第43話 ふたりはどこ?

 西川は家に着くと冷蔵庫からビールを持ってきて一口飲み、今日あったことを思い出していた。

「あー、うめえ! ふぅー、今日は疲れたな。さやかちゃんにも京子さんにも色々驚かされたしなぁー。」

(でもなんかうまくいかなかったなー。いつもそうなんだ。うまくいかないんだ。でも一歩位は、いや半歩位は前に進めたのかな? 俺もさやかちゃんも。)

「ふぅー!」

 大きくため息つきふた口目のビールを口にしようとした時、西川のスマホが鳴った。

「だれだ。こんな時間に?」

 西川がスマホの画面を見ると、”倉田修一くらたしゅういちあ”という名前が目に入ってきた。

(倉田? どうしたんだ? 何かあったのか?)

 倉田修一は、西川がかつて所属していたクラブチームの同僚だった。同い歳ということもあって特に親しくしていたが、西川があずまやに出向になってからは会うどころか、一度も連絡すら取ったことがなかった人物だ。

 そのクラブチームは親会社の食品メーカーの社員で構成されていて、西川も当然その会社で勤務していたのだが・・・。

「もしもし。」

 西川は恐る恐る言って電話に出ると、懐かしい声が聞こえてきた。

「西川か?、元気か?」

「あぁ、元気でやってるよ。それにしても久しぶりだな。」

「おう、久しぶりだな。なんか元気なさそうに聞こえるけど、本当に元気か?」

 西川の声を聞いて倉田は聞いていた。

 今日色々あった西川は疲れ果てていた為、元気無さそうそうな声を出しってしまっていたようで、倉田にも西川の声がそう聞こえていたのだろう。

「大丈夫、大丈夫。元気だよ。で、どうした?」

「実はな・・・。」

   ・

   ・

   ・

「うんわかった。少し時間くれないか、じっくり考えさせてくれ。じゃあまた。」

 西川は電話を切ると、表情を変えていた。

「よし、俺も変わらなくちゃ。」



「園子! 園子!」

 いつものように明日香が、さやかのいないのを確認しながら園子に声を掛けていた。

「明日香どうした?」

 園子は勢いよく席を立ち、教室の入り口付近で手招きしている明日香の元へ足を運んで行っていた。

「ねえ、ねえ、この前のカラオケの時の写真、プリントしてきたんだけど見て。」

 明日香は園子に写真を見せると、園子は写真を手に取り1枚1枚確認するように目をやっていた。

「いいね、これコウちゃんにも見せたいから、もらってもいい?」

 園子が西川の映った写真を明日香に見せると、明日香もその写真を見て笑顔で答えていた。

「いいよ。何枚でもプリントできるから。」

 しばらくふたりは楽しそうに話していたのだが、園子が急にキョロキョロと周りを見回して言ってきた。

「ここじゃ、さやか来ちゃうから、いつものように屋上行こうよ。」

 ふたりは教室を急いで出ようと教室の出口に向かうと、教室に入ろうとしていた大柄な男性教師とぶつかったてしまった。

「ドン!」

 それほど華奢きゃしゃな感じでは無い明日香ではあったが、ぶつかった相手が相手だったため勢いよくそのまま後ろに飛ばされてしまっていた。

「ごめん、ごめん。大丈夫か?」

 教師は心配そうに声を掛けると、明日香だと気づいたようだ。

「あれ、C組の山上じゃないか? どうした?花本に用か?」

 明日香とさやかが野球部で1年生から活躍していたことは、教師の間でも知られていたことで、多分この教師も明日香はさやかのところにやってきたのだと思いこんで言ったのだが、今のふたりの関係までは理解してなかったようだ。

「すみません。こっちもよそ見してたもんで。」

 明日香は慌てて、園子の手を引いて再び駆けだして行ってしまうと、教師はふたりの後ろ姿に向かって大きな声を発した。

「おい、廊下は走らない!」

 そう言ったもののふたりの姿は見えなくなっていて、教師はあきらめて教室に入ろうとすると、足元に何かが落ちているのを見つけた。

「なんだ、山上と前田と、うーん誰だ? どこかの学校の男子生徒か? でもそれにしては老けてるような・・・。ここはカラオケか?」

 その落ちていたものを手にして眺めていた。するとさやかが教室に戻て来て、その教師に声を掛けた。

「先生何してるんですか?」

「おう、花本か。あっ、そうそう、さっき山上がこれ落としていったから、渡しといてくれ。」

 教師はさやかに手に持っていたものを渡して、教室の奥へ入って行ってしまい、奥に座っていた他の生徒に声を掛けていた。

(えっ! これって・・・。どういうこと?)

 さやかが手にしていたのは、ついさっき明日香が言っていた写真で、そこに写っていたのは先日のカラオケ店で撮った園子と明日香と・・・。

「先生、明日香はどこに行きましたか?」

 怒ったような声でさやかが聞くと、教師はさやかの気迫におされながら答えていた。

「えっ、山上か? 山上は確か・・・そうそう前田といっしょにそっちへ走っていたぞ。」

「ありがとうございます。」

 礼を言ってさやかは、教師が指さした明日香と園子が走って行ったであろう方向に向かって走り出した。

「おい花本、お前も廊下を走るな!」

 再び教師は言うが、当然そこにさやかの姿はもうなかった。 

 さやかは勢いよく走って行くと、途中で談笑しているいくつかのグループに聞き込みをしながら進んで行き、屋上手前の階段下にいたグループに声を掛けていた。

「園子と明日香見なかった!」

「あー、そのふたりならちょっと前に屋上に上がって行ったよ。」

「ありがとう。」

 さやかは鋭い視線を屋上方向に向け階段を勢いよく駆け上がって行った。

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