第39話 ただのお迎えです
今日は学校が試験休みということもあって、さやかはいつもならとっくに起きる時間になっていたのだが、まだベッドの中でゴロゴロとしていた。それでも眠っていたわけではなく、何故かいつもより早く目は覚めてしまっていたようだ。それでもベッドから出ずに何となくゴロゴロを継続していた。
(あー、なんかこの前も、その前もいつもコウちゃんに嫌な思いばかりさせちゃってるなー。なんでうまくいかないんだろう。園子ならどうするんだろう? あー、でも園子にも変な気持ちになっちゃって、ごめんなさいだよなー。)
いろいろな事を考えてしまっていたが、先日園子と西川がカラオケに行ったことは当然さやかは知らないことで、さらにそこに明日香までいたなんて考えもしなかったことだ。
「ピンポーン!」
さやかの家のインターフォンが鳴った。
「ピンポーン!」
しばらく間があってもういち度なると、京子の大きな声が聞こえて来た。
「はーい。さやか! さやか! 今手が離せないから出て。さやか! お願い!」
さやかは眠そうな顔のまま面倒くさそうにゆっくりと自分の部屋から出てきた。
「誰よ、こんな朝早くから。まったくやっと試験終わったんだからゆっくり寝かせてよ。」
決して眠っていたわけではないのに、文句を言いながらインターフォンのモニターを覗き込んで、さやかは小さく驚いた声を発してしまった。
「えっ!」
そして何故かモニター越しに見えるわけも無いのにパジャマ姿の自分を両手で隠しながら、あと退りして固まってしまっていた。
「誰だったの? さやかどううしたの? さやか!」
キッチンから京子が出てきてもさやかは無反応でいたので、仕方なく京子はそんなさやかを見ながら横を通って、インターフォンに近づいて行った。
「もう、変な子ね。」
そう言いながらモニターを確認すると、そこには何か緊張した顔をした西川の姿が映っていて、その姿を見て京子は笑顔になってた。
「あら、コウちゃん。今行くからちょっと待っててね。」
京子は自分の後ろで動かないでいたさやかの方を擦り返って見ていた。すると少し間があってモニター越しに西川の声が聞こえてきた。
「あっ、はようございます。」
「ガチャ。」
玄関のドアが開いて、これから仕事に向かう為なのか、スーツ姿の京子が急ぎ足で出てきて首をかしげて不思議そうな顔をして聞いてきた。
「おはよう、コウちゃん。どうしたの?」
西川は出て来た京子の姿を見ると何故か緊張してしまって、かなりもじもじした感じになっていた。
「えーと・・・今日はですね。えー。」
何かはっきり話すことが出来ない西川の姿を見て、京子はさらに不思議そうな顔になっていた。
「ちょっと、どうしたの? 」
「えーとですね。本日はですね。さやかさんをですね。お迎えに・・・、・・・」
額に汗をかきながらかなりたどたどしくだがようやく言うと、京子はそれを聞いても意味が分からずポカンとした表情を見せていた。
「どうしたのコウちゃん? 何か変よ。おでこにいっぱい汗かいてるし? 」
西川の額を指差しながら京子は言っていたが、西川のその言葉と何か落ち着かない態度をみて、わざと悪戯っぽく京子は聞いた。
「わかった! さやかにデートのお誘いね。」
「デ、デート! 違います、デートでは無くて・・・。今日はただのお迎えです。」
西川は顔を真っ赤にし、自分でも何を言ってるのかわからくなりながら、ただ一生懸命京子に伝わるように言葉を発していた。
「はい、はい、今さやか呼んでくるから。あがって待ってて。」
京子は言うと家の中に戻って行ってしまった。
(もう疲れた。背中が汗でびしょぬれだ。俺は何を緊張してるんだ。結婚の挨拶をしに来たわけでもないのに・・・。結婚? 俺は何を考えてるんだ!)
そう思ったとたん、西川は勝手にさらに顔を紅潮させ、額だけでなく全身に汗をだらだらとかいて自爆していた。
「コウちゃんどうぞ、あがって!」
中から京子の声が聞こえて来ると、西川は靴を揃えて脱ぎ玄関から家の中へ入って行った。
(コウちゃん何しに来たんだろう? 何かあったのかな?)
さやかは自室に戻ってベッドの上に腰け、ドキドキしながら色々な事を考えていた。
「コン、コン。」
さやかの部屋の扉がノックされ、京子から声が掛かった。
「さやか、コウちゃんがお誘いよ。」
(お誘い? お誘いって何?)
その言葉を聞き心臓が飛び出しそうになるくらいの驚きとなり、さやかは声を出すこともできないでいて、そのあと全身の力が抜けていくのが分かった。
「さやか、入るわよ。」
そんななことになってると知らない京子は、さやかの返事が無かった為部屋に入って行くと、そこには何か抜け殻のようにボーッとして床にへたりこんでいるさやかの姿があった。
「ちょっとさやか、どうしたの? ほら、コウちゃん待ってるわよ。」
京子は驚きながらも、さやかをせかすように言うと、抜け殻状態のさやかに気合を入れるかのように両肩を軽く叩いた。
「パン! パン!」
さやかはようやく我に返り顔を上げてみると、そこには笑顔でうなずいている京子の顔があった。
「行ってらっしゃい。」
優しい声で言う京子の言葉がさやかの耳に聞こえてきた。
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