第35話 お誘い キター!

「さやか、私今日は何番レジ?」 

「園子は・・・5番レジだね。えーっと私は・・・」

 さやかは事務所に張り出されているレジのスケジュール表を覗き込んで確認していた。

「おはようございます。」

 西川が事務所に入ってきてふたりに挨拶してきた。

「おはようございます。」

 何故かふたりとも、かしこまった感じで挨拶を返すと、その場を立ち去り店内へ向かおうとしていた。

「あっ! 前田さん。ちょっといいかな?」

 売り場に向かっていた園子を西川が引き留めるように声を掛けた。 

「は、はいっ!」

 園子は驚き返事が変に大きな声になっていたのを聞いて西川も何故か驚いていた。

「いやー、そんなびっくりしないでくださいよ。少し話聞きたいだけですから。」

 園子はこの時を待っていた。

(キターーーー! 明日香が言ってたやつキター!)

 心の中で叫びながら、今度はわざとゆっくり返事をしていた。

「はーい。」

(えっ?)

 その返事に何か違和感を抱いていたが西川は、さやかにそ伝言を頼んでいた。

「そうだ、花本さん売り場に木村さんいると思いますから、前田さん少し遅れるって伝えてくれませんか?」

(なんで私が・・・。意味わから無いんですけど・・・。)

「わかりました。」

 あきらかに不機嫌そうにさやかは小さい声で返事をし、売り場へ向かっていったのだが、さやかの声のトーンが気になった西川はさやかのことを目で追っていた。すると園子が西川に近づいてきた。

「店長。私に何を聞きたいんですか?」

 園子はこの前の屋上での明日香との会話を思い出しながら悪戯っぽく言っていた。

「いや。大したことじゃないんですけど。ここじゃなんですから。応接室で。」

 西川が園子をうながそうとすると、たっぷりためて園子は答えていた。

「えっ! 応接室にふたりっきりですか? どうしようかなー?」

(またか、最近の女子高校生ってみんなこんな感じなのかな?)

 さすがに西川にも免疫がついてきていたようで、少しうんざりした表情をしながら、そっけなく言って応接室方向を指差した。

「はい、はい、じゃあ行きましょうか。」

 園子はつまらなそうな顔をしながら事務所を出て行き、西川もその後に続いていた。


「木村さん、前田さん店長に呼ばれて少し遅れるみたいです。」

 さやかは西川に言われたまま事務的に木村に伝えた。

「何それ? どういうこと?」

「わかりません。」

 木村は戸惑って聞き返していたのだが、不機嫌そうにさやかはひと言だけ言って自分が担当するレジに向かって行こうとした。

「ねえ花本さん。あのふたり怪しいと思わない?」

「えっ?」

 さやかは驚いて振り返っていたが、木村が何を言っているのか理解できないでいた。

「だって、店長は前田さんと話してるとき、いつもすごく楽しそうだし、なんかニコニコしてるよね。ねー、花本さんもそう思わない? あのふたり絶対そうだって!」

 木村がしつこく言ってきたものだから、さやかの頭にこの前レジで楽しそうに話しているふたりの姿と西川のことを楽しそうに話している園子の顔が浮かんできていた。

「そんなこと知りませんよ。」

 そんなことを思っていたためさやかはつい強い口調になって返してしまった。

「えーっ、なんで怒ってるの・・・?」

 木村は不思議そうにさやかの顔を見ていたが、伝言の内容を思い出したようだ。

「あーそうだ。レジの担当変えなきゃ。」

 慌ててレジに向かうと、園子が担当する予定だったレジにいたパートタイマーの女性に頭を下げていた。

(木村さんは何を言ってるのだろう? 何かすごく腹が立つ。あーイライラする。)

 さやかはそんな感情のまま担当のレジへ足を進めて行った。



「なんの話ですか?」

 席に着くなり園子の方から聞いてきた。

「えーと。実は・・・」

 西川が歯切れ悪くしていると、園子はしびれをきらしていたようだか、何故か笑顔を見せていた。

「どうせ、さやかのことですよね。」

 西川はその笑顔がどういう意味を持っているのかわからず戸惑ってしまい、出鼻をくじかれたことと相まって口ごもってしまと、その後の言葉がすぐに出せないでいた。

「まー、そうなんですけど。」

 何とか言葉を絞り出し、園子の顔を見て見ると、勝ち誇ったかの様な顔を園子はしながら、それでも目には微笑みを浮かべていた。 

「やっぱり。そうだと思いましたよ。私も店長に聞きたいことがあるんですけど。聞いてもいいですか?」

 園子は一転して鋭い眼差しになり、何か意味ありげな顔をして聞いてきたのだが、西川は予想もしなかった園子の言葉に戸惑い、さらにその表情を見て不気味さすら感じていた。

(なんだ。この子は? なんか今までと雰囲気が違うけど、どうしちゃったんだ。)

 短い時間で頭をフル回転させて考えたが、結局何も思い当たるふしはなく、恐る恐る小さな声で答えていた。

「何かな? よかったら前田さんからどうぞ。何でも聞いて下さい。」

「それじゃあ遠慮なく私から聞きますね。店長はさやかが子供の頃からの知り合いだったんですね。でも、さやかも店長もそのこと全然教えてくれなかったですよね。教えてくれる機会はいくらでもあったと思うんですけど、なんでなんでなんすか?」

(えっ、この子はなんでそんなこと知ってるんだ? なんでだ・・・?)

 西川は明らかに動揺した顔になり、部屋はさほど暑くはなかったのだが、額から汗が流れ落ち、背中にも冷たい汗を感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る