくれてるんだよ。さやかにはそれが分からないの? さやかはまわりの人の気持ち考えたことある? その人たちの気持ちが分からないの?」

「そうだよさやか、さやかは悲劇のヒロイン演じてるだけなんだよ。本当は自分でもわかってるんでしょ。もっと素直になりなよ。まー、私達もコソコソしてたのは謝るけど・・・。」

 園子も言うと、ふたりはさやかに近づいて行った。

「もっと私たちを頼ってよ。頼りないかもしれないけど。もっと本音で話してよ。」

 明日香も涙でいっぱいになった目をして語り掛けながら、両手でさやかの手を握っていた。そして園子もふたりの手を包み込むように手を握ると、ひと言だけさやかの顔をじっと見つめて言っていた。

「ごめんね、さやか。」

 さやかはふたりの言葉を全身で受け止め、何か今まで人の言うことを全て拒んでいた自分を情けなく感じてきて、再度閉ざしていた心の扉に今ふたりの言葉で突き刺さり、無数の穴があいて光がさやかの心の中に再び届き始めていた。

「ふたりともごめん。」

 さやかは素直に謝っていた。

「こっちこそごめん、わたし達コソコソしすぎだったよね。」

 明日香もさやかに詫びていると、園子はふたりの顔を見て、笑って言った。

「でもさ、さやかのおかげで私と明日香は仲良くなれたんだから、感謝だね。」

 ふたりも園子のその笑顔を見て微笑み笑いだしていた。

「なんで笑うの? ねえ何で?」

 園子は不思議そうな顔をしてふたりに聞いていた。

「いいの、いいの。みんな園子のおかげだよ。」

 さやかは言っていたが、園子は意味が分からず首をかしげていた。すると明日香がふたりに向かって声を掛けた。

「じゃあ、今度みんなでカラオケ行こうよ。」

(カラオケ、そうか、だからコウちゃんこの前・・・。

   ・

   ・

   ・

「カラオケじゃもったいないよ、今日は天気もいいから、まずは屋外でどうかな?」

   ・

   ・

   ・

 とか言ってたんだ・・・。)

「さやかとカラオケ行くなんていつ以来? もう記憶がないぐらい昔の話だね。じゃあさコウちゃんも誘って4人でカラオケ行こうよ。」

(さすがにさやかの前でその呼び方ダメでしょ!)

 明日香がハッとした顔をした。

「あっ!」

 園子も気づいたようで、思わず声をあげてしまうと、すぐにさやかが反応した。

「ちょっと園子、コウちゃんて言うのはなれなれしすぎないかな?」

 少しひきつった笑顔で聞いてきた。

「だって、さっきさやかもコウちゃんって言ってたじゃん。私だってコウちゃんて言ったっていいでしょ。ライバルなんだから。」

 開き直って園子はこの前の話を持ち出すと、さやかはさらに顔をひきつらせていた。

(園子は違うって言ってたくせに、こういう時だけライバルとか言って・・・。)

「それにカラオケの時コウちゃんにOKもらってるから、ねえ明日香。」

(ここで私に振らないで・・・・)

 話をふられた明日香は情けない顔になってしまっていた。

「明日香、まさかとは思うけど、あなたまでコウちゃんとかなれなれしく呼んでないよね?」

 笑顔ではあったが目が笑ってないさやかから明日香は視線をそらした。

「そんな風に呼ぶわけないじゃない、店長さんでしょ、さっきも私店長さんって言ってたでしょ。ねえ園子。」

「うん、そうだよ、明日香はね、さっきはちゃんと店長さんって言ってたよ。」

 明日香は園子に救いを求めたのだが、なんとも正直な言葉が返って来てしまっていた。

「”さっきは”ね。”さっきは”・・・。」

 さやかは”さっきは” の部分だけを抜き出し強調して言い明日香の顔を見ていたが、明日香の視線はさやかには帰ってこなかった。

「まあ、まあおふたりさん、もうそのぐらいにして・・・。」

 園子が言いだすと、ふたり同時に園子の方を見て、声を揃えて叫んでいた。

「園子!」

 園子は驚いた顔をしてふたりを見ていると、さやかと明日香は突然笑い出した。

「何? 何?」

 園子はよくわからずふたりのことを見ていたが、やがてその笑いの中に自然と加わっていった。


 3人で少しの間笑い合っていたが、やがて明日香が笑顔から真剣な顔に戻ってさやかに向かって言った。

「さやか、こんな時だから私も正直に聞くね。野球どうするの?」

 今までだったらとっても聞け無い様な言葉をさやかに向かって投げかけると、さやかは冷静にその言葉を受け止めた。

「もう少し時間もらえないかな? 私なりに今度は前向きに考えたいんだ。」

 穏やかな顔を見せさやかは答えた。

「わかった。急がなくていいよ。待ってるから。」

 明日香は笑顔でうなずいた。

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