第38話 ふたりは友達?

 カラオケ店の個室に入ってから、園子が続け様の3曲目を歌っていると、園子のスマホが鳴っているのに西川が気付いた。

「前田さん! 前田さん!」

 大きな声で呼びかけると、園子は歌を中断して西川の方に目を向けた。

「スマホ鳴ってるよ!」

 園子はテーブルの上のスマホの画面に目をやるとすぐにスマホを手にした。

「もしもし、・・・・、うんわかった、待ってる。部屋番号はえーと、コウちゃん何番?」

 普通に西川は"コウちゃん"と呼ばれていたが、もう何の抵抗も感じずに答えていた。

「えっ、ちょっと待って下さい、今確認しますから、・・・、えーと502です。」

「コウちゃん502ね。502、じゃあ待ってるから。はーい。」

 そう言って園子は電話を切った。

「コウちゃん、もう少しで来るって、多分部活帰りだから制服だよ。コウちゃん好きでしょ。」

(だから、俺は女子高校生好きじゃないって、制服好きでもないって。)


 その後園子はひとりで数曲歌って疲れた様で、ソファに勢いよくドンと腰掛けた。

「次はコウちゃん歌って、何歌う?」

 西川は聞かれていたが、今どきの曲などほとんど知らないので、どうしたもんかと困ってしまっていた。

「ねえ、何にする? もう勝手に入れちゃうよ!」

 園子がせかすように言ってきたが、勝手に入れられても多分歌えないと思い、焦って曲のリスト本をめくっていると、入り口のドアが開いた。

「ガチャ」

「遅くなっちゃた、ごめんね。」

 するとひとりの少女が入ってきた。

「遅かったじゃん、えー、着替えてきちゃったの。制服じゃないじゃん。」

 園子は残念そうな表情を見せていただ、入り口がちょうど西川の後ろにあったため、西川には少女の姿は見えていなかった。

「早くこっち来て。」

 園子が手招くと少女は西川の前まで来て、礼儀正しく挨拶してきた。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

 西川は挨拶を返し少女の顔をようやく見た。

(あれ? どこかであったような?)

「明日香、何歌う?」

(明日香・・・。明日香・・・。)

「山上明日香さん!?」

 西川は驚いたように大きな声で名前を叫んでいた。

「こんにちは、先日はどうも。」

 明日香は西川の方を見て、軽く会釈してくると西川は少しパニックになりながら園子に聞いていた。

「なんで? なんで? えっ、ふたりは友達だったの? だってほとんど面識ないって言ってたじゃないですか。」

「まあまあ、細かいことはいいじゃないですか。」

 園子はマイクを使って返してきていたが、西川はすこし声を大きくしていた。

「いやー、細かいことじゃないでしょ。結構大事なことだと思うんですけど。

 あっ、じゃあやっぱりこの前の話は山上さんから聞いたんでしょ。そうなんでしょ。」

「園子に話を聞きたくて、私が勝手に話しちゃったんです。ごめんなさい。」

 明日香が頭を下げて謝ってくると、西川はその姿を見てフォローを入れるように言っていた。

「そんな謝んないでください。決して怒ってるわけじゃなくて、ちょっと驚いただけですから。」

「そうそう別に明日香は悪気があったわけじゃないんだから、それにさやかの事心配して私に色々聞きに来ただけで、だから怒らないでね。」

 園子が再びマイクを使って言うのを聞いて、西川はなんだか力が抜けてしまっていた。

「そうだよね、みんなさやかちゃんのこと心配して色々考えてくれてるんだもんね。なんか俺の方が本当にごめんなさいだね。」

「でもこれでわかったでしょ。さやかはコウちゃんと知り合いだってこと何故だか私にも教えてくれなかった。私は明日香から聞いた。さー、この前の問題の続きです。何故さやかはその話をしないのでしょうか? はいコウちゃん、お答えください。」

 またもやマイクを使って園子は言っていたのだが、その答えは西川には当然わかっていた、でもそれは答えられないに決まっていた。

「どうしてかな? それは俺にはわからないな。」

 その西川の明らかに誤魔化すような答えを聞いて園子はマイクを口元から下ろしていた。

「ねー、コウちゃんは答えられないでしょ。なんか引っかかるんだけど、絶対にそう言うと思ったんだ、コウちゃんは。」

「そうなんだ。なら仕方ないね。誰もさやかの心の中はわからないから。」

 西川が黙ってしまうと、園子は元気に大きな声でを出して静まってしまった場を盛り上げようとしていた。

「まーいいか、そのうちさやかも話してくれるんじゃないかな。はい、はい、もうこの話はお終い。せっかくカラオケ来たんだから歌おうよ!」

 そして右手を突き出した後、園子は何かに気づいたようだ。

「あれ? コウちゃんなんか話し方変わったね。私じゃなくて俺って言ってたし、いつもの気持ち悪い敬語じゃなくなってるじゃん。コウちゃん絶対そっちの方がいいよ。」

「気持ち悪いは余計だけど、まー、俺もそう思うよ。今は仕事中じゃないしね。」

 西川はも笑って答えていた。

「よし、あらためて歌いまくろう! どうせコウちゃんのおごりだし!」

 園子は大きな声で言うと、明日香を見て少し不思議そうな顔をして聞いていた。

「ねえ、明日香。なんで着替えてきたの。部活終わって直行した方が早かったんじゃない?」

 すると明日香はモジモジした感じでかわいらしい声で言っていた。

「だって、制服じゃ、可愛くないでしょ。せっかくカラオケいくなら可愛い服で行きたかったから。店長さんどうですか?」

 そしてスカートのすそを広げて西川に見せてきた。 

「いいんじゃないですか。可愛いですよ。」

 西川は顔を赤らめ再び敬語に戻ってしまっていると、すかさず園子が反応していた。

「明日香違うんだよ、コウちゃんは制服のJKが好きなの。だからそのまま来てくれた方が喜んだのに。」

 そして西川の顔をのぞき込むようにしてきた。

「ねえコウちゃん。」

「えー、せっかく可愛い服選んできたのに・・・。」

 明日香が悲しそうな顔になってしまっていると、慌てて西川は必死な表情になって言っていた。

「そんなことないよ、凄く似合ってるし、凄く可愛いよ。それに俺は制服好きでも何でもないから、前田さん変なこと言わないでよ。」

「店長さんに可愛いて言ってもらえたから嬉しいです。」

 明日香は笑顔で言って西川に近づいていくと、それを見た園子が声を上げた。

「ちょっと待った! 明日香近づきすぎだよ。もう少し離れて。」

 園子が明日香と西川の間に強引に入ってきてそのまま座ってくると、明日香はさっきから園子の言うコウちゃんという言葉に疑問を抱いたようで、西川越しに園子に尋ねた。

「そう言えば園子、店長さんの事なんでコウちゃんって呼んでるの?」

「だって、西川浩二だからコウちゃん。ねえコウちゃん。」

 園子はわざとらしく西川の顔を見て笑顔で言うと、明日香も負けずに西川の顔をのぞき込み甘えるようにしてな声を出していた。

「じゃあ、私もコウちゃんて呼んでいいですか?」

 西川はにやけてた様な、あきらめた様な何とも言えない表情をして、園子にも聞こえる様はっきりと念を押すように答えていた。

「いいけど・・・、でも今日だけだからね。」

(最近の女子高校生はさっぱりわからない。さやかちゃんも違う意味でわからないけど、今度会ったときには・・・。)

 西川がボーとそんなことを考えていたのだが、園子と明日香はすでに歌う準備を始めていた。

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